TOPICS

お知らせ・トピックス
竹林崇先生のコラム

不全脊髄損傷に対するConstraint-induced movement therapyの現在

UPDATE - 2020.10.1

 

 

■抄録

脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチとして,Constraint-induced movement therapy (CI療法)がある.従来は脳卒中後の病態に対するアプローチとして開発されているが,近年は様々な疾患に応用されている.具体的には,脳性麻痺や多発性硬化症等が挙げられる.本コラムでは,不完全脊髄損傷に対し,CI療法を実施し,上肢機能評価であるBox and Block Testにおいて,最小可検変化量(Minimal detectable change)を超える変化を認めたケースレポートについて紹介する

 

 

■目次

1. 不完全脊髄損傷に対するCI療法について
2. 不完全脊髄損傷の現在

 

 

1. 不完全脊髄損傷に対するCI療法について

脳卒中後の上肢麻痺に対するエビデンスが確立されたアプローチの一つとして、Constraint-induced movement therapy(CI療法)がある.このアプローチは,1)麻痺手の集中練習,2)反復的課題指向型アプローチ,3)練習内において獲得した麻痺手の機能改善を実生活にて転移するための行動心理学的アプローチ(Transfer package),といった3つのコンセプトを含むものと定義されている1).

 

 

このアプローチは,脳卒中後に生じる上肢麻痺に対する介入方法として開発されたが,そのエビデンスが注目され,様々な中枢神経系の疾患に流用されている.例えば,脳性麻痺や多発性硬化症等の脳および脊髄に損傷を呈した対象者に対しても,一定の効果をあげている.さて,ここで中枢神経系の代表的な疾患として,脊髄損傷が挙げられる.この疾患は,脊髄損傷により,損傷部位以下の感覚・運動機能が完全に失われてしまう完全脊髄損傷と,感覚・運動が部分的に残存している不完全脊髄損傷が挙げられる.特に,不完全脊髄損傷患者の大部分が感覚および運動の障害により,上肢機能が低下し,自立した日常生活活動を行うための能力が低下し,それらに起因してQuality of lifeの著しい低下を認めるとも言われている2).

 

 

 これらの背景から,不完全脊髄損傷におけるCI療法の現状と実際について,本稿では触れてみようと考えている.

 

 

2. 不完全脊髄損傷の現在

 不完全脊髄損傷に対するCI療法の報告は極めて少なく,Kimら3)によって,生活期の対象者におけるケースレポートが報告されているのみであった.該当するケースレポートでは,運動障害がC6以下,感覚障害がC4以下に存在するAmerican Spinal Injury Association(ASIA)の分類にてDである35歳の中心性の不完全脊髄損傷を対象としていた.また,韓国語版のMini-mental stage examination(MMSE)にて29/30点と認知機能は十分に保たれ,自立歩行も可能であった.上肢機能は左右差があり,特に弱い左上肢も,手首の20度,MP関節の10度の動きを随意的に出現させる事が可能で,物品の持ち離しが可能であった.

 

 

 CI療法の介入は,1日3〜4時間,右上肢にミトンを装着し,左上肢に集中練習を行い,それらに加えて,1日1時間経度ながらも不全麻痺を呈していた右上肢に対するアプローチと日常生活動作におけるスキルトレーニングも兼ねて,両手動作により課題指向型アプローチを実施している.両手動作による課題指向型アプローチでは,コップに水を注ぐ,タオルを畳む,ボタンを留める,シャツの着脱,タオルを畳む,窓を拭くと言った活動に焦点を当てた課題が選択されている.

 

 

 これらの結果,左上肢のManual function scoreは28点〜30点,Box and Block Testは47.7点から54点と変化があった.また,Spinal Cord Independence Measure Version III は95点から97点に上昇し(上半身の入浴における効率性と屋外歩行),Short form 36においても74点から77点に向上を認めた.ちなみに,上肢機能を示すBox and Block testの最小可検変化量(Minimal detectable change)は5.5点と設定されているので,誤差以上の変化を認めたということになる.

 

 

 これらの結果から,不完全脊髄損傷においても,CI療法によるアプローチは誤差以上の変化をもたらす可能性が示唆された.病態としては,不完全脊髄損傷は,脊髄病変があるという点では,脳卒中よりも多発性硬化症の方が近い可能性があり,随意性が担保されている条件下で,C I療法を用いた上肢機能アプローチは,脊髄病変を有する症例に対しても利用できる可能性が示唆された.

 

 

■引用文献

1、Morris DM, et al: Constraint-induced movement therapy: characterizing the intervention protocol. EURA Medicophys 42: 257-268, 2006

2、Spooren AI, et al. : Outcome of motor training programmes on arm and hand functioning in patients with cervical spinal cord injury according to different levels of the ICF: a systematic review. J Rehabil Med 41: 497–505, 2009

3、Yeon-Ju Kim, et al: Effects of modified constraint-induced movement therapy and functional bimanual training on upper extremity function and daily activities in a patient with incomplete spinal cord injury: a case study

4、Chen HM, et al: Test-retest reproducibility and smallest real difference of 5 hand function tests in patients with stroke. Neurorehabil Neural Repair 223: 435-440, 2009

前の記事

Constraint-induced movement therapy(CI療法)において環境因子が小児例に与える影響

次の記事

脳卒中後上肢麻痺に対する装具療法のエビデンス