療法士になって5年目は、療法士としてのターニングポイントとしても意味がありますが、30歳を直前に迎えた、人生のターニングポイントとなる時期かもしれません。1年目から将来を見据え、コツコツ努力と研鑽を続けてきた人は、外部から評価され、組織以外のところでの露出が増えることや、組織内でも要職を任されるかもしれません。つまり、積んできた経験が華咲く時期となる方も多い印象です。しかしながら、自身にも脂が乗り、職場でも一目置かれ始めたこの頃に落とし穴となるのが、『自身が実施している頑張りを、他人にも無償で求めてしまう(相手の状況や能力に合わせず、厳しく要求してしまう)』、『自身に自信が出て来た反面、他者を安易に否定してしまう』等の副作用ではないでしょうか。これは、今のご時世、本当に気をつけなければなりません。自身では当たり前の教育的指導と思って投げかけた指導や言葉が相手を傷つけ、それによって相手の人生を台無しにしてしまうかもしれません。さらに、相手が『パワーハラスメントを受けた』と証言すれば、あなたの療法士人生にも大きな悪影響を及ぼすはずです。自身が歩んできたキャリアの中で、その時々で自身はどのように過ごしてきたか、何を意識して働いていたか、どんな辛い想いをしたのか、その点をしっかり振り返り、相手の視点に立っての指導や言葉が必要になります。せっかくの善意が相手もひいては自分もを傷つけるとは本末転倒ですから。
一方、今まで療法士として、日々の業務や研鑽等において、自分が思い描くような成果を残せず、後悔が残っている方にとっては、それらをやり直す最後のチャンスになるかもしれません。その理由としては、30歳を超えてくると『自分に使える時間が年齢を重ねる度に少なくなる事』と『年齢を重ねる事で体力的な問題により、集中できる時間そのものが減退する』、『周囲が過去に実施していた研鑽を行う事をプライドが許さない』などの理由が挙げられると筆者は考えています。
さて、『人間はいつからでも行動すれば変化できる』とは言いますが、経験年数が過ぎていく度に、上記の理由によって、その難易度は上がっていくと個人的には思っています。『自分に使える時間が年齢を重ねる度に少なくなる事』についてですが、これは自身が結婚し、子供ができた場合に育児に割く時間が必ず必要になります。また、両親が高齢だった場合には介護などに参画する必要があるかもしれません。正直、自分一人のために使える時間が保証されている期間はそれほど長くありません。そう考えると5年目である30歳直前のこの時期が、自由に自分の研鑽や将来への投資として時間を使える最後のチャンスかもしれません。
次に、『年齢を重ねる事で体力的な問題により、集中できる時間そのものが減退する』ことについてです。加齢が副交感神経系に与える影響が30歳代以降大きな影響を与えると言われています。基本的に10歳代、20歳代に比べると明らかに体力的に仕事や研鑽等に使える時間が物理的に減っていくこととなる事が予測されます。そう言った背景から、物理的に多くの時間を自分の研鑽に使える最後のチャンスとなることは確実です。ですから、30歳まであと、数年の猶予を残した5年目のこの時期が、研鑽し、自身の自信と客観的な価値を想像できる最後の年代になるかもしれません。
そして、最後に『周囲が過去に実施していた研鑽を行う事をプライドが許さない』という問題があります。自分自身は努力すれば、行動を変えればいつでも変われるかもしれません。しかしながら、周囲の努力や行動は、自分自身が制御できるものではありません。これが何を意味するかというと、早い人であれば、1年目から積み重ねてきた研鑽が実を結び、外部から登用されることや、人前にてレクチャーを行う人が出てくるかもしれません。ただし、5年の研鑽では、どれだけ早く成果をあげた個人ですらスタート地点に立ったばかりの人がほとんどです。ただし、これが8年目、10年目となるとその割合は大きく増え、彼らとの差は大きくなるばかりです。そうなってしまうと開いてしまった差は大きく、それらを縮めようにも、非常に多くの努力が必要ですし、努力をしても比較的早期に実を結ばなければ、学習性無力感を呈して、行動は元に戻ってしまう可能性も高くなります。また、年数を積み上げれば積み上げるほど、年齢も高齢化し、柔軟性に欠けることから、長い就労期間に由来するプライドがあなたの行動を阻害するかもしれません。
つまり、職業的に仮になりたい自分というものがあるとするならば、それらを実現させるための最後の挑戦のチャンスとして、5年目があげられるかもしれません。