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脳卒中後の上肢麻痺に対する筋力トレーニングの効果

UPDATE - 2020.11.9

 

 

■目次

1. 脳卒中後上肢麻痺に対する反復的なレジスタンストレーニング
2. 反復的なレジスタンストレーニングの実際
3. レジスタンストレーニングのエビデンス

 

 

1. 脳卒中後上肢麻痺に対する反復的なレジスタンストレーニング

 脳卒中後の上肢麻痺に対して,様々なアプローチ方法が考案されている.特に有名なものの中に,反復的に麻痺手を随意的に使用するConstraint-induced movement therapy(C I療法)がある.また,同じように反復的に麻痺手を随意的に使用する方法に,ロボット療法等も挙げられる.これらのアプローチ方法を鑑みると,反復的に麻痺手の随意運動を引き出すことで,上肢の機能改善が得られる可能性がある.

 

 

 さて,古典的なリハビリテーションの手法において,反復的に麻痺手の随意運動を必要とする練習にレジスタンストレーニングがある.この練習方法は,ある程度の抵抗に抗するように随意的に麻痺手を運動するアプリーチの事を指す.本コラムでは,反復的なレジスタンストレーニングに関するエビデンスについて,先行研究を挙げつつ述べていく.

 

 

2. 反復的なレジスタンストレーニングの実際

 Bütefischら1)は,ケースコントロール研究において,27名の生活期の脳卒中後片麻痺患者を対象に,様々な負荷量をかけたレジスタンストレーニングを1日2回,各15分間に,麻痺手の各関節運動に対して実施した.その結果,握力,最大等尺性手指伸展筋力,最大等尺性手指収縮速度,において,介入前後で有意な改善を認めた.一方,対照群として設定したボバースコンセプトを基盤としたアプローチにおいては,上記にあげた末梢筋群を直接強化することはなく,介入前後で手指機能の有意な改善は認めなかったと報告している.

 

 

また,Winsteinら2)は,脳卒中発症後1ヶ月以内の亜急性期の対象者64名において,通常のケアを実施する群,課題指向型アプローチと通常ケアを実施する群,レジスタンストレーニングと運動制御練習を実施する群の3群に分け比較見当を行っている.レジスタンストレーニングを実施した群は,求心性・等尺性・遠心性収縮のいずれかを促す形で行った.遠心性収縮に関しては,必要に応じて重力を軽減した姿勢で行った.さらに,これらのレジスタンストレーニングは,フリーウェイト,セラバンド,手指筋力向上のためのグリップデバイスを用いて行われた.また,トレーニング中に筋緊張が明らかに上昇した場合は,トレーニングを短期中断し,リラクゼーション等は行わず,安静により筋緊張が低下した後,トレーニングを再開した.レジスタンストレーニングは週3回実施し,他の日には抵抗を落とし,スピードを向上した上で,麻痺手の随意的な反復練習を実施した.各群の練習時間は,4〜6週間に20時間実施された.この研究の結果,課題指向型アプローチと通常ケアを行った群とレジスタンストレーニングを行った群は,通常ケアを行った群に比べ,有意なFugl-Meyer Assessmentの上肢項目(FMA)における改善を認めた.なお,この両群のFMAの改善具合は,通常ケア群の約2倍であったと報告された.なお,介入後9ヶ月の長期効果では,特に重度の上肢麻痺を呈した患者において,課題指向型アプローチを実施した群がレジスタンストレーニングを行った群に比べ,有意な改善を認めたとされている.

 

 

3. レジスタンストレーニングのエビデンス

 麻痺手の機能に合わせ漸増的な負荷量を設定したレジスタンストレーニングは,Harrisら3)のシステマティックレビューにおいて,脳卒中後の麻痺手の筋力,機能,日常生活活動のパフォーマンスに関して,有意な効果があったと述べている(SMD=0.95, 95%信頼性 0.05〜1.85).また,Stroke Rehabilitation Clinician Handbook 2020において,運動機能(6つのランダム化比較試験から1a),手指機能(2つのランダム化比較試験1b),日常生活活動(2つのランダム化比較試験1b),痙縮(2つのランダム化比較試験1b),ROM(4つのランダム化比較試験1a),筋力(3つのランダム化比較試験11)とされている.また,結論としては,レジスタンストレーニングは,麻痺手の運動機能や可動域を改善する可能性があるが,手指機能および痙縮を改善させることはない.また,日常生活活動および筋力については,論文によりばらつきがあり,効果が一定ではない,とされている.これらを鑑みると,脳卒中後の上肢麻痺において,レジスタンストレーニングは一定以上のエビデンスが存在し,有効は選択肢の一つであると思われた.

 

 

■引用文献

1、Bütefisch C, et al: Repetitive training of isolated movements improves the outcome of motor rehabilitation of the centrally paretic hand. J Neurological Sci 130: 59-68, 1995

2、Winstein CJ, Rose DK, Tan SM, Lewthwaite R, Chui HC, Azen SP. A randomized controlled comparison of upper- extremity rehabilitation strategies in acute stroke: a pilot study of immediate and long-term outcomes. Arch Phys Med Rehabil ; 85(4):620-628, 2004

3、Harris JE, et al. Strength training improves upper-limb function in individuals with stroke: a meta-analysis. Stroke 41(1):136-40, 2010

4、Teasell, R., Hussein, N., Viana, R., Madady, M., Donaldson, S., Mcclure, A., & Richardson, M. Stroke rehabilitation clinician handbook. London, ON: Evidence-Based Review of Stroke Rehabilitation, 2020

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