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竹林崇先生のコラム

Mixed reality(MR)を利用した上肢機能練習の現状について(1)

UPDATE - 2023.1.9

<抄録>

 Mixed reality(MR)とは,仮想現実と有形物を組み合わせた複合現実感を有する空間であり,脳卒中後に上肢麻痺を有した対象者が一人で,モチベーションを維持しつつ反復的な自主練習を実施できるデバイスとして注目を集めている。MR空間を作る道具としては,ゴーグルタイプのものを始めとした様々な形態のものが試行されており,今後も広がりを見せていく予感がある.さて本コラムにおいては,これらMRデバイスを用いた脳卒中後に生じる上肢麻痺に対するリハビリテーションプログラムの現在と,今後どう言った開発の方向性が見られるかについて,2回のコラムを通じて論じてく.第一回は,これまでのMRデバイスを用いた脳卒中後に生じる上肢麻痺に対するリハビリテーションプログラムの現状について,解説を行っていく.

     

1.Mixed Reality(MR)技術を用いた脳卒中後に生じる上肢麻痺に対するリハビリテーションプログラムの現在について

 脳卒中後に上肢麻痺を有する対象者は,それが原因で日常生活活動に不便を感じていたり,Quality of lifeの低下が認められることが報告されている.脳卒中後の上肢麻痺の改善のためには,効果のエビデンスが確立されているリハビリテーションプログラムを受ける必要があるが,多くの国において,公的な社会福祉費用の削減により,リハビリテーションプログラムを恒久的に受けられるシステムは崩壊しており,そう言った機会は限られている.本邦においても,その傾向は強まっている.2020年には,発症から180日以降のリハビリテーション実施事の点数の減点等により,医療機関においてリハビリテーションプログラムを提供する病院は激減している.従って,在宅における対象者自身が実施できるリハビリテーションプログラムの開発が急務と考えられている1.また,脳卒中後に身体障害を有した対象者は,リハビリテーションプログラムを受けに外出するにも,そのために公的サービスを利用したり,キーパーソンの援助が必要な場合もあり,それらがリハビリテーションプログラムを受ける際の障壁になる可能性も指摘されている2.
 そう言った背景があるものの,実際は在宅におけるリハビリテーションプログラムを実施する理学療法士および作業療法士の人的リソースも不足しており,さらには対象者の費用的な問題も相成り,それらの問題を解決できるソリューションはまだ確立されていない.一方,近年ではICTを用いた遠隔リハビリテーションにより,それらの問題に立ち向かおうとする動きもある.例えば,Cramerらは,在宅におけるICTを用いた遠隔リハビリテーションの効果を検討するために,Fugl-Meyer Assessmentの上肢項目(FMA)において,22点から56点の脳卒中後上肢麻痺を有した対象者を対象として,比劣性のランダム化比較試験を実施した.この研究においる運動療法は,1セッション70分の運動療法を36セッション実施するというものであり,遠隔リハビリテーション,通常の対面の運動療法,それぞれを実施する群ともに同量のリハビリテーションプログラムが提供された.その結果,124名の亜急性期の脳卒中を有した対象者(女性34名,男性90名)に実施した結果,遠隔リハビリテーションを実施した群はFMAが平均して7.86ポイント回復したことに対して,従来の対面の運動療法を実施した群は,FMAが平均して8.36ポイント回復したと報告している.統計的な検討の結果,両群において,有意な上肢機能の改善は認められなかったとされており,従来の対面式のリハビリテーションプログラムに対して,遠隔リハビリテーションは有意に劣ることはなかったと報告している.
 しかしながら,上記の研究では,結局ICTを用いたオンライン上でも作業療法士,理学療法士が対応することとなり,コスト的にも実現は非常に困難であるとも考えられている.その一方,近年,Virtual realityやMR,ロボットと言った技術とInternet Communication Technology(ICT)を利用した遠隔にて,対象者自身がリハビリテーションプログラムを実施していく枠組みが開発され,試行されている.これらは,上記のICTのみを用いたリハビリテーションプログラムに対して,より実現可能性が高いと考えられている.さらに,既存のVRでは,細かな手指のモーションキャプチャが困難なこともあり,現在はMRを用いたリハビリテーション プログラムの開発が進められている.

     

まとめ

 本コラムでは,遠隔リハビリテーションプログラムにおけるVRやMRに関する可能性について,現在までの遍歴をまとめた.遠隔リハビリテーションプログラムに関する研究も少なく,さらにはVRやMRについては,探索的な状況であることが理解できると思う.Mixed reality(MR)を利用した上肢機能練習の現状について(2)では,現在実施されている探索的研究について解説を行っていく予定である.

     

引用文献

1. Chen Y, Abel KT, Janecek JT, Chen Y, Zheng K, Cramer SC. Home-based technologies for stroke rehabilitation: a systematic review. Int J Med Inform. (2019) 123:11–22.

2. Saadatnia M, Shahnazi H, Khorvash F, Esteki-Ghashghaei F. The impact of home-based exercise rehabilitation on functional capacity in patients with acute ischemic stroke: a randomized controlled trial. Home Health Care Manag Pract.(2020) 32:141–7.

3. Cramer SC, Dodakian L, Le V, See J, Augsburger R, McKenzie A, et al.. Efficacy of home-based telerehabilitation vs in-clinic therapy for adults after stroke: a randomized clinical trial. JAMA Neurol. (2019) 76:1079–87

4. Schröder J, Van Criekinge T, Embrechts E, Celis X, Van Schuppen J, Truijen S, et al.. Combining the benefits of tele-rehabilitation and virtual reality-based balance training: a systematic review on feasibility and effectiveness. Disabil Rehabil Assist Technol. (2019) 14:2–11.

     

<最後に>
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