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急性期におけるConstraint-induced movement therapy

UPDATE - 2020.5.2

■抄録

本コラムでは,脳卒中後の上肢麻痺に対するリハビリテーションの一つとして有名なConstraint-induced movement therapy(CI療法)の効果について,脳卒中発症後急性期といった病期や練習強度が結果に与える影響について論述する.

 

 

■目次

1.急性期のConstraint-induced movement therapyの現状
2.急性期のC I療法が害とされたエビデンスとメカニズム
3.他の急性期におけるCI療法の効果

 

 

1. 急性期のConstraint-induced movement therapyの現状

 急性期のConstraint-induced movement therapy(C I療法)の効果については,議論が分かれるところである.生活期の脳卒中患者を対象に開発,発展してきたCI療法であるが,2000年ごろから急性期の脳卒中患者に対しても検証が行われ始めた.その結果,2009年のDromerickら1の行なったランダム化比較試験であるVECTERSの結果を引用して,『CI療法を急性期で実施した場合,上肢麻痺の予後が悪くなる』といった主張を行うものが多くみられた.確かに,Dromerickら1の研究の内容の『一部』を鑑みればそのような解釈にもなりうるのだが,そういった極端な主張は事実とは異なる部分が認めらえる.本稿では,急性期におけるCI療法を取り巻く現状について,多角的な視点から解説を行うこととする.

 

 

2. 急性期のC I療法が害とされたエビデンスとメカニズム

 では,Dromerickら1の論文について,詳細な解説を行う.対象者は脳卒中発症から平均で9.7±4.6日が経過した対象者であり,おおよそ脳卒中後に身体状況が安定する14日以内の対象者である.彼らの研究では,これらの対象者をランダムに分けた後に,1)高強度CI療法群:1日3時間の療法室における課題指向型練習と1日の起床時間の90%以上の非麻痺手の拘束を行なった群,2)低強度CI療法群:1日2時間の療法室における課題指向型練習と1日の6時間の非麻痺手の拘束を行なった群,3)対照群:1時間のActivity of daily living(ADL)再獲得練習,1時間の両手動作練習,をそれぞれ行なった.その結果,麻痺手の運動障害を測るAction Research Arm Test(ARAT)の全点数(図1)とピンチ機能,脳卒中患者のQuality of lifeを測るStroke Impact Scaleの手と上肢の項目(図1)において,低強度CI療法群と対照群が高強度CI療法群に比べ,3ヶ月後の予後が良好であったことを示した.

 

 さて,高強度CI療法の結果が低強度CI療法および対照療法に比べ,結果が悪化した要因について,Dromerickら1は考察において,齧歯類の非損傷側の前肢を拘束すると病変の拡大が生じるとされている(30.これは麻痺手の運動強度に関わる興奮毒性と推定されており(31,麻痺の運動障害の回復の低下の要因と関連しているとも言われている.ヒトによる研究は未だなされていないものの,齧歯類の研究から以上のような推定がなされている.

 

 

 

 

3. 他の急性期におけるCI療法の効果

 Liuら5は,急性期・亜急性期のCI療法におけるランダム化比較試験を行なった論文16本を対象にメタアナリシスを実施している.メタアナリシスやシステマティックレビューでは,ランダム化比較試験がどの程度正確に実施されたかをチェックするためにrisk of biasをチェックする.この研究で採択された研究は,多くのものが実行バイアス(療法士と対象者に対する群の割付・提供/受診しているアプローチ方法に関する盲検化がなされていない)に若干の問題を抱えており,プラセボの効果の排除に不十分さは残る.ただし,この点については,リハビリテーション領域ではある程度限界もあるのも事実である.従って,この研究の結果について論述する.

 

 ARATに関して,高強度CI療法の研究2本,低強度CI療法の研究4本が検討されている.Zhangら6,Dromerickら1高い強度の研究では,効果の結果が2分しており,かつZhangら6の対象者は発症から3ヶ月未満の対象者を採択しているため,やはり高強度CI療法の急性期利用には,何かしら未知の問題を疑う結果となっている.一方,低強度C I療法の研究では,要約統計量の重み付け平均値の95%信頼性がDromerickら1の検討で0.45~16.55,その他の研究ではDromerickら7が3.32~8.43,El-Helowら8が13.19~20.92,Pageら9が10.57~17.37となり,効果が正の同一方向にある程度偏移している傾向がある.これらの結果を鑑みると,現段階では強度(この場合の強度は練習時間を指している)をコントロールすることができれば,急性期の脳卒中患者の上肢麻痺に対するアプローチとして,効果が保証されていると思われる.

 

 療法士が臨床において,論文から知識を得ることは非常に重要な手続きである.しかしながら,いくらエビデンスレベルが高い研究法であるランダム化比較試験であってもその設定や条件により,結果が大きく揺れることがある.1つの論文に準拠した論理構成を立てるとこういった落とし穴にはまり,正確な事実を見失うことがある.よって,複数論文から事実を導き出すトレーニングは重要であると思われる.

 

 

■動画資料

 

 

■謝辞

 本コラムは,当方が主催する卒後学習を目的としたTKBオンラインサロンの受講生に校正のご協力をいただきました。心より感謝申し上げます。

 

 

■執筆者

竹林崇 先生
作業療法士
大阪府立大学
地域保健学域 総合リハビリテーション学類
作業療法学専攻 教授

 

 

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■引用文献

1、Dromerick AW, et al: Very Early Constraint-induced movement during stroke rehabilitation (VECTORS). A single-center RCT. Neurology 73: 195-201, 2009

2、Kozlowski DA, et al: Use-dependent exaggeration of neuronal injury after unilateral sensorimotor cortex lesions. J Neurosci 16:4776–4786, 1996

3、Humm JL, et al: Use-dependent exaggeration of brain injury: is glutamate involved? Exp Neurol. 157:349–358, 1999

4、Bland ST, et al: Early exclusive use of the affected forelimb after moderate transient focal ischemia in rats: functional and anatomic outcome. Stroke 31:1144–1152, 2000

5、Xi-hua Liu, et al: Constraint-induced movement therapy in treatment of acut and sub-acute stroke: a meta-analysis of 16 randomized controlled trials. Neural Regen Res 12: 1443-1450, 2017

6、Zhang ZC, et al. Impacts of the modified constraint-induced movement therapy on the upper limb function in acute cerebral apoplexy. Shijie Zhongxiyi Jiehe Zazhi. 2011;6:41–44.

7、Dromerick AW, et al. Does the application of constraint-induced movement therapy during acute rehabilitation reduce arm impairment after ischemic stroke? Stroke. 2000;31:2984–298

8、El-Helow MR, et al. Efficacy of modified constraint-induced movement therapy in acute stroke. Eur J Phys Rehabil Med 51:371–379, 2015

9、Page SJ, et al. Modified constraint-induced therapy in acute stroke: a randomized controlled pilot study. Neurorehabil Neural Repair 19:27–32, 2005

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