TOPICS

お知らせ・トピックス
コラム

Constraint-induced movement therapy(CI療法)における神経可塑性のメカニズム(2)

UPDATE - 2022.9.26

<抄録>

 脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチのひとつとして,Constraint-induced movement therapy(CI療法)がある.このアプローチは,世界中のガイドラインにおいて,推奨されており,中等度から軽度の上肢麻痺を有する対象者においては,有効な上肢機能アプローチである.CI療法については,上肢麻痺の改善に関する生理学的なメカニズムとして,大脳皮質をはじめとした中枢神経の可塑性変化(再構成)が考えられ,これに関しても多くの研究がなされている.本コラムにおいては,これらCI療法の脳の可塑性に関する研究をまとめ,簡単な解説を行うことを目的としている

     

1.Constraint-induced movement therapy(CI療法)における重要な動作に関する可塑性変化について

 さて,Constraint-induced movement therapy(CI療法)は麻痺側上肢の上肢機能の改善に加え,実生活における麻痺側上肢の使用行動の変容を目的としている.つまり,ただ単に動く手ではなく,実生活において使える手を創出することが求められている.そういった目的の中で,物品(道具)を移動する,もしくは操作するといった能力は必須のものであり,対象者から求められる動作でもある.その中でも物品(道具)の移動や操作において,最も基本的な動作となるのが,母指と示指によるつまみ動作(対立)である.
 CI療法において,集中的に練習される重要な動作の一つとしても,母指と示指によるつまみ動作(対立)はあげられており,Napierら1によって精密把持という名が付けられている.精密把持handbookは,指の個体認識と目標達成に向けた習熟した動作を行うための予測的な動作計画が必要となる.これに対し,パワーグラスプは,力の制御を優先するために,2指から5指と母指を分離することなく,物品を握り込むストラテジーであると,Napierら1は定義している.精密把持とパワーグラスプに関連する脳の領域としては,前者が背側運動前野であり,後者は一次運動野であると報告されている.Kantakら2は,背側運動前野は,動作の準備,動作の選択,リーチング動作におけるオンライン制御の際に使用されると報告している.一方,一次運動野は,力の制御と運動の実行に関連しているとされている3,4.このように,運動制御の種別によって,賦活される皮質領域が異なることが示されている.
 さて,それではCI療法においては,どういった種別の運動制御が必要とされ,改善するのであろうか.例えば,Tanら5の研究によると,脳卒中後上肢麻痺を呈した対象者に,2週間のCI療法を実施したところ,特に精密把持が必要なシチュエーションにおいて,手の構えや姿勢選択の予測計画能力が改善され,到達把持課題における動作実施時間が改善されたことが示された.これらの結果から,CI療法において,物品や道具を用いた集中的な課題指向型アプローチにおいては,主に力の制御や出力を必要とする能力よりも,予測的な計画に関与する経路6, 7に寄与する可能性が高いといったことが推論されている.
 そこで,Demerらは,CI療法とCI療法以外のアプローチを実施する群に,慢性期の脳卒中後上肢麻痺を呈する対象者をランダムに割り付け,アプローチ実施前後に,精密把持課題とパワーグラスプ課題を実施し,その際の脳の賦活をfunctional Magnetic resonance imaging(fMRI)を用いて検討を行っている.その結果,CI療法を実施した群は,CI療法以外のアプローチを実施した群に比べて,手の巧緻性を測定するWolf Motor Function Testにおける6項目の評価において,有意な改善を認めたと報告している(Motor Activity Logについては,両群の間に有意な改善差は認めなかった).アプローチ前後のfMRIの変化において,両群の間で一次運動野については,有意な変化を認めなかったと報告している.一方,運動前野の活動については,CI療法以外のアプローチを実施した群に比べて,CI療法を実施した群の方が有意な活性を示したと報告している.これらの結果から,慢性期の脳卒中患者において,CI療法はCI療法以外のアプローチと比較して,手指の巧緻性を改善させるとともに,手指に関する精密把持に関するネットワークを賦活し,神経可塑性を生じさせうるリハビリテーションアプローチであることが示唆された.

     

引用文献
1.Napier J. R. (1956). The prehensive movements of the human hand. J. Bone Joint Surg. 38 902–913.
2.Kantak S. S., Stinear J. W., Buch E. R., Cohen L. G. (2012). Rewiring the brain: potential role of the premotor cortex in motor control, learning, and recovery of function following brain injury.Neurorehabi. Neural Rep.
3.Cramer S. C., Weisskoff R. M., Schaechter J. D., Nelles G., Foley M., Finklestein S. P., et al. (2002). Motor cortex activation is related to force of squeezing. Hum. Brain Mapp. 16 197–205.
4.Johansen-Berg H., Rushworth M. F., Bogdanovic M. D., Kischka U., Wimalaratna S., Matthews P. M. (2002). The role of ipsilateral premotor cortex in hand movement after stroke. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 99 14518–14523.
5.Tan C., Tretriluxana J., Pitsch E., Runnarong N., Winstein C. J. (2012). Anticipatory planning of functional reach-to-grasp: a pilot study.Neurorehabil. Neural Rep. 26 957–967.
6.Muir R. B., Lemon R. N. (1983). Corticospinal neurons with a special role in precision grip.Brain Res. 261 312–316.
7.Carey J. R., Bhatt E., Nagpal A. (2005). Neuroplasticity promoted by task complexity.Exerc. Sport Sci. Rev. 31 24–31
8.Demers, M., Varghese, R., & Winstein, C. (2022). Retrospective Analysis of Task-Specific Effects on Brain Activity After Stroke: A Pilot Study. Frontiers in human neuroscience, 16.

     

<最後に>
【9月26日他開催:整形外科患者の術前後理学療法〜評価・介入・患者マネジメントのポイント〜】
本講習会では、セラピストが遭遇することの多い整形外科疾患や外傷に対する術前・術後理学療法のポイントについてエビデンスを踏まえて解説していく。
https://rehatech-links.com/seminar/22_9_26/

     

【オンデマンド配信:高次脳機能障害パッケージ】
1,注意障害–総論から介入におけるIoTの活用まで–
2,失認–総論から評価・介入まで–
3,高次脳機能障害における社会生活支援と就労支援
 –医療機関における評価と介入-
4,高次脳機能障害における就労支援
 –制度とサービスによる支援・職場の問題と連携–
5,失行
6,半側空間無視
 通常価格22,000円(税込)→8,800円(税込)のパッケージ価格で提供中
https://rehatech-links.com/seminar/koujinou/

前の記事

Constraint-induced movement therapy(CI療法)における神経可塑性のメカニズム(1)

次の記事

脳卒中患者に対する上肢麻痺に対するアプローチであるConstraint-induce movement therapyはバランス機能や移動機能にどの程度影響を与えるのか?