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脳卒中後の上肢麻痺のリハビリテーションに際して,ロボット療法を利用する際に,体幹の固定(拘束)は意味をなすのか?

UPDATE - 2022.5.16

<抄録>

 脳卒中後の上肢麻痺に対するリハビリテーションにおいて,上肢の麻痺が重度である場合,麻痺手の動きよりも優先して,体幹の動きで動作を代償するといった動きが頻繁に見られる.これにより,麻痺手の運動量が確保できず,体幹の動きばかりを頻繁に利用する結果,麻痺手をほとんど使わず,体幹によりリーチ動作を代償する誤学習が生じると言われている.リハビリテーションの現場では伝統的に,上記の理由から,麻痺手に対するリハビリテーションを実施する際には,体幹の代償動作を抑制するよう指導されることが多い.近年では,麻痺手に対する集中的アプローチであるConstraint-induced movement therapy(CI療法)を実施する際にも,体幹の抑制を併用して実施した研究等も認められる.本稿では,ロボット療法の際に体幹の抑制の有無により,結果にどのような影響が認められたかについて,先行研究を用いて解説を行う.

     

1.脳卒中後上肢麻痺を呈した対象者の体幹による代償運動

 一般的に健常人が前方の物品に手を伸ばす際,肩甲骨の屈曲・外転(プロトラクション)と肩関節の屈曲,肘関節の伸展が大きな役割を果たすことになる.これらは,多くの基礎研究によっても明らかにされている.また,この様な到達動作の中では,健常人の場合,肩甲骨の屈曲(プロトラクション)と肩関節の屈曲,肘関節の伸展運動が主となるため,体幹の動きは生じたとしてもわずかである.
 さて,脳卒中患者における到達動作では,複数の研究者1, 2が,肩関節の屈曲,肘関節の伸展の動きの減少と,体幹の動きの増加の間には,有意な相関関係があると言われている.これは,健常人ではほとんど認められない体幹の動きが,到達動作中の主要な動きである,肩甲骨の屈曲(プロトラクション)と肩関節の屈曲,肘関節の伸展運動を代償し,出現している証である.したがって,多くの臨床家が体幹による代償動作を忌み嫌う、根拠の一つとなっている.
 多くのアプローチ方法では,この代償動作に依存しすぎると,代償動作によって動作そのものを行う様式が定着するといった誤学習が進むとも考えられている3.従って,多くの脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチが,代償動作を最小限に制限し,肩・肘関節の動きを促す様に設計されている2.

     

2.上肢の集中練習において,体幹を固定した場合の効果について

 さて,上記にも示したように,体幹の代償によって誤学習を引き起こさないように,最近の一部の研究では,練習時に体幹を固定するようなアプローチをとるものも散見する.例えば,脳卒中後の上肢麻痺に対する治療法としてエビデンスが確立されているConstraint-induced movement therapy(CI療法)の実施時に,体幹を拘束した研究では,Bongらが,亜急性期・生活期の対象者と,急性期の対象者に対し,通常のCI療法を実施した群と体幹抑制を施したCI療法を実施した群に,ランダムに割り付け,その効果を比較検討している.結果,双方の研究において,体幹抑制を施したCI療法を実施した群が,対照群に比べ,上肢機能および実生活における麻痺手の使用行動において有意な改善を認めたと報告している.
 加えて,CI療法とともに,脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチとして,エビデンスが示されている手法として,ロボット療法がある.Jooらは,ロボット療法を脳卒中発症から30日以内の対象者36名において,体幹拘束を施したロボット療法を実施した群と,体幹抑制を施さずロボット療法を実施した群において,上肢麻痺の改善に対する効果の検証を行った.結果,両群ともに介入前後において,Fugl-Meyer Assessment,Wolf Motor Function Test,実生活における麻痺手の使用行動,肘伸展力,Barthel Indexが有意な改善を認めた.さらに,群間比較においては,体幹拘束を施し,ロボット療法を実施した群において,Fugl-Meyer Assessment,日常生活における麻痺手の使用行動,肘伸展力において,対照群よりも,有意な改善を認めたと報告している.
 上記にあげた論文は,全て小規模な研究ではあるものの,脳卒中後の上肢麻痺においては,なんらかの方法で体幹の動きを抑制し,アプローチを実施することで,より良い上肢機能の改善が認められる可能性が示唆された.

     

引用文献
1.Bang DH, et al: Effects of modified constraint-induced movement therapy combined with trunk restraint in chronic stroke: A double-blinded randomized con- trolled pilot trial. Neuro Rehabilitation, 37, 131-137, 2015
2.Greisberger A et al: Clinical relevance of the effects of reach-to-grasp training using trunk restraint in individuals with hemipare- sis poststroke: A systematic review. Journal of Rehabilitation Medicine, 48, 405-416, 2016
3.Michaelsen SM, et al: Task- specific training with trunk restraint on arm recovery in stroke: Randomized control trial. Stroke, 37, 186-192, 2006
4.Bang D et al: Effects of modified constraint-induced movement therapy combined with trunk restraint in chronic stroke: A double-blinded randomized con- trolled pilot trial. Neuro Rehabilitation, 37, 131-137, 2015
5.Bang DH, et al: Effects of modified constraint-induced movement therapy with trunk restraint in early stroke patients: A single-blinded, randomized, controlled, pilot trial. NeuroRehabil 42: 29-35, 2018
6.Joo MC, et al. Robot-assisted therapy combined with trunk restraint in acute stroke patients: a randomized controlled study. J Stroke Cerebrovasc Dis 31: 106330, 2022

     

<最後に>
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