TOPICS

お知らせ・トピックス
コラム

脳卒中後に生じる上肢の浮腫に対するアプローチについて

UPDATE - 2021.11.29

<抄録>

 脳卒中後の上肢麻痺に併発する障害として,浮腫がある。脳卒中後の上肢の浮腫は,慢性期脳卒中患者の4割,急性期脳卒中患者の2割に存在すると言われている.浮腫は長期間存在することで,二次的な拘縮の原因になるなどが考えられており,できるだけ早期からのケアが必要とされている.本コラムでは,脳卒中後に生じる浮腫の原因や,浮腫に対するアプローチの現在の位置付けについて,まとめることとする.

    

1.脳卒中後の上肢麻痺に併存する浮腫の原因について

 脳卒中後の手の浮腫は,慢性期脳卒中患者において37%,急性期脳卒中患者において18.5%が有すると言われている1, 2.脳卒中に生じる浮腫の原因については,正確な結論は未だに解明されていないものの,一部の研究者は,脳卒中による交感神経系の血管運動機能障害や自律神経系の調整障害1,不動による静脈の末梢うっ血,長期間の下垂位や身体の下敷きになる等の特異的な体位の影響3などが挙げられている.さらには,脳卒中後の血管の変化が,血管内の過剰な間質液の濾過と再吸収のメカニズムを変化させ,血管外への間質液の保持を過剰に担保する可能性についても近年報告されている4.
 こういった種々の原因によって生じた浮腫が,持続的に麻痺手に残存することにより,麻痺手の痛みや末梢軟部組織の繊維化と有意な相関を示すとも言われており,麻痺手の関節拘縮をはじめとした機能的な障害につながる可能性が示唆されている5.

     

2.浮腫を測定するためのアウトカムに関する世界のスタンダード

 さて,浮腫を評価する際に,一般的なアウトカムとして,どういったものが利用されているのだろうか.ゴールドスタンダードとしては,手の周径測定と,体積測定の2つが挙げられている6.周径については,メジャーさえあれば,どの臨床場面においても計測することが可能だが,体積測定は専用の機器等が必要となるので評価のハードルが少し上がることが想像できる.

     

3.脳卒中後の上肢麻痺に併発する浮腫に対するアプローチについて

 

 脳卒中後の上肢麻痺に併発する浮腫に対するアプローチについては,最も一般的かつdata念頭的なものに圧迫療法,装具療法,モビライゼーション等がある.最近では,電気刺激療法,レーザー治療,などが登用されている.以下にそれぞれのアプローチに関する検討をまとめていく.
 圧迫療法については,間欠的空気圧迫装置を用いて,1日2時間圧迫を続けた結果,対照群である伝統的な作業療法群に対して有意なさは認めなかったと報告している7.一方,Bellら8は,キネシオテープを用いてボタンホール法による圧迫を6日間実施した結果,対照群に対して有意な手関節の浮腫の減少を認めたと報告している.ただし,介入直後に短期的な改善を認めた群においても,長期的な改善については検討されていない,もしくは対照群との有意差を認めないといった研究が多く,今後の検討が必要と考えられている.
 装具療法については,Burgeら9は,手関節を機能的肢位に保ち,手指を自由に生活で使用できる装具を毎日6時間以上装着した群と通常のリハビリテーションを実施された群を比較した結果,手部・手関節の浮腫は両群間で差はなかったと報告した.一方,Graciesら3やKuppensら10の研究では,手関節を機能的良肢位に示す装具を1日3時間,もしくは夜間に装着した結果,通常のリハビリテーションを実施した群に比べ,有意だがわずかな浮腫の軽減を認めたと報告している.ただし,装具療法についても長期効果については,全く述べられていない.
 モビライゼーションについては,Kimら11が,4週間にわたり週5日朝、夕に1回ずつ受動的な関節可動域練習を15分間1関節10回実施したところ,何も実施していなかった対照群に比べて,両上肢の浮腫が有意に減少したと報告している.ただし,モビライゼーションに対するランダム化比較試験がこれ以外に見つからないこと,さらに長期効果に言及していないことから,エビデンスには限界がある.
 最後に,レーザー治療について,Karabegovicら12は,探索的な研究において,介入群はキネシオテープにとる圧迫療法とアイスマッサージに加えて,レーザー照射を肩の痛みがある部分および浮腫が強い部分に6週間実施した.対照群は,キネシオテープによる圧迫療法とアイスマッサージに加え電気刺激療法を実施した.結果,対照群に比べ,介入群では,上肢の浮腫が有意に改善したと報告した.ただし,これらもランダム化比較試験がこれ以外に見つからないこと,さらに長期効果に言及していないことから,エビデンスには限界がある.
 上記が,現在,脳卒中後の上肢麻痺に併存する浮腫に対する介入方法の実際である.眼前の対象者の方に少しでも利用できる方法を採用し,浮腫による二次的な障害予防につなげる必要が考えられた.

     

引用文献
1.Gebruers N., Truijen S., Engelborghs S., & De Deyn P. P.. (2011). Incidence of upper limb oedema in patients with acute hemiparetic stroke. Disability and Rehabilitation, 33(19-20), 1791–1796.
2.Leibovitz A., Baumoehl Y., Roginsky Y., Glick Z., Habot B., & Segal R.. (2007). Edema of the paretic hand in elderly poststroke nursing patients. Archives of Gerontology and Geriatrics, 44, 37–42.
3.Geurts A. C., Visschers B. A., van Limbeek J., & Ribbers G. M.. (2000). Systematic review of aetiology and treatment of poststroke hand oedema and shoulder-hand syndrome. Scandinavian Journal of Rehabilitation Medicine, 32(1), 4–10.
4.Wang J. S., Yang C. F., Liaw M. Y., & Wong M. K.. (2002). Suppressed cutaneous endothelial vascular control and hemodynamic changes in paretic extremities with edema in the extremities of patients with hemiplegia. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation, 83(7), 1017–1023.
5.Boomkamp-Koppen H., Visser-Meily J., Post M., & Prevo A.. (2005). Poststroke hand swelling and edema: prevalence and relationship with impairment and disability. Clinical Rehabilitation, 19(5), 552–559
6.Artzberger S. M., & White J.. (2011). Edema control. In Gillen G. (Ed.), Stroke rehabilitation: A function-based approach (pp. 307–500). St Louis: Elsevier.
7.Roper T. A., Redford S., & Tallis R. C.. (1999). Intermittent compression for the treatment of the oedematous hand in hemiplegic stroke: a randomized controlled trial. Age and Ageing, 28(1), 9–13.
8.Bell A., & Muller M.. (2013). Effects of kinesio tape to reduce hand edema in acute stroke. Topics in Stroke Rehabilitation, 20(3), 283–288.
9.Bürge E., Kupper D., Finckh A., Ryerson S., Schnider A., & Leemann B.. (2008). Neutral functional realignment orthosis prevents hand pain in patients with subacute stroke: a randomized trial. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation, 89(10), 1857–1862.
10.Kuppens S. P., Pijlman H. C., Hitters M. W., & van Heugten C. M.. (2014). Prevention and treatment of hand oedema after stroke. Disability and Rehabilitation, 36(11), 900–906
11.Kim H. J., Lee Y., & Sohng K. Y.. (2014). Effects of bilateral passive range of motion exercise on the function of upper extremities and activities of daily living in patients with acute stroke. Journal of Physical Therapy Science, 26(1), 149–156.
12.Karabegović A., Kapidzić-Duraković S., & Ljuca F.. (2009). Laser therapy of painful shoulder and shoulder-hand syndrome in treatment of patients after the stroke. Bosnian Journal of Basic Medical Sciences, 9(1), 59–65.

     

<最後に>
【11月26日他開催:脳卒中後の痙縮の病態理解と介入戦略】
痙縮や痙性麻痺の病態、評価、治療、管理に関して、臨床での意思決定に繋がる内容を全6回にわたり概説する。
hhttps://rehatech-links.com/seminar/21_10_08/

     

【オンデマンド配信:高次脳機能障害パッケージ】
 1,注意障害–総論から介入におけるIoTの活用まで–
 2,失認–総論から評価・介入まで–
 3,高次脳機能障害における社会生活支援と就労支援
  –医療機関における評価と介入-
 4,高次脳機能障害における就労支援
  –制度とサービスによる支援・職場の問題と連携–
 5,失行
 6,半側空間無視
 通常価格22,000円(税込)→16,500円(税込)のパッケージ価格で提供中
https://rehatech-links.com/seminar/koujinou/

前の記事

体幹機能の向上は本当に上肢機能の機能改善に影響を与えるのか?

次の記事

Evidence Based Practiceの必要性について