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脳卒中後上肢麻痺に対する予後を取り巻く新しい研究

UPDATE - 2022.6.24

<抄録>

 予後予測に関するまとめは過去に何度も行なっているが,新しく臨床にて利用可能な手法が報告された際には,今回のように部分updateといった形で情報を集約していきたい.今回は,3つの予後に関わる疫学研究や予後予測アルゴリズムについて紹介を行う.

     

1.予後に関わる関連因子に関する報告

 Kohら1は,肩甲帯や肘の伸展,仰臥位における下肢の動き,寝返り等,を総合的に評価するStroke Rehabilitation Assessment of Movement(STREM)(http://scale-library.com/pdf/Stroke_Rehabilitation_Assessment_of_Movement_STREAM.pdf [2022年4月10日現在]のサブスケールであるSTREAM-UEにおいて,リハビリテーション病棟入棟時に,5点以下の重度麻痺を呈した亜急性期の脳卒中患者を対象として,退院時(平均値で40日後)の麻痺側上肢機能および,退院時までの麻痺側上肢機能の変化量に影響を与える因子について,検討している.これらの検討の結果,退院時のSTREAM-UEを予測できる因子としては,脳出血,皮質・皮質下領域の混合損傷の有無,一次運動野を除いた損傷の有無,損傷範囲の広さ,損傷領域周辺の浮腫の有無,入棟当初の麻痺側上肢機能(National Institutes of Health Stroke Scale [NIHSS], STREAM-UE),入棟時の肩の外転と手指の伸展の有無,が挙げられていた.さらに,良好な麻痺側上肢機能の改善のために必要な因子としては,脳出血,皮質・皮質下領域の混合損傷の有無,一次運動野を除いた損傷の有無,損傷範囲の広さ,損傷領域周辺の浮腫の有無,入棟当初の麻痺側上肢機能(National Institutes of Health Stroke Scale, STREAM-UE),入棟時の手指の伸展の有無,が示されている.

     

2.予後予測に関する臨床的およびバイオマーカーを用いたアルゴリズム

 加えて,近年非常に有用な麻痺側上肢機能の予後予測の手段として,van der Viletら2が示した麻痺側上肢機能に対する予後予測方がある.多くの研究が,脳卒中発症後初期の一時点におけるFMAの上肢項目の数値を用いて,その後の麻痺側上肢機能を予測しているが,彼らの予後予測方は,複数地点のFMAの上肢項目の値を入力することで,多角的かつ実用的な予後予測を実現している.この研究では,予後予測を可能とするモデルを形成し,412名の対象者に対して,実測値と予測値の相関を検討している.その結果,脳卒中後1週目の測定値に関する相関係数は0.84,2週目(1週目と2週目の2値)で0.86 であった.また,この研究では回復経過の異なる3群(予後不良クラスタ,予後中等度クラスタ,予後良好クラスタ)への割り当ての全体的な精度は,脳卒中後1週の測定値において陽性的中率(事後確立の一つで,陽性[この場合は,予測が示された場合の的中する確立]と判断された場合に,真に陽性である確立)は0.79,2週目(1週目と2週目の2値)の計測値で0.81であった.なお,この研究で使用されている予後予測モデルは,以下のURL( https://emcbiostatistics.shinyapps.io/LongitudinalMixtureModelFMUE/. 2022年4月10日現在)に眼前の対象者のFMAの上肢項目を入力することで利用できる.
 次に,Stinearら3が示した臨床観察に加えて,経頭蓋時期刺激を用いた麻痺側上肢の運動誘発電位等のバイオマーカーを用いた予後予測についても紹介する.この予後予測は,脳卒中発症後72時間以内の患者207名を対象としている.この予後予測手法は,Shoulder abduction and finger extension (SAFE)score(肩の外転と手指の伸展に対して,0:触知可能な筋活動なし,1:触知できる筋活動はあるが,動きはない,2:重力に耐えられない可動域の制限,3:重力に対してフルレンジで動かせるが,抵抗はない,4:重力や抵抗に対してフルレンジで動くが,反対側より弱い,5:正常な筋出力,の6件法で評価した値,以下のURL[https://presto.auckland.ac.nz/how-prep2-works/]にて解説がなされている)を用いた上肢麻痺に由来する上肢運動障害の指標と,年齢,経頭蓋時期刺激による麻痺側上肢の運動誘発電位 磁気共鳴画像診断(Magnetic resonance imaging: MRI)による脳卒中病変,NIHSSのスコアを順次組み合わせたアルゴリズムである(図1).このアルゴリズムを用いることで,急性期の脳卒中患者の上肢麻痺について全対象者の75%において,正しく予測することができたと報告している.また,MRIの測定が困難な場合でも,運動誘発電位とNIHSSの組み合わせたアルゴリズムを用いることで,予測精度を落とさず,麻痺側上肢機能を予測することも報告している.

     

     

  1. 1.Koh CL, et al. Predicting recovery of voluntary upper extremity movement in subacute stroke patients with severe upper extremity paresis. PLos One 10: e0126857
  2. 2.Van Der VIiet, et al. redicting Upper Limb Motor Impairment Recovery after Stroke: A Mixture Model. Ann Neurol 87: 383-393, 2020
  3. 3.Predicting recovery potential for individual stroke patients increases rehabilitation efficacy. Stroke 48: 1011-1019, 2017

     

<最後に>
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