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Fugl-Meyer Assessmentの上肢項目の変化を測るための数値について

UPDATE - 2021.6.15

<抄録>


 Fugl-Meyer Assessmentの上肢項目は,脳卒中後の上肢麻痺に対するリハビリテーションにおける,ゴールドスタンダードとなるアウトカムの一つである.ゴールドスタンダードの評価は,評価そのものに対する検討が非常に多くなされており,変化の数値を解釈するための指標についても多く検討がなされている.今回は,Fugl-Meyer Assessmentの上肢項目に関わる指標の中でも,Minimal Clinical Important Difference,Minimal Detected Change,について解説と具体的な数値を上げていくことを考えている.事例まとめ等を通した,臨床の一助となれば幸いである.


1,Fugl-Meyer Assessmentの上肢項目について


 Fugl-Meyer Assessmentの上肢項目は,Fugl-Meyerらによって1975年に開発された脳卒中後の上肢麻痺の運動機能に関する病態把握に特化したアウトカムである.構成としては,A. 肩/肘/前腕(Shoulder/elbow/forearm),B. 手首(Wrist),C. 手指(Finger),D. 協調性/速度(Co-ordination/Speed),の4カテゴリー,33項目,66点満点から成ったアウトカムである.


2,Minimal Detected Change


 臨床において,対象者の方にリハビリテーションアプローチを行う.その際に,多くの一般的な療法士は,自分が施したリハビリテーションアプローチの効果検証を実施するだろう.その際に,リハビリテーションアプローチの前後で,同じアウトカムによって,その変化について,検討を行うことが考えられる.その際に生じた差が,果たして『生物学的な個体差(変化)』なのか,それとも偶発的に生じた『誤差』なのか,判断が難しいことがある.これらを判断する際に便利な指標となるのが, 尺度測定の標準誤差(Standard error of measurement: SEM)や最小可検変化量(Minimal detected change: MDC)といったものがある.MDCは,一般的に対象となるアウトカムを何度も繰り返し,同じ検査者が,同じ状態にある対象者から採取することで生じる測定の変化量の誤差を示すものであり,その95%信頼区間を示したものが,MDC95として,一般的に用いられている1.また,SEMは,MDC95を求める際に必要な数値の一つであり(MDC95=SEM×1.96×√2),絶対信頼性を求めるために必要な指標であると言える.


3,Minimal Clinical Important Difference


 MCIDとは,Jaeschkeら2が提唱した概念であり,患者立脚型質問評価(Patient reported putcome: PRO)において,臨床における対象者の変化が有益であると解釈できる最小の変化量を示している.例えば,脳卒中後の上肢麻痺におけるPROは,Fugl-Meyer Assessmentの上肢項目のような客観評価ではなく,例えば,麻痺手を用いた活動レベルにおける指標の一つとなるMotor Activity Log(MAL)や,カナダ作業遂行測定(Canadian occupational performance measure: COPM),機能的自立度評価表(Functional Independence Measure: FIM)などを差し,そのアウトカムにおける意味を持つ最小の変化量をMCIDと理解できる).MCIDの算出方法としては,1)上記にあげたPROをアンカーとして,それに応じた変化を算出する方法,2)PROの分布から統計学的な手法を用いて算出する方法(広義では,この中にMDCやSEMが含まれる場合がある),3)PROにおける変化を専門家が主観で数値決定する場合,の大きく3つに分けられる.従って,算出されたMCIDがどのような算出方法がなされたのかを理解して置く必要もある.


4,Fugl-Meyer Assessmentの上肢項目における実際のMCID, MDCの値


 以下に代表的な論文に記載されているFugl-Meyer Assessmentの上肢項目のMCIDおよびMDCについて記載する.一覧を見ればよくわかるが,研究ごとに大きく値が異なる.特に先の項目でも上げたが,1)上記にあげたPROをアンカーとして,それに応じた変化を算出する方法,2)PROの分布から統計学的な手法を用いて算出する方法(広義では,この中にMDCやSEMが含まれる場合がある),といった手法の異なりによって,その値の持つ意味や大きさが随分異なることを理解されたい.さらに,MCIDにおいても,対象とした対象者の病期によっては,自然回復そのものの影響も異なるため,数値にばらつきが生じる.また,PROのアンカーを用いる手法においても,PROの種類, Receiver Operating Characteristic(ROI)曲線を描いた際に求められたPROのカットオフポイントの異なり(集団の特徴(上肢麻痺の重症度に由来する分散に依存する)によっても値は大きく異なるため,眼前の対象者に比較的近い対象を取り扱っている論文によるMCIDやMDCを選択することが望ましいと思われる.


表1. Fugl-Meyer Assessmentの上肢項目のMDCとMCIDの例



<引用文献>


1)Faber MJ, et al: Clinical properties of the performance-oriented mobility assessment. Phys Ther 86: 944-954, 2006
2)Jaeschke R, et al: Measurement of health status. Accertaining the minimal clinically important difference. Control Clin Trial 10: 407-415, 1989

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