TOPICS

お知らせ・トピックス
コラム

ガイドラインから見る脳卒中後の麻痺手に対する練習量の意義

UPDATE - 2020.10.19

 

 

■抄録

 脳卒中後の上肢麻痺に対して練習量は回復の重要な因子と考えられている.しかしながら,機能改善には多岐にわたる因子が複雑に絡まっており,練習量の影響力を明確に示すことが困難である.その結果,多くのランダム化比較試験の結果の是非が一定でない状況がある.本コラムではガイドラインが示す練習量の意義について述べる.

 

 

■目次

1. 脳卒中後の麻痺手の練習量について
2. どの程度の練習量が必要か?
3. 実際練習量は上肢機能の改善を導くのか?

 

 

1. 脳卒中後の麻痺手の練習量について

 脳卒中後の麻痺手の機能改善には,リハビリテーションの強度(練習量)が必要と示唆した最初の介入研究として,米国にて実施されたC I療法に関する他施設共同研究であるEXCITEが挙げられる.EXCITEでは,患者一人当たりに196時間のアプローチが実施されているが,この中でもSchweighoferら1)は,閾値に達していなかった対象者は麻痺手の機能改善は少なく,非麻痺手を使用した代償的な行動パターンを取るようになると報告されている.

 

 

さて,では一般的に実施されているリハビリテーションにおいて,脳卒中後の麻痺手に対する練習時間はどの程度実施されているのであろうか.この点について,Langら2)は,一般的なリハビリテーションにおける麻痺手の機能練習の現状を調査した結果,一般的な脳卒中後の麻痺手に対するリハビリテーションのうち,徒手的な介入を含む機能指向型アプローチは49%,課題指向型アプローチは51%の内訳だったと報告している.さらに,1日あたりで実施されている平均の練習量は32回とされており,一般的なリハビリテーションにおける上肢麻痺に対する練習量は非常に少ないものとされている.

 

 

2. どの程度の練習量が必要か?

 結論から言うと,Maclallanら3)が示す通り,効果を得るために必要なリハビリテーションにおける練習量の臨界的な閾値を体系的に示した研究は見当たらない.ただし,動物を用いた基礎練習では,1セッションあたりの練習回数は250〜300回とされている.また、シュミレーションを用いた研究ではHanら4)が,1日の練習回数を420回と定義している.さらに,いくつかの臨床研究では,1日300回の練習回数では,回数を規定せずに実施した練習に比べ,優れた麻痺手の機能改善を示した研究もあれば5),差がないとした研究もあり7),結果のばらつきが見られる状況である.また,1日の練習量としては,最大600回実施した研究も1本認められ,回数を規定せずに実施した練習に比べ,有意な麻痺手の機能改善を認めている6).これらのように練習量においては,様々な検討がなされている状況で,明確な方針が示されていない.

 

 

3. 実際練習量は上肢機能の改善を導くのか?

 結論から述べると完全に結果は2分している.例えば,6本のランダム化比較試験では,従来の方法に加えて課題特異型アプローチ,実生活における麻痺手の使用を促すようなリハビリテーション,機能指向型アプローチを実施した群と,従来のリハビリテーションを比較した.その結果,両群間に有意な上肢機能の改善は認めなかったと報告している.一方,4本のランダム化比較試験では,より多くの練習時間を要するアプローチの方が従来のリハビリテーションに比べて有意に上肢機能が向上したとしている.これらの結果を受けて,Stroke rehabilitation clinician handbook 2020 7)においては,『通常リハビリテーションに追加で行う練習量が脳卒中後の上肢麻痺の改善に有効かどうかは明らかではない』とされている.

 

 

 では,どうしてこのように結論が2分するのだろうか.Verbeek 8)は,メタアナリスの中で,脳卒中後の麻痺手におけるより良い機能改善の要因として,練習の種類ではなく,練習量にあることを示唆した.しかしながら,上記のランダム化比較試験の結果を鑑みると,練習量以外にも,脳卒中後の麻痺手の機能改善に関わる未知の因子が含まれていると考える方が自然である.

 

 

ここからは,筆者の経験や思想に基づく話になるが,アプローチの種類によって,影響を与えうる因子が異なること,アプローチの準備段階である評価およびアセスメントが不正確である,病態解釈が不正確である,アプローチにおける課題の選定・難易度調整等・担当療法士のコミュニケーションの質が悪い場合に,練習量をいくら確保していたとしても良好な結果を得られないことを経験する.

 

 

ただし,研究において,これら未知の交絡因子をきっちり統制した上で練習量の比較検討を行うことは非常に困難が予測されるため,練習量が多い,少ないどちらが正義かを問う前に,対象者の状況に応じてできる限り『質の高い練習量』を確保する事が賢明であると思われる.

 

 

■引用文献

1、Schweighofer N, et al: A functional threshold for long term use of hand and arm function can be determined: Predictions from a comoutational model and supporting data from the Extremity Constraint-Induced Therapy Evaluation (EXCITE) Trial. Phys Ther  89:1327-1336, 2009

2、Lang CE, et al: Upper extremity use in people with hemiparesis in the first few weeks after stroke. J Neurol Phys Ther 31: 56-63, 2007

3、MacLellan CL, et al: A critical threshold of rehabilitation involving brain-derived neurotropic factor is required for post-stroke recovery. Neurorehabil Neural Repair 20:740-8, 2011

4、Han CE, et al: Stroke rehabilitation reaches a threshold. PLoS Comput Biol 4: e1000133, 2008

前の記事

竹林崇先生監修企画! 作業療法士卒後カリキュラム第2弾

次の記事

脳卒中後の肩関節の痛みについて