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予後予測の重要性について

UPDATE - 2021.6.2

1,予後とは


予後とは,疾患や症状,障害に対する医学的な今後の見通しに関する,経験や科学的な証拠(エビデンス)に基づいた見解,を意味する言葉である.PubmedやMedline等で検索する際には,英語でその意味を持つ「Prognosis」という言葉を使用するのが一般的である.例えば,医療現場で,医療者がよく口にする言葉で,「予後が良い,予後良好」という言葉は,対象となる疾患や障害の今後の見通しが良いことを指す.逆に,「予後が悪い,予後不良」という言葉は,それらの見通しが悪いことを指す.また,上記のように白黒はっきりさせるような表現ではないものの,「比較的予後が良好である(不良である)」という言葉も医療者の間でよく使用されるが,これは類似する疾患の中で比べると予後が良い場合や,予後を予測した研究に比べて,眼前の対象者の予後が良好だった場合に,使用されることが多い印象がある.

さて,前述したとおり,予後という言葉が,疾患や症状,障害といったように多種多様な対象に使用される言葉であることから,それらの見通しの対象も当然のように異なる.例えば,ヒトの命に関わる疾患(難病指定されている神経筋疾患,悪性度合いの高い癌や,重症心疾患・呼吸器疾患等の内部障害疾患)などでは,生命予後という言葉がよく使われ,○年生存率等の生存期間を示すことが多い.一方,同じ医療においても,精神疾患等においては,命の危険に対してというよりも,対象者が社会でどのような状況に到達するのか,すなわち社会的な予後(帰結)に対する意味を持つことも多い.リハビリテーション領域においては,生命予後に関する視点は,リハビリテーションの対象となる障害の原因疾患に対しては生じる思考として,臨床現場において使用する場面も少なくない.しかしながら,リハビリテーション領域に多くの場合で,予後とは,対象となる障害の「機能予後」や対象者自身がどのような社会に復帰し,どのような生活を送るかといった「社会的予後帰結」に対して用いられることが多い印象がある.


2,リハビリテーション場面における予後予測


 リハビリテーション領域において,予後予測の必要性は,2つの観点から,非常に重要となる.まず,1点目は,リハビリテーションプログラムを開始するにあたって,リハビリテーションに関わる多職種の間で,妥当性に富んだ共通のリハビリテーションゴールを設定する必要がある.このために,チームに所属する個々が個別で抱える経験を頼りにするだけでなく,科学的なエビデンスに則った予後予測を行う必要性が述べられ,脳卒中治療ガイドライン2009年には,「リハビリテーションプログラムを実施する際,日常生活動作,機能障害,患者属性,併存疾患,社会的背景などを元に,機能予後,在院日数,転帰先を予測し,参考にすることが勧められる(グレードB)」,「既に検証の行われている予測手段を用いることが望ましく,その予測精度,適応の限界を理解しながら使用すべきである(グレードB)」とされている1).さらに,2015年の分類においても,予後に関するエビデンスのレベルに関して言及されている2).


 次に2点目としては,対象者に関わる多くの人に対して,その後の対象者の人生に関わる情報提供においても,予後予測が必要になる.リハビリテーションに関わる専門家は,多くの場面で,対象者自身,家族,医療・介護チームの構成員,さらには,対象者のケースワーカー・ケアマネージャー,対象者の職場関係者等の方から,「この障害はいつまで続くのか?」「回復を遅らせる要因は何か?」「最終的にはどのような状況に至るのか?」「仕事にはいつ復帰できるか?そもそも復帰できるのか?」といった重要な質問を受けることある.これらの質問に対する答えは,対象となる障害の臨床経過や過去の専門家自身の経験,さらには科学的なエビデンスから決定されることになる.また,特に情報提供としての予後に関わる情報としては,対象となる疾患や障害の1)反応性(何らかの改善や悪化に対するエビデンス),2)寛解性(対象となる疾患や障害が検出されなくなる可能性),3)再発の可能性(寛解後に再び対象となる疾患や障害が検出される可能性),4)持続する期間(何らかの治療的介入を受けた場合に経過やその期間に影響を与えるかどうか),等が含まれると言われている3).

3,まとめ


 リハビリテーション領域において,2側面から予後予測が必要な理由について解説を行った.Evidence based practice等をはじめとした,科学に基づいたリハビリテーションを実施していくためには,重要な概念の一つである.予後予測の知識を念頭に置きつつ,再現性の高いリハビリテーションに従事することが必要になる.


<参考文献>

1,中馬孝容. “脳卒中治療ガイドライン.” The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine 48.2 (2011): 117-120.
2,大木宏一; 髙橋愼一; 鈴木則宏. 脳卒中治療ガイドライン 2015. 日本内科学会雑誌, 2017, 106.5: 980-985.
3,Hudak PL, et al: Understanding prognosis to improve rehabilitation: The example of lateral elbow pain. Arch Phys Med Rehabil 77: 586-593, 1996


<最後に>

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