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コラム

呼吸器疾患(主にCOPD)における日常生活活動の自立度を予測するための因子について

UPDATE - 2022.8.19

<抄録>

 呼吸器疾患におけるリハビリテーションの対象疾患には,気管支喘息,慢性閉塞性肺疾患(Chronic obstructive pulmonary disease: COPD),肺がん,呼吸器感染症等,がある.近年,呼吸器疾患は増加傾向にあり,WHOの調査では,2004年に全世界の死因の第4位だったCOPDは2030年には,第3位になるだろうと予測がなされている.また,わが国におけるCOPDも増加の一途を辿っており,リハビリテーション領域においても,注意が必要な病態の一つである.病気が進行すると、最も基本的な作業からより複雑な活動まで、日常生活動作が制限され、生活の質も低下する。COPDの最も大きな症状である呼吸困難は、時間の経過とともに悪化し、運動耐容能が低下するため、さらに日常生活が制限され、健康状態も低下する。

     

1.呼吸器疾患患者における困難な日常生活活動について

 COPDを低下多くの対象者は,1つ以上の日常生活活動(Activity of daily living: ADL)を行う際に,部分的または全面的に解除者から解除を必要しているとされている.その中でも,特に部屋と部屋の間の移動や,階段の移動,家屋の出入り,近所の散歩(移動),クローゼットから衣服を出す,髭剃り・化粧,ペディキュアを足の爪に塗る,と言った行為については,全対象者の90%以上に介助が必要な状況となっている1.
 また,Annegarnら2は,820名の対象者において,60-70%の対象者に歩行障害が,30-40%の対象者に,階段昇降,自転車の運転が,10-20%の対象者に,シャワー浴,ガーデニング,床掃除,着替えが困難であることが示されている.
 さらに,Gpnzalez-Moroら3は,COPDの程度が重症になるにつれて,自立度が有意に低下する動作を示している.彼らの報告では,歩行や外出などの移動を伴う動作や,上肢を頭の付近まで挙上するセルフケア,粗大な活動を含む家事動作などが,COPDの重症度が上がるにつれ,困難になることを示している.なお,Kruapanichら4は,呼吸器疾患を有する対象者に対するリハビリテーションにおいて,近年,呼吸困難度の減少とQuality of life (QOL)の改善のために,呼吸補助筋である上肢筋の持久力および筋力トレーニングは有効である可能性をシステマティックレビューおよびメタアナリシスの結果から述べている.これらの知見からも,実施するリハビリテーションの種別により,ADLの予後は影響を受けることも理解しておく必要がある.

     

2.呼吸器疾患患者の日常生活活動における予後予測

 Annegarnら2は,日常生活活動の自立度に影響を与える因子としては,6分間歩行で評価した歩行機能の高さがオッズ比にて0.99,Medical Research Councilにて評価した息切れの多さがオッズ比にて1.603,George’s respiratory Questionnaireで評価したQuality of lifeの高さが1.028とされている.次に,仕事(productivity)の自立度に影響を与える因子としては,性別(男性であること)がオッズ比で1.586,呼気の1秒率がオッズ比にて1.011と報告されている.また,娯楽については,性別(男性であること)がオッズ比で0.646,鬱傾向がオッズ比で1.037,移動手段の獲得については,息切れがオッズ比で1.308であることが示された.
 次に,Garciaらは,横断研究において,高齢COPD患者について,ADL遂行時の制限が,生活空間における移動能力と関連するかどうかについて,直線回帰モデルを用いて検討している.その結果,50名の対象者において,ADLにおける動作制限の程度と生活空間における移動能力の間には,有意な中等度の逆相関が認められた(r=-0.57).さらに,呼吸困難感と生活空間における移動能力の間にも有意な強い相関があった(r=0.86).また,同時に性別とADLにおける動作制限の程度が,生活空間における移動能力の程度を説明する独立した要因であることも示された(R2=0.56).加えて,WearingらのCOPD患者のADLを改善するための因子を調べた研究では,握力の増加(握力増加が手段的ADLの解消に対し,リスク比において1.16)および28ブロック以上移動できる身体活動量の確保(歩行量が少ないことが手段的ADLの解消に対し,リスク比において0.81)の2点が要因として示された.
 本項では,呼吸器疾患におけるADLに関連する予後予測因子について述べた.ADLトレーニングは,個別的に行うとともに,全持久力・筋力トレーニングと並行し継続的に実施することが重要であり,呼吸困難の少ない効率的な動作方法の指導を通して,「しているADL」の拡大を図る必要がある7.疾患特有の症状を把握した包括的な対応が求められる.

     

引用文献
1.Bendixen HJ, et al. Self-reported quality of ADL task performance among patients with COPD exacerbations. Scandinavian journal of occupational therapy21: 313-320, 2014
2.Annegarn J, et al. Problatic activities of daily life are weakly associated with clinical characteristics in COPD. Jornal of the American Medical Directors Association 13: 284-290,
3.Gonzalez-Moro RJM, Impact of DOPD severity on physical disability on physical disability and daily living activities: EDIP-EPOC Ⅰ and EDIP-EPOC Ⅱ studies. International Journal of clinical practice 63: 742-750, 2009
4.Kruapanich C, Tantisuwat A, Thaveeratitham P, et al:Effects of Different Modes of Upper Limb Training in Individuals With Chronic Obstructive Pulmonary Disease:A Systematic Review and Meta—Analysis. Ann Rehabil Med 43:592—614, 2019
5.Garcia IFF, Tiuganji CT, Maria do Socorro Morais Pereira Simões, et al:Activities of Daily Living and Life—Space Mobility in Older Adults with Chronic Obstructive Pulmonary Disease. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis 15:69—77, 2020
6.Fan VS, Locke ER, Diehr P, et al.: Disability and recovery of independent function in obstructive lung disease: the cardiovascular health study. Respiration, 2014, 88: 329-338.
7.藤本侑大,島崎寛将,納冨敦子,他:わが国の呼吸リハビリテーションにおける作業療法報告のシステマティック・レビュー―呼吸器リハビリテーション科への職名追記からの10年間.作業療法38:585—592,2019

     

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