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急性期における脳卒中患者の日常生活における自立度および周囲からの介助量に対する機能予後予測について

UPDATE - 2022.6.20

<抄録>

 急性期の脳卒中リハビリテーションにおいては,救命が第一の目標となり,各種ケアユニットにおいて,救命に重点をおいた医療が展開されている.その中も,各種療法士は,今後の生命および機能予後予測をしつつ,救命の要素に加え,あくまでも対象者の人生や役割に対する復帰を意識しながら,リハビリテーションアプローチを提供することになる.その際に必要になるのが,脳卒中患者の日常生活における自立度および周囲からの介助量に対する機能予後予測である.急性期におけるリハビリテーションの振る舞いが,長期的な日常生活における自立度および周囲からの介助量における予後に対し,どのような影響を与えるのかも踏まえて,本コラムにおいては簡単に解説を行う.

     

1.急性期における機能予後予測について

 急性期における脳卒中患者の日常生活における自立度および周囲からの介助量に関する機能予後予測においては,包括的なアウトカムが予測因子として,多くの研究で使用されている.それらの代表的なアウトカムが,National Institute of Health Stroke Scale(NIHSS)およびmodified Ranking Scale(mRS)である.
 これら二つの評価について簡単に解説する.NIHSSは,脳卒中の神経学的重症度の評価スケールとして世界で最も使用されている評価法の一つである.11項目の評価項目を順に評価し,点数が低いほど,全身状況が良いとされている評価である.次に,mRSは,脳卒中等の神経および運動機能に異常を来たす疾患の重症度を評価するための評価である.対象者の日常生活の自立度や介助量に応じて7段階で評価し,点数が低いほど,日常生活における自立度が高く,周囲からの介助量が少ないとされている評価である.
 これらの評価を用いて,Inoaら1は,急性期の脳卒中患者1569例を対象に,脳卒中発症時のNIHSSと発症後3ヶ月の時点での,日常生活の自立度や周囲からの介助量を示すmRSの関係性を調査した.この研究においては,脳の損傷部位を前方循環と後方循環領域に分別し,3ヶ月後のmRSの値を調査した.その結果,3ヶ月後mRSによって測定できる日常生活の自立度や周囲からの介助量において,良好な予後を示すために必要な発症時のNIHSSの値として,前方循環領域の損傷でカットオフ値が8点(感度71.5%,特異度73.8%),後方循環領域で4点(感度65.6%,特異度72.4%)と報告されている.
 さらに,Satoら2も,わが国の脳卒中患者310名に対して,同様の調査を行った.その結果,損傷部位が後方循環領域に存在する症例は,損傷部位が前方循環領域に存在した症例に比べ,有意にNIHSSにおける全点数は低かったが,運動失調と視野の点数は高かったと報告されている.また,発症時のNIHSSの点数が低いことが損傷部位にかかわらず,良好な天気を予測する独立因子であることが示された(前方循環領域:オッズ比1.278, 95%信頼区間1.188-1.376,後方循環領域:オッズ比 1.547,95%信頼区間 1.232-1.941).最後に,良好な予後を示すために必要な発症時のNIHSSの値として,前方循環領域の損傷でカットオフ値が8点(感度80%,特異度82%),後方循環領域で5点(感度84%,特異度81%)と報告されている.
 またmRSとわが国の回復期リハビリテーション病棟で多く使われているFunctional Independence measure(FIM)の運動項目の合計点は,概ね相関することも多くの研究で述べられており,これらの予後予測は急性期に多いて大まかな予後予測には有用である.

     

2.急性期のリハビリテーションが長期的な日常生活における自立度および周囲からの介助量における予後に与える影響

 世界における各種ガイドラインにおいて,脳卒中発症後の早期離床は有用であると多くの研究者が唱えてきた.しかしながら,2015年以降,そのトレンドに変化が認められている.その要因としては,脳卒中発症後の急性期における早期離床の有用性について,大規模なランダム化比較試験であるAVERT(A very early rehabilitation)trialの影響によるものが考えられている.
 2014例の対象者に実施されたAVERT Ⅲ3において,発症後24時間以内の超早期離床群と24時間から72時間以内に離床した早期離床群に,ランダムに割り付け,発症3ヶ月後のmRSについて比較検討を行ったところ,両群に有意差は認められなかった.しかしながら,むしろ重度例においては,超早期離床群の方が,早期離床群に比べて,3ヶ月後のmRSが不良な傾向が認められたことから,超早期離床の是非について,疑義が生じている.
 この結果に加えて,重度例の離床に関しては,2016年のAVERTⅢのサブ解析論文4において,脳卒中発症後24時間以降に,1日2.75回の短時間の離床を実施することで,脳卒中発症後のmRSが13%向上すると言った結果が示された.従って,AVERTⅢの結果からは,急性期における短時間頻回の離床行為が良好な転機に寄与する可能性が示唆されている.
 上記の研究結果からも分かるように,超早期および早期離床に関しては,研究数も少なく,未だ不明瞭な部分が多い.しかしながら,近年では,24時間以内の超早期離床に関しては,長期的な予後を悪化させる可能性が他の論文でも示唆されており5,実施には十分な注意が必要であると思われる.一方,AVERTⅢにおいても示された通り,発症後24〜72時間以内の短時間頻回の離床により,mRSやFIMの改善に繋がるといった報告が相次いでいる6-9.これらの結果からも,早期における離床については,短期間頻回の介入が有用であるように思われ,離床の際の時間や頻度を取り決める際の証拠の一つとなり得る.
 ただし,眼前の対象者は,先行研究における対象者と同一ではない.それらを鑑みると,先行研究を鵜呑みにしすぎず,病態に合わせた適切な介入が必要である.

     

引用文献
1.Inoa V, Aron AW, Staff I, et al:Lower NIH stroke scale scores are required to accurately predict a good prognosis in posterior circulation stroke. Cerebrovasc Dis 37:251—255, 2014
2.Sato S, Toyoda K, Uehara T, et al:Baseline NIH Stroke Scale Score predicting outcome in anterior and posterior circulation strokes. Neurology 70:2371—2377, 2008
3.AVERT trial collaboration group:Efficacy and safety of very early mobilisation within 24 h of stroke onset(AVERT):a randomised controlled trial. Lancet 386:46—55, 2015
4.ernhardt J, Churilov L, Ellery F, et al:Prespecified dose—response analysis for A Very Early Rehabilitation Trial(AVERT). Neurology 86:2138—2145, 2016
5.Powers WJ, Rabinstein AA, Ackerson T, et al:Guidelines for the early management of patients with acute ischemic stroke:2019 update to the 2018 guidelines for the early management of acute ischemic stroke:a guideline for healthcare professionals from the American Heart Association/American Stroke Association. Stroke 50:e344—e418, 2019
6.Yen HC, Jeng JS, Chen WS, et al:Early mobilization of mild—moderate intracerebral hemorrhage patients in a stroke center:A randomized controlled trial. Neurorehabil Neural Repair 34:72—81, 2020
7.20)Yelnik AP, Quintaine V, Andriantsifanetra C, et al:AMOBES(Active Mobility Very Early After Stroke):a randomized controlled trial. Stroke 48:400—405, 2017
8.21)Chippala P, Sharma R, et al:Effect of very early mobilisation on functional status in patients with acute stroke:a single—blind, randomized controlled trail. Clin Rehabil 30:669—675, 2016
9.22)Rethnam V, Langhorne P, Churilov L, et al:Early mobilization post—stroke:asystematic review and meta—analysis of individual participant dat. Disabil Rehabil 16:1—8, 2020

     

<最後に>
【6月1日他開催:急性期・回復期における脳卒中の作業療法】
本講習会では急性期・回復期に従事する臨床経験1~5年程度の若手作業療法士に必要な基本的な評価とアプローチの留意点および実際について包括的に説明する。
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