TOPICS

お知らせ・トピックス
コラム

脳卒中後の運動麻痺に対する自主練習としての外骨格型ロボットの効果について −フランスで実施された多施設大規模ランダム化比較試験の結果から−

UPDATE - 2021.11.22

<抄録>

 脳卒中後に生じる上肢麻痺に対するリハビリテーション領域において,ロボットリハビリテーションはその手法の一つと考えられている.実際に,多くのガイドラインにおいても,ロボットリハビリテーションのエビデンスは多く示されており,療法士が行うリハビリテーションと有意な差がない改善を示すことができると報告した研究が多い.さらに,昨今では,自主練習機器として,従来の自主練習に比べ,有意な上肢麻痺の改善効果が期待されるとされている.しかしながら,ロボットリハビリテーションという括りで,使用されるロボット(機器)は一括りにされているものの,その分野で使用されるロボットは多種多様である.そこで,本項では,フランスで実施された多施設大規模ランダム化比較試験の結果から,外骨格型ロボットを用いた『自主練習としての』ロボットリハビリテーションの効果について,解説を行っていく.

     

1.ロボットリハビリテーションの現状

 ロボットリハビリテーションは,脳卒中後に生じる上肢麻痺においても,エビデンスが確立された数少ない手法の一つとされている.American Heart/Stroke Association(AHA/ASA)のガイドラインにおいても,推奨度は高く,実施すべき療法として指定されている.ただし,その内容を紐解くと,脳卒中後に生じる上肢麻痺に対するロボットリハビリテーションは,従来のリハビリテーションよりも上肢麻痺を改善させると言ったエビデンスはなく,従来のリハビリテーションと有意な差がない程度の上肢麻痺の改善を可能とすると言った効果のエビデンスになっている(つまり,脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチとして,従来のアプローチと遜色ない程度の改善は見込める上で,ランニングコストの面で,療法士が実施するよりも低価格でアプローチを提供できると言ったエビデンスが示されている).
 さらに,昨今の研究では,療法士が提供するリハビリテーションと有意差のない効果が期待できるロボットリハビリテーションを,伝統的な自主練習と比較し,成果を上げている研究が散見されている.例えば,本邦で多く用いられているReoGo®️(ReoGo-J®️)(帝人ファーマ株式会社)を用いた亜急性期における自主練習としてのロボットリハビリテーションの効果を調査した多施設ランダム化比較試験の結果では,伝統的な自主練習に比べ,ReoGo®️を用いたロボットリハビリテーションの方が,有意な上肢機能の改善を認めたと報告している.このように,ロボット=ランニングコストを比較的かけずに,従来法と有意差なく麻痺手の機能改善を促す手法,という考え方が浸透してきている印象がある.

     

2.ロボットの種類によってエビデンスは異なるのか?

 さて,ロボットリハビリテーションに用いられる機器は,非常に多くの種類のロボットが存在する.しかしながら,エビデンスを示す際には,すべての機器がまとめられ,分析がなされている.つまり,動力の違いや,運動制御方式が違うにもかかわらず,同じものとして,エビデンスが出されているのである.これは,上記に示したAHA/ASAのガイドラインでも同様である.しかしながら,多くのリハビリテーションロボットにまつわる研究が実施されるにしたがい,昨今では運動制御方式によって,分けて分析するエビデンス集も現れている.以下に示すのが,Stroke Rehabilitation Clinician Handbook2020である.ロボットの種類によって,しかもアウトカム別に与える影響力について分析を行っている.エンドエフェクター型は,麻痺手の末梢部分をロボットに固定し,操作するタイプのロボットであり,外骨格型ロボットは,各関節を覆うようにロボットが装着され,操作するタイプのロボットを指す.

     

     

3.外骨格型リハビリテーションロボットの自主練習としての効果

 Rémy-Néris Oらの第3層のランダム化比較試験では,215名の対象者に,従来のリハビリテーションに加え,外骨格型リハビリテーションロボット(Armeo spring)1日1時間,週5日,4週間の自主練習を実施したロボットリハビリテーション群と,従来のリハビリテーションに加え,ロボットリハビリテーション群と同じ頻度・期間の従来の自主練習を実施した群を比較検討した結果,介入後のFugl-Meyer Assessmentの上肢項目の平均変化は、ロボットリハビリテーション群で13.3(9.0)、対照群で11.8(8.8)であり、群間差はなかった(P=0.22)。その他の評価項目については、いずれの時点においても有意な群間差は認められなかった.さらに、12ヵ月後の費用対効果にもグループ間の差はなかった。この研究の結果では,外骨格型ロボットの自主練習としての効果は認められなかったと報告されている.今後,自主練習としてのロボットの効果に関する研究が増え,分析が進めば,より明確な効果が見えてくる可能性がある.

     

引用文献
1.Winstein CJ, et al: Guidelines for Adult Stroke Rehabilitation and Recovery A Guideline for Healthcare Professionals From the American Heart Association/American Stroke Association. Stroke 47: e98-e169, 2016
2.Takahashi K, et al: Efficacy of Upper Extremity Robotic Therapy in Subacute Poststroke Hemiplegia: An Exploratory Randomized Trial. Stroke 47: 1385-1388, 2016
3.Rémy-Néris O, et al: Additional, Mechanized Upper Limb Self-Rehabilitation in Patients With Subacute Stroke . The REM-AVC Randomized Trial. Originally published29 Apr 2021

https://doi.org/10.1161/STROKEAHA.120.032545

     

<最後に>
【11月26日他開催:脳卒中後の痙縮の病態理解と介入戦略】
痙縮や痙性麻痺の病態、評価、治療、管理に関して、臨床での意思決定に繋がる内容を全6回にわたり概説する。
hhttps://rehatech-links.com/seminar/21_10_08/

     

【オンデマンド配信:高次脳機能障害パッケージ】
 1,注意障害–総論から介入におけるIoTの活用まで–
 2,失認–総論から評価・介入まで–
 3,高次脳機能障害における社会生活支援と就労支援
  –医療機関における評価と介入-
 4,高次脳機能障害における就労支援
  –制度とサービスによる支援・職場の問題と連携–
 5,失行
 6,半側空間無視
 通常価格22,000円(税込)→16,500円(税込)のパッケージ価格で提供中
https://rehatech-links.com/seminar/koujinou/

前の記事

脳卒中後のリハビリテーションにおけるレジスタンストレーニングのエビデンス

次の記事

体幹機能の向上は本当に上肢機能の機能改善に影響を与えるのか?