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脳卒中患者に対する新しいアプローチとしてのBrain machine (computer) interfaceの現在の立ち位置について(2)

UPDATE - 2022.11.4

<抄録>

 脳卒中後の患者にブレイン・マシーン(コンピュータ)・インターフェイス(BMI, BCI)技術を用いることで機能回復がもたらされることは、多くの臨床研究によって実証されている。このコラムの目的は、脳卒中後の上肢機能回復におけるBCIの使用を調査した臨床研究の効果量と、運動回復のためのBCIトレーニングに対する経頭蓋直流刺激(tDCS)の増強効果について簡単に解説し,今後来るかもしれない工学機器を用いたリハビリテーション時代における知識補充の一助としたいと考えている.なお(2)では,主にBCIの効果については,ランダム化比較試験の結果やシステマティックレビューとメタアナリシスの結果から論述を行う.

     

1.Brain machine (computer) interfaceの効果について

 2009年,Dalyら1は,脳卒中後の上肢麻痺に対するリハビリテーションにおいて,脳波信号を用いたBrain machine (computer) interface(BMI, BCI)と機能的電気刺激を用いた,BCIを用いてアプローチを行ったケーススタディを発表した.このケーススタディでは,脳卒中後上肢麻痺を有した対象者に,3週間のBCIを用いて実施している.対象者は手指の伸展筋群に機能的電気刺激を装着し,その電気刺激のトリガーを脳波によって制御可能なBCIを用いて実施した.その結果,対象者は随意的な麻痺手の手指の伸展を回復させたと報告している.このケーススタディを皮切りに,BCIに関する効果検討の研究は大きく発展を遂げることとなる.
 その後,複数のランダム化比較試験2, 3によって,短期的な麻痺手の手指に関する運動機能の回復が明らかにされた.さらに,これらの研究の中で,複数の研究者が痙縮や筋力,さらには日常生活活動といった側面においても,短期的な回復が認められたと報告しており,有用な手法の一つとして考えら得ている.
 しかしながら,BCIと神経科学的な側面で非常に類似したメカニズムを有しているバーチャルリアリティシステムを用いた介入やミラーセラピー,メンタルプラクティス等においては,介入直後の即時的な効果にのみ言及されており,長期的な効果については,示すことができていない状況である.従って,BCIにおいても,短期的な機能回復だけでなく,長期的な側面においても,検討が必要であると考えら得ている.
 さて,ここからは,それではシステマティックレビューやメタアナリシスにおける検討を紹介していこうと思う.最近のメタアナリシスでは,Cerveraら4が,9つの研究に基づき,BCIの対照軍に対する結果について述べている.この研究においては,麻痺側上肢の手指の運動機能については,対照群に比べ,臨症上の意味のある最小変化量である5.25点を超える有意な短期的な機能改善を示すであろうことが示唆されている.しかしながら,痙縮や筋力においては,そのかぎりにないことも同じ研究の中で示されている.さらに,Baiらは,メタ解析(12試験)の結果,BCIを用いたアプローチ後の上肢機能改善についてはBCIに有利な中程度の効果量(標準化平均差[Standardized means difference: SMD]=0.42; 95% CI=0.18-0.66; I2=48%; P < 0.001; 固定効果モデル)だったが,長期効果(5試験)は有意ではなかった(SMD = 0.12; 95% CI = – 0.28 – 0.52; I2 = 0%; P = 0.540; 固定効果モデル).従って,BCIについては現状の検討においては,短期効果においては有意な効果が示されているが,長期効果においては,示されていないということが示唆されている.今後も,多くの研究が実施される中で,それらの経過について,注視が必要であると思われる.

     

引用文献
1.Daly JJ, Cheng R, Rogers J, Litinas K, Hrovat K, Dohring M. Feasibility of a new application of noninvasive brain computer interface (BCI): a case study of training for recovery of volitional motor control after stroke. J Neurol Phys Ther. 2009;33:203–211.
2.Ramos-Murguialday A, Broetz D, Rea M, Laer L, Yilmaz O, Brasil FL, Liberati G, Curado MR, Garcia-Cossio E, Vyziotis A, et al. Brain-machine interface in chronic stroke rehabilitation: a controlled study. Ann Neurol. 2013;74:100–108.
3.Biasiucci A, Leeb R, Iturrate I, Perdikis S, Al-Khodairy A, Corbet T, Schnider A, Schmidlin T, Zhang H, Bassolino M, et al. Brain-actuated functional electrical stimulation elicits lasting arm motor recovery after stroke. Nat Commun. 2018;9:2421.
4.Cervera MA, Soekadar SR, Ushiba J, Millan JDR, Liu M, Birbaumer N, Garipelli Brain-computer interfaces for post-stroke motor rehabilitation: a meta-analysis. Ann of Clin Transl Neurol. 2018;5:651–663.

     

<最後に>
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