TOPICS

お知らせ・トピックス
コラム

脳卒中後上肢麻痺に対する装具療法のエビデンス

UPDATE - 2020.10.6

 

 

■抄録

脳卒中後の上肢麻痺に対して,伝統的な手法の一つに,装具療法がある.装具療法は,1)痙縮の軽減,2)痛みの軽減,3)機能的なアウトカムの改善,4)変形の予防、5)浮腫の予防,6)筋力増強,などの目的をもって利用される.本コラムでは、装具療法がそれらに与えるエビデンスについて解説を行う.

 

 

■目次

1. 脳卒中後の装具療法を取り巻く環境
2. 脳卒中後の上肢麻痺に対する装具療法のエビデンス
3. 従来の装具の使用方法と今後予想される装具療法の展開

 

 

1. 脳卒中後の装具療法を取り巻く環境

 装具とは,疾患や外傷により身体の機能が低下したり,失われた際に,その機能を補ったり,欠損部位を補ったり,保護したり,サポートするために装着する福祉用具である.装着する部分や使用目的によって様々な種類があり,その目的に応じて医師が処方を出し,義肢装具士や作業療法士が作成・装着・適応を行うものである.

 

 

 その装具であるが,脳卒中後の上肢麻痺に対しても使用される.脳卒中後の上肢麻痺に対する一般的な装具は,手首・手指に対する装具・スプリントが多くを占め,静的装具およびダイナミックスプリント,動的装具(Saebo-Flexやスパイダースプリント,カペナースプリント等)が挙げられる.また,脳卒中後の上肢麻痺に対する装具の使用目的は,1)痙縮の軽減,2)痛みの軽減,3)機能的なアウトカムの改善,4)変形の予防、5)浮腫の予防などが挙げられる.

 

 

2. 脳卒中後の上肢麻痺に対する装具療法のエビデンス

 代表的なシステマティックレビューでは,Tysonら1)の研究が有名である.脳卒中後の上肢麻痺に対する装具療法の効果について調査されており,126名の被験者を対象とし,4つのランダム化比較試験の結果を示している.この結果,上肢機能,上肢の各関節の可動域,疼痛,痙縮の指標に関連する治療効果は小さく,統計学的に有意な差はなかったと報告した.さて,それでは上記にあげたカテゴリーに筋力増強を加えた6つのカテゴリーにおけるエビデンスレベルについてStroke Rehabilitation Clinician Handbook 2020 2)における内容を以下に示す.

 

 

  • 脳卒中後の上肢麻痺に対する装具療法の効果として,上肢の運動機能については,5つのランダム化比較試験の結果から1aのエビデンスレベルをもってして,効果がないことが示されている
  • 手指の運動機能については,2つのランダム化比較試験の結果から,1bのエビデンスレベルをもってして,効果がないことが示されている
  • 日常生活活動については,4つのランダム化比較試験の結果から1aのエビデンスレベルをもってして,効果がないことが示されている
  • 痙縮については,7つのランダム化比較試験の結果から1bのエビデンスレベルをもってして効果がないことが示されている
  • 関節可動域については,5つのランダム化比較試験の結果から1aのエビデンスレベルをもってして,効果が証明されているとされている
  • 筋力増強効果に関しては,2つのランダム化比較試験の結果から1bのエビデンスレベルをもってして,効果がないことが示されている

 

 

3. 従来の装具の使用方法と今後予想される装具療法の展開

 上記にあるように,現在,脳卒中後の上肢麻痺に対する装具療法の効果については,関節可動域の改善以外はほとんど『効果がない』ことが示されている.ただし,装具を着用することにより,良肢位を確保することで,関節可動域や痙縮の軽減,それらに伴う上肢の機能改善を目的としているものが多い.つまり,脳卒中後の上肢麻痺における積極的な機能改善を促すと言うよりは,疾患やそれに伴う身体の変形を予防する福祉用具としての役割が非常に強い印象がある.

 

 

 しかしながら,昨今装具の利用方法に少しずつ変化が見られている.従来の装具の使用方法が予防的なものに対し,エビデンスが確立されている運動療法である課題指向型アプローチやConstraint-induced movement therapy(CI療法)を実施可能とするために,それらのリハビリテーション手法を実施するために必要な麻痺手の手指・手関節の伸展を補助するいわば機能的装具の位置づけで使用するアプローチが散見されている.

 

 

 例えば,Farrellら3)は,13名の生活期の脳卒中患者を対象に手指の伸展を補助するSaebo Flexを用いて課題指向型練習を1日6時間,5日間実施した.その結果,Fugl-Meyer Assessmentの有意な改善(約5点)を認めている.さらに,Boniferら4)も,手指の伸展が乏しい生活期の脳卒中患者に対して,1日6時間10日間のCI療法を実施し,介入の前後で有意な上肢機能の改善(約6点)を認めている.このように,近年は手指の伸展不足を補う形で装具が利用され,エビデンスが確立されている運動療法を可能とし,結果を出す研究も増えている.もしかすると,5年後,10年後の装具療法の立ち位置は今と変わっている事もあるかもしれない.

 

 

■引用文献

1、Tyson SF, Kent RM. The effect of upper limb orthotics after stroke: a systematic review. NeuroRehabilitation 28(1):29-36, 2011

2、Teasell, R., Hussein, N., Viana, R., Madady, M., Donaldson, S., Mcclure, A., & Richardson, M. Stroke rehabilitation clinician handbook. London, ON: Evidence-Based Review of Stroke Rehabilitation, 2020

3、Farrell, et al. Orthotic aided training of the paretic upper Limb in chronic stroke: Results of a phase 1 trial. NeuroRehabilitaiton 22: 99-103, 2007

前の記事

不全脊髄損傷に対するConstraint-induced movement therapyの現在

次の記事

外骨格型の下肢に対するロボット療法について