TOPICS

お知らせ・トピックス
コラム

生活期の脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチにおいて,Quality of lifeの改善に関与する因子について

UPDATE - 2022.4.29

<抄録>

 脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチについては,リハビリテーション 領域内においても,比較的効果に対するエビデンスが確立されていると考えられている.ただし,効果に関するエビデンスに関しては,アウトカムに依存するものであり,そのアウトカムは,ゴールドスタンダードであるFugl-Meyer AssessmentやAction Research Arm Test等の身体機能に特化したものがほとんどである.しかしながら,リハビリテーションにおける最も重要なアウトカムとしては,身体的な側面も重要ではあるものの,幸福感およびQuality of life(生命の質)といった包括的なものを挙げている研究者も多い.本コラムにおいては,脳卒中後上肢麻痺に対するリハビリテーションプログラムが,幸福感や生命の質に対して,どう言った影響を与えるかについて,複数文献を紹介しつつ,解説を行う.

     

1.脳卒中後の上肢麻痺と幸福感およびQuality of life(生命の質)との関連について

 脳卒中後の上肢における機能障害とそれに伴う運動障害は,一般的に脳卒中患者の生活における社会的機能に大きな影響を与えると考えられている.脳卒中後の長期生存者を対象とした研究において,脳卒中発症後から生じる健康関連Quality of life(生命の質)の低下が報告されている.1そこで,多くの研究者や臨床家が,Quality of lifeに対する介入が重要であると認識している.しかしながら,どういったアプローチが,対象者の生命の質を向上させるのか,と言った点については,ほとんど研究は進んでおらず,不明な点が多い.
 生命の質に対して,影響を与えうる因子としては,様々な検討がなされている.例えば,作業療法の創始者の一人でもあるReilyら2は,『人は意思に従って,両手を使用する際に,自らを健康に導く』と言った格言を残している.これは,人にとって,そのアイデンティティの一つである,大切な作業における両手を用いて道具を使用した活動の履行に関する常用性を述べたものになる.また,Kellyら3は,脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチにおいて,上肢機能に関するアウトカム(国際生活分類における身体機能・構造に関わるアウトカム)の改善よりも,活動・社会参加に関するアウトカム(国際生活分類における身体機能・構造に関わるアウトカム)の改善の方が,生命の質の改善と関係性が深かったと報告している.これらの要素から,経験的なリハビリテーションの中で,身体機能の改善を目的としたアプローチが,幸福や生命の質の改善に,有効ではない可能性も示唆されている.
 これらの知識からも,どう言った要素が,幸福や生命の質を改善させるのか,に関する知識は非常に重要であり,介入を実施する際には,知っておくべき知識の一つと言えるかもしれない.

     

2.脳卒中後の上肢麻痺に対する治療法であるConstraint-induced movement therapy(CI療法における幸福および生命の質に影響を与える因子について

 脳卒中後の上肢麻痺に対する治療法として,効果のエビデンスが確立されているアプローチ法として,Constraint-induced movement therapy(CI療法)がある.CI療法は,一般的に上肢機能の改善と,日常生活活動における麻痺手の使用行動の改善について,高い確率で認められることが多くのシステマティックレビュー,メタアナリシス,ガイドラインにおいて,示されている.
 さて,そのような背景を持つCI療法であるが,前述した上肢機能の改善と,日常生活活動における麻痺手の使用行動以外にも,生命の質を構成するドメイン対しても,影響を与えることが知られている.例えば,Wolfら4は,CI療法実施後に,記憶と思考の能力,社会参加能力と言った生命の質のドメインに関わる部分に影響を与えると述べている.さらに,Dettmersら5は,CI療法によって,コミュニケーション能力や社会参加の割合について,改善すると述べており,こちらも同様に,生命の質のドメインに関わる部分に影響を与えると述べている.最後に,Huangら6は,CI療法によって麻痺手に対するアプローチを受けた脳卒中患者の生命の質に対して影響をもつ潜在因子として,1)年齢,2)性別,3)麻痺側,4)脳卒中発症からの時間,5)認知機能,6)上肢の運動障害,7)日常生活活動,と言った7つの状況から,予測がなされることがわかった.
 従って,これらの因子を鑑みつつ・脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチを構築する必要性が考えられた.

     

引用文献
1.Xie J, et al. Impact of stroke on healthrelated quality of life in the noninstitutionalized population in the United States. Stroke. 2006;37:2567-2572.
2.Reily M. The Eleanor Clarke slagle. Canadian J Occup Ther. 1963; 30: 5
3.Kelly KM, et al. Improved quality of life following constraint-induced movement therapy is associated with gains in arm use, but not motor improvement. Top in stroke rehabil. 2018
4.Wolf SL, et al. Retention of upper limb function in stroke survivors who have received constraint-induced movement therapy: the EXCITE randomized controlled trial. Lancet Neurol. 2008; 7: 33-40
5.Dettmers C, et al. Distributed form of constraint-induced movement therapy improves functional outcome and quality of life after storke. Arch Phys Med Rehabi. 2005; 84: 204-209
6.Huang YH, et al. Predictors of change in quality of life after distributed constraint-induced therapy in patients with chronic stroke. Neurorehaibl Neural Repair. 2010; 24: 559-566

     

<最後に>
【5月9日他開催:作業の健康への貢献 -高齢者の予防的作業療法-】
小児期特有の疾患に関わるセラピストにとって有用となる評価の視点について解説します。
https://rehatech-links.com/seminar/22_05_09/

     

【オンデマンド配信:高次脳機能障害パッケージ】
1,注意障害–総論から介入におけるIoTの活用まで–
2,失認–総論から評価・介入まで–
3,高次脳機能障害における社会生活支援と就労支援
 –医療機関における評価と介入-
4,高次脳機能障害における就労支援
 –制度とサービスによる支援・職場の問題と連携–
5,失行
6,半側空間無視
 通常価格22,000円(税込)→8,800円(税込)のパッケージ価格で提供中
https://rehatech-links.com/seminar/koujinou/

前の記事

脳卒中後の対象者の方々の発症後の経過について

次の記事

脳卒中後の上肢麻痺に対する装具療法のエビデンスについて