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竹林崇先生のコラム

脳卒中後の上肢麻痺における行動変容とは?
〜脳卒中後の麻痺手における行動変容の重要性〜

UPDATE - 2021.6.24


 行動変容とは,英語表記で言えば,behavioral modificationと表現される.この言葉は,心理学的手法である系統的脱感作法,オペラント技法,ロールプレイングと言った行動学的手法(行動療法)の結果生じる,対象者の行動の変化そのものを指す.つまり,疾患のコントロールや精神的な平静を担保するために,理想の行動を取れるようになる『適応的な行動の学習』と,害となる行動の排除である『不適応な行動の排除』と言う客観的な結果を目指し,行動を変化させるものである.語源としては,1950年代に,心理学者のEysenckらが,提唱し出したのが始まりと考えられている.


 脳卒中後の上肢麻痺において,『行動』とはどのようなアウトカムで測ることができるのであろうか.脳卒中後の麻痺手に対しては,様々なアウトカムが存在する.ゴールドスタンダードと呼ばれる評価には,麻痺手の機能・麻痺の状況を測る『Fugl-Meyer Assessmentの上肢機能評価』,麻痺手のパフォーマンスを測る『Action Research Arm Test』,実生活における対象者の主観的な麻痺手の使用頻度および使いやすさを測る『Motor Activity LogのAmount of useおよびQuality of movement』,脳卒中患者のQuality of lifeを測るStroke impact scaleがあげられる.脳卒中後の上肢麻痺における検討では,特にMotor Activity LogまたはStroke impact scaleで測ることができるパラメーターについて,行動と定義している場合が多い.


 さて,上肢麻痺における行動変容という言葉も,Eysenckらの提唱する『行動変容』と同義の意味合いを有する.例えば,脳卒中後を罹患した際,中等度の確率で,上肢に麻痺を呈する.これが一次的な麻痺手における一次的な機能障害と考えられている.その後,自然回復やリハビリテーションによって,麻痺手の機能改善が認められるものの,その経過の中で,実生活における対象者自身が価値を感じている『活動』の中で,ふと麻痺手を使用したとする.その際に,対象者の予想以上に麻痺手のパフォーマンスが低調だったとする.対象者が価値を有する活動の達成のために,麻痺手の能力が不足し,力になれないと判断した際,麻痺手の使用自体が失敗(使用に価値を感じない)体験となることが予測される.その失敗体験により,次回同じようなシチュエーションに陥った際に,対象者は自身にとって価値を有するその活動の中で,麻痺手を使わないという行動選択をする可能性が高い.これこそが,Learned non use(学習性不正用)と呼ばれる負の行動学習であり,結果,実生活における麻痺手の使用が徐々に減っていく原因だともされている(Taub, 2002)1).また,実生活における麻痺手の使用行動が抑制されると,麻痺手の運動に関わる支配神経領域の縮小といった麻痺手のパフォーマンスをさらに低下させる現象が後に続く.これにより,脳卒中の罹患とは直接因果関係はないものの,二次的な問題により,さらに麻痺手のパフォーマンスは低下する.


 脳卒中後に呈する上肢麻痺における学習性不使用はEysenckらの定義する『不適応な行動』そのものであり,麻痺手の機能改善を促すためには,排除して行かねばならない行動と言える.逆に,実生活における麻痺手の使用行動の増加については,Takebayashiらが,上肢に対して集中的なアプローチを実施した後の麻痺手の予後について,実生活における麻痺手の使用(Motor Activity LogのAmount of use)が多ければ,その後の期間の機能(Fugl-Meyer Assessmentの上肢機能評価)改善も大きいと言った報告を提示している.つまり,長期的な麻痺手の機能改善は,Eysenckらの定義する『適切な行動の学習』の結果とも取ることができる.


 これらの事柄から,脳卒中後の上肢麻痺における行動変容とは,長期的な機能改善を導くための要素である可能性が示唆されており,これらの行動を変容できなければ,脳卒中後に生じる学習性不使用に由来した二次的な機能障害のリスクが,いつまでも対象者に付き纏うことになる.従って,脳卒中後の麻痺手に対して,アプローチをする際には,麻痺手における行動変容を重視し,その領域のパラメーターを変化させることができる上肢機能アプローチ(現在するアプローチの中ではCI療法が行動変容アプローチをシステマティックに含む療法の一つと言われている)の選択を部分的にでも考慮する必要性があるのかもしれない.


<引用文献>


1, Taub E, et al. New treatments in neurorehabilitation founded on basic research. Nature Reviews Neuroscience, 3, 228-236
2, Takebayashi T, et al. A one-year follow-up after modified constraint-induced movement therapy for chronic stroke patients with paretic arm: a prospective case series study. Top stroke rehabil 22: 18-25, 2015

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