TOPICS

お知らせ・トピックス
コラム

脳卒中後の肩関節の痛みについて

UPDATE - 2020.10.26

 

 

■抄録

 本コラムでは、脳卒中後の肩の痛みについて、1)身体および環境的な観点から対処的に対応するアプローチと、2)感情・情動といった部分に焦点を当てた支持的アプローチの二つに分類と、感情・情動に関わる際,対象者がどのような想いを抱えているかについて解説を行う。

 

 

■目次

1. 脳卒中後の肩関節の痛みとは?
2. 『痛み』に対するアプローチの難しいところ
3. 脳卒中後の肩の痛みに関する一般的な対処的対応の現状
4. 支持的アプローチを行う際の対象者の感情・情動の実情
5. まとめ

 

 

1. 脳卒中後の肩関節の痛みとは?

 脳卒中後に生じる深刻な問題の一つに、肩関節の痛みがある。ある研究者の調査では、脳卒中発症から2年程度経過した時点で、肩関節の痛みに関する病態生理としては、肩関節に関わる複合性局所疼痛症候群(Complex regional pain syndrome: CRPS)、侵害需要性疼痛(nociceptive pain)、が挙げられている1)。また、複数の研究者は、慢性的な痛みは、生活のあらゆる側面に支障をきたし、ストレスの根源にものなるとも報告している2)、3)。つまり、脳卒中後の肩の痛みは、一過性ではなく、慢性的に対象者の生活を侵食するものである。さて、それらの慢性疼痛に対して、どのようなアプローチが世の中では推奨されているのだろうか。過去の研究を紐解くと1)、1)身体および環境的な観点から対処的に対応するアプローチと、2)感情・情動といった部分に焦点を当てた支持的アプローチの二つに分類がなされている3)、

 

 

2. 『痛み』に対するアプローチの難しいところ

 『痛み』とは主観的なものであり、外側からはなかなか正確な理解がなされない孤独なものである。特に対象者のストレスに拍車をかけるものが、専門家であるはずの医療従事者から提供される「診断の不確実性」、「不十分な治療」、さらに「医療従事者や家族の痛みの存在に対する理解不足」に対処することが挙げられる2)。
 だからこそ、脳卒中後の長期的な痛みなどは、心理的なストレスに対処するための戦略について、多くの知識が必要とされている。それは、痛みを感じる対象者本人だけでなく、対象者と時間や空間を共有する家族や友人など、周囲の人間にも理解がなされた方が望ましい。

 

 

3. 脳卒中後の肩の痛みに関する一般的な対処的対応の現状

 脳卒中後の肩の疼痛に対しては、複数のアプローチが考案・試作されている。上記に示ししたように、1)身体および環境的な観点から対処的に対応するアプローチと、2)感情・情動といった主観の部分に焦点を当てたアプローチ、に分けることができる。まずは,1)について、どのようなアプローチがあるのか、簡単に解説を行う。Wilsonら4)は、肩の慢性的な痛みに対して末梢電気刺激療法の効果を調べるために、電気刺激療法を実施した群(三角筋に対する埋め込み式の電極)と従来の理学療法を実施した群にランダムに割付け、比較検討を行っている。この結果、従来の理学療法を実施した群に比べ、電気刺激療法を実施した群の方が有意にかつ大幅な改善みを認めたと報告している。

 

 

 次に脳卒中後の肩の疼痛について、テーピングを実施した研究をリサーチし、レビューの基準に合致した8つの研究にたいし、システマティックレビューを実施している。8つの研究のバイアスチェックでは不十分なものから十分なものまで含まれていた。これらの分析の結果、この研究では、テーピングは肩の痛みの発症を遅らせる可能性はあるものの、効果に対しては不明な点が多く結論が出ないと報告している5)。これらのように、1)身体および環境的な観点から対処的に対応するアプローチに分類される研究では、まだまだ研究数が少なく、明確な指標がないような状況であることが解る。

 

 

4. 支持的アプローチを行う際の対象者の感情・情動の実情

 脳卒中後の肩の痛みに対して、Lindgrenら6)は、対象者がどのような想いを抱えているのかについて調査をし、以下のように分類している

 

 

1)多角的な特徴の痛み
 ジワジワと広がる痛みで、その質の説明も多彩で変容するもの、痛みは時と場合、状況によって常に変化する、との訴えが多かった。また、痛みに対して医療者から具体的な説明を受ける事ができなかったという不満も多くの対象者から認められた。

 

 

2)痛みによる制限

日常生活や社会生活において制限を強いられると多くの対象者から発言があった.仮に動作や活動が自立していても、その遂行に時間を要し、料理や食事中に痛みがあり、活動に集中できなかった、痛みのために他人との付き合いを控えている、と言った制限が示されている。また、痛みに対して感情的な反応を認め、多くの場合で希死念慮や感情の起伏が激しくなる、などの発言を認めたと報告した。

 

 

3)様々な効果を及ぼす痛みに対するアプローチ方法について
 様々な痛みに対する介入の実情と効果に関する興味が示された。多くの参加者が、軽い腕の体操や、温室プールでの軽いウォーキングなどを実施していた。また、少数の対象者は、コールドトリートメント,マッサージ,コルチコイド注射,筋力トレーニング、装具、電気刺激療法、針治療を試行していた。なお、鎮痛剤については、多くの対象者が慎重で、し効率は約半数にとどまっていたと示されている。

 

 

4. まとめ

痛みは非常に複雑な病態であり、様々な研究が進められている。今回は、感情・情動といった主観の部分に焦点を当てたアプローチを実施する際に、対象者がどのような想いを持っているかについて、まとめた。医療者が思っている以上に痛みに対する想いは深刻であり、より支持的な関わりが必要だと思われた。

 

 

■引用文献

1、Widar M, et al: Long-term pain conditions after a stroke

J Rehabil Med 34 : pp. 165-170, 2002

2、Katz J, et al: Coping with chronic pain. Zeidner M, et al (Eds.), Handbook of coping: theory, research, applications, John Wiley & Sons, Inc, New York: pp252-278, 1996

3、Lazarus RS, et al: Stress, appraisal, and coping. Springer Publishing Company, Inc, New York: pp141–180, 1984

4、Wilson RF, et al: Peripheral nerve stimulation compared with usual care for pain relief of hemiplegic shoulder pain: a randomized controlled trial. Am J Phys Med Rehabil 93: 17-28, 2014

5、Caroline A, et al: Shoulder strapping for stroke-related upper limb dysfunction and shoulder impairments: Systematic review. NeuroRehabil 35: 191-204, 2014

6、Lindgren I, et al: Shoulder pain after stroke- experiences, consequences in daily life and effects of interventions: a qualitative study. Disability and rehabil 40: 1176-11822, 2018

前の記事

ガイドラインから見る脳卒中後の麻痺手に対する練習量の意義

次の記事

脳卒中後の上肢麻痺における予後予測に関するエビデンス