<抄録>
脳卒中を罹患した対象者は,多彩かつ複数の後遺症を有することが多い.それらの中でも,半側空間無視や上肢の麻痺は対象者のQuality of lifeを阻害する大きな因子と考えられている.さらに,半側空間無視については,麻痺側上肢の機能的転機において不良因子である可能性が示されている.このコラムでは,1)脳卒中後の半側空間無視を有する対象者における感覚運動障害の回復および実生活における麻痺手の使用行動の回復との関連性について,と2)半側空間無視を有する脳卒中後の対象者における麻痺側上肢を改善するためのリハビリテーションプログラムの有用性について,3回に渡り解説を行なっていく予定である.
1.脳卒中後に生じる半側空間無視について
脳卒中後に生じる後遺症としては,運動障害と認知機能障害が有名である.それらの代表的なものとして,脳卒中後に生じる上肢麻痺,および半側空間無視がある.これらの症候は,ともに脳卒中後を有する対象者のQuality of life(QOL)を低下させる代表的な症候と考えられている.また,QOLの低下だけでなく,上記の二症状は,日常生活活動において大きな問題を生じさせ,実生活における不自由さや不満から,うつ病などを引き起こす原因になるとも考えられている1, 2.
脳卒中後に生じる上肢麻痺と半側空間無視については,それぞれの間に深い関係性が存在すると言える.実際,いくつかの先行研究においては,認知障害と麻痺側上肢の機能回復に関する調査が存在する.例えば,以前のレビューでは,脳卒中後に生じる半側空間無視と機能回復について取り上げている.それらの結果,半側空間無視は,麻痺側上肢の機能回復を妨げる因子として,可能性を指摘されている3.別のシステマティックレビューとメタアナリシスにおいては,注意と遂行機能の障害と,麻痺側上肢の機能予後の間に関連性を見出している.彼らはこの結果から,脳卒中後の上肢麻痺に対するリハビリテーションプログラムを考案する際には,これらの認知障害に配慮したアプローチの戦略が必要であると述べている4.しかしながら,このレビューにおいては,半側無視を有する対象者を含む研究がシステマティックレビューとメタアナリシス研究の対象として除外されており,明確な因果関係は不明であると言われている.また,さらに別のシステマティックレビューでは5,目的指向型に実施する上肢運動障害に対するトレーニングにおいて,半側空間無視は知覚的,記憶誘発的,運動記憶の残存と言った要素が必要な課題に影響を与えることが示されている.ただし,上記のシステマティックレビューが対象としている研究の多くは,半側空間無視の影響が弱い軽度の対象者を中心に実施されたものであり,多くの半側空間無視を有する対象者に適応できる知識かどうかは不明瞭である.
ただし,上記のシステマティックレビューやメタアナリシスの結果からは,1)半側空間無視が脳卒中後の麻痺手の機能予後にどう言った影響を与えるのか,また,2)半側空間無視を有する脳卒中後上肢麻痺を呈した対象者に対する上肢麻痺へのリハビリテーションプログラムが,半側空間無視を有さない対象者に比べて,どの程度の効果を示すかなどは,明らかになっていない現状がある.
1.まとめ
本コラムにおいては,過去の古典的な研究における脳卒中後に生じる半側空間無視と上肢麻痺の機能予後の関連性についてまとめた.この中で,1)半側空間無視が脳卒中後の麻痺手の機能予後にどう言った影響を与えるのか,また,2)半側空間無視を有する脳卒中後上肢麻痺を呈した対象者に対する上肢麻痺へのリハビリテーションプログラムが,半側空間無視を有さない対象者に比べて,どの程度の効果を示すか,と言った課題を感じた.次回の半側空間無視と脳卒中後の麻痺手の機能予後および実生活における使用行動の予後について(2)については,上記の2点に関する知見をまとめ,解説していこうと考えている.
引用文献
- 1.Hartman-Maeir A, Soroker N, Ring H, Avni N, Katz N. Activities, participation and satisfaction one-year post stroke. Disabil Rehabil. 2007;29:559-566.
- 2.Ayerbe L, Ayis S, Crichton S, Wolfe CD, Rudd AG. The long-term outcomes of depression up to 10 years after stroke; the South London Stroke Register. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2014;85:514-521.
- 3.Barrett AM, Muzaffar T. Spatial cognitive rehabilitation and motor recovery after stroke. Curr Opin Neurol. 2014;27:653-658.
- 4.Mullick AA, Subramanian SK, Levin MF. Emerging evidence of the association between cognitive deficits and arm motor recovery after stroke: a meta-analysis. Restor Neurol Neurosci. 2015;33:389-403.
- 5.Ogourtsova T, Archambault P, Lamontagne A. Impact of post-stroke unilateral spatial neglect on goal-directed arm movements: systematic literature review. Top Stroke Rehabil. 2015;22:397-428.
<最後に>
【1月16日他開催:足部・足関節の構造・機能とリハビリテーション】
本講座では足部・足関節障害の病態や理学療法のポイントについてエビデンスを踏まえて解説していく。
https://rehademy.com/seminar/detail/41
【オンデマンド配信:高次脳機能障害パッケージ】
1,注意障害–総論から介入におけるIoTの活用まで–
2,失認–総論から評価・介入まで–
3,高次脳機能障害における社会生活支援と就労支援
–医療機関における評価と介入-
4,高次脳機能障害における就労支援
–制度とサービスによる支援・職場の問題と連携–
5,失行
6,半側空間無視
通常価格22,000円(税込)→8,800円(税込)のパッケージ価格で提供中
https://rehatech-links.com/seminar/koujinou/