1,半側空間無視が日常生活における麻痺手の使用頻度の回復に与える影響
脳卒中は身体障害を起こす主要な疾患の一つである.特に脳卒中後の障害の多くは,脳卒中後に生じる上肢麻痺に起因していることが多いと言われている1.
近年,脳卒中後の上肢麻痺を観察する際に,Fugl-Meyer AssessmentやAction Research Arm Test(ARAT)といったゴールデンスタンダードの検査を用いて,その状態を測定,定量化することが一般的になりつつある.また,これらのゴールデンスタンダードの検査結果を用いた予後予測等も開発されている.
特に,有名なものとしては,Nijlandら2が示した,72時間以内の肩外転,手指伸展が認められた対象者は,6ヶ月後のフォローアップで,ARATが10点回復する確率が98%であることを示した研究などがある.
ただし,この研究を含めた脳卒中後の上肢麻痺に関わる多くの予後予測関連の研究において,運動麻痺の回復の程度を予測する際に,初期の運動レベルに関わる変数のみを使用しており,その他の 疾患由来の機能的な因子について,触れていないことが多い.
実際に,脳卒中後の麻痺手の機能回復や,実生活における麻痺手の使用行動に対して,認知機能や感覚障害等,麻痺そのもの以外の因子も影響を与えると言われており,その中でもとりわけ視覚性の半側空間無視等は,日常生活を過ごす上でも重要な因子となると考えられている3.
そこで,Vanbellingenらは,急性期・亜急性期と亜急性期・生活期に,平均45日の間隔を開けて,検査を実施し,最終的な日常生活における麻痺手の使用頻度の改善にどういった要因が関連するのかを検討している.
結果としては,Catherine Bergego Scaleによって測定した半側空間無視の重症度の程度が,45日後における日常生活における麻痺手の使用頻度の改善に大きな影響を与えることが示された.
また,日常生活における麻痺手の使用頻度が改善するための一つの目安として,Cut-offをCatherine Bergego Scaleにおいて急性期・亜急性期の特点が5点以下をあげている.
この結果からも半側空間無視が実生活における麻痺手の使用頻度に与える影響を大きいことが示唆されている.
2,ロボット療法を用いたlimb activationの実際
Parkら4は,無視を有する脳卒中後の対象者を,無視側(麻痺側)上肢に対して,麻痺手に対する練習として進められているエクソスケルトン型(外骨格型)リハビリテーション システムであるAmadeo Robotic deviceを用いたロボット療法を,1セッション30分の練習を20セッションの介入を行う群と,1セッション30分の従来型のUSNに対する介入(プリズムを用いた視覚探索課題,無視側頸部伸筋・前腕中央部への振動刺激,頭部・体幹を無視側に向けアクティブ・アシスティブに回旋する練習)を実施する群に,ランダムに割付け,線分二等分試験,アルバート検査,日常生活におけるUSNの重症度を測るCatherine Belgego Scaleの結果に対して,比較検討を行った.
その結果,線分二等分検査およびアルバート検査においては,ロボット療法を無視側の手や上肢に実施した群は,従来の治療法に比べて有意な改善を認めたと報告されている.
一方,Choiら5は,38名の亜急性期の脳卒中後に無視を呈する対象者の無視側(麻痺側)上肢に対して,麻痺手に対する練習システムとして開発されたエンドエフェクター型ロボットシステムであるNeuro-X systemを用いて,1セッション30分の練習を15セッション行う群と,同じ時間の視覚探索練習,可動域練習を実施された群で,比較検討を行った.
結果,両群ともに,介入前後で,線分二等分検査,星印抹消検査,Albert検査,Catherine Bergego Scaleにおいて有意な改善を認めたが,両群間に有意な差は認めなかったと報告している.
共にロボット療法を用いた,limb activatioの取り組みであるが,大きな違いとしては,1)ロボットシステムのタイプの違い,2)対象者の病期の違いが挙げられる.生活期の対象者における半側空間無視は,症候として安定しているが,亜急性期における半側空間無視は一過性のものが多く,小規模のランダム化比較試験においては,他の症候や自然回復の影響を受ける場合も多くある.
こう言った点が,2つの類似した研究において,結果の相違を生んだ可能性があるかもしれない.
<参考文献>
1,Veerbeek JM, Kwakkel G, van Wegen EE, Ket JC, Heymans MW: Early prediction of out- come of activities of daily living after stroke: a systematic review. Stroke 2011;42:1482–1488.
2,Nijland RH, van Wegen EE, Harmeling-van der Wel BC, Kwakkel G; EPOS Investigators: Presence of finger extension and shoulder ab- duction within 72 hours after stroke predicts functional recovery: early prediction of func- tional outcome after stroke: the EPOS cohort study. Stroke 2010;41:745–750.
3,Erel H, Levy DA: Orienting of visual attention in aging. Neurosci Biobehav Rev 2016;69: 357–380.
4,ParkJH. The effects of robot-assisted left-hand training on hemispatial neglect in older patients with chronic stroke. A pilot and randomized controlled trial. Medicine 2021;100:e24781
5,Choi YS, et al. The effect of an upper limb rehabilitation robot on hemispatial neglect in stroke patients. Ann Rehabil Med 2016; 40: 611-619
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