<抄録>
脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチ方法の一つとして,Constraint-induced movement therapy(CI療法)がある.この手法は,麻痺側上肢の機能改善に対して,効果のエビデンスが示されており,各国の多くのガイドラインにおいても,推奨されている.C I療法は麻痺手を高い強度で使用するアプローチであり,麻痺側上肢とともに体幹機能を多く使用する.その結果,一部の研究者は,麻痺側上肢に対してアプローチを行った結果,体幹機能の向上に伴い,バランス機能や移動機能といった下肢機能の改善についても言及している者もある.本コラムにおいては,脳卒中後の麻痺手に対するアプローチであるCI療法が,下肢機能に対して,どのような影響を示すのかについて,簡単に解説を行う.
1.脳卒中患者に対する上肢麻痺に対するアプローチであるConstraint-induce movement therapyはバランス機能や移動機能にどの程度影響を与えるのか?
脳卒中は,世界で2番目に多い死亡または機能障害が残存する疾患であり,毎年世界の中でも,116年以上の健康寿命が失われているとされている1.以前に比べれば,脳卒中による死亡例は減ったとされているものの,いまだにヒトの人生に大きな影響を与える疾患の一つであることに変わりはない.
近年,脳卒中後に生じる上肢麻痺を治療するために,多くの手法が考案され,検討がされている.近年においては,特に工学技術との連携の結果生まれた,ロボットアシスト技術や経頭蓋磁気刺激,経頭蓋直流電気刺激,バーチャルリアリティ技術,ゲームを基盤とした楽しみの要素を含むリハビリテーションプログラム等が台頭している.
これらの先進的なリハビリテーションアプローチとともに,一般臨床においては,神経筋促通術,CI療法,課題指向型アプローチ等のクラシカルな方法も,特別なコストがかからないといった事もあり,いまだに人気が高く,上肢,下肢,体力,バランス,歩行,日常生活活動,生活(生命)の質の向上に向け,利用されている.
従来のアプローチの中でも,特にCI療法は多くのランダム化比較試験によって,上肢麻痺の機能改善とともに,実生活における麻痺手の使用行動の改善に対して,効果が示されている.これらに加えて,近年では複数の研究者が,アプローチ実施後に,上肢の運動障害に対するアプローチであるにもかかわらず,脳卒中患者のバランス機能の改善を報告している2-4.
脳卒中患者のバランス能力を客観的に測定する方法は多く存在し,上記で示した論文内では,静的,動的,機能的可動性の要素を測定している.バランスの静的要素としては,圧中心5,質量中心6,左右にかかる対称的な負荷7,によって測定がなされてきた.バランスの動的要素は,Functional reach,Berg Balance Scale,を用いて測定されることが多い.最後に,機能的可動性については,Timed up and goによって測定されることが多い.
これらの背景のもと,Tediaら8は,CI療法によってもたらされるバランス機能と機能的可動性に関する効果について,システマティックレビューとメタアナリシスを実施している.その結果としては,システマティックレビューの結果,8件のランダム化比較試験が抽出された.このシステマティックレビューの結果,対称群としての修正CI療法,神経筋促通術,従来の理学療法等と比較し,バランス機能において,CI療法に有意な改善が認められた論文が3本,対称群と有意な差が認められなかったものが5本認められたとされている.さらに,メタアナリシスでは,CI療法を実施した群が対照群に比べて,有意なバランス機能の改善を示したと報告されている.一方,機能的可動性については,対照群に対して有意な改善が示されておらず,歩行をはじめとした移動手段に関しては,CI療法の影響力は小さいことが示唆された.
引用文献
1.Draaisma L.R., Wessel M.J., Hummel F.C. Non-invasive brain stimulation to enhance cognitive rehabilitation after stroke. Neurosci. Lett. 2020;719:133678.
2.Choi H.-S., Shin W.-S., Bang D.-H., Choi S.-J. Effects of game-based constraint-induced movement therapy on balance in patients with stroke: A single-blind randomized controlled trial. Am. J. Phys. Med. Rehabil. 2017;96:184–190.
3.Fuzaro A.C., Guerreiro C.T., Galetti F.C., Jucá R.B., Araujo J.E.d. Modified constraint-induced movement therapy and modified forced-use therapy for stroke patients are both effective to promote balance and gait improvements. Braz. J. Phys. Ther. 2012;16:157–165.
4.e Silva E.M.G.d.S., Ribeiro T.S., da Silva T.C.C., Costa M.F.P., Cavalcanti F.A.d.C., Lindquist A.R.R. Effects of constraint-induced movement therapy for lower limbs on measurements of functional mobility and postural balance in subjects with stroke: A randomized controlled trial. Top. Stroke Rehabil. 2017;24:555–561
5.Gasq D., Labrunée M., Amarantini D., Dupui P., Montoya R., Marque P. Between-day reliability of centre of pressure measures for balance assessment in hemiplegic stroke patients. J. Neuroeng. Rehabil. 2014;11:39
6.do Carmo A.A., Kleiner A.F.R., Barros R.M. Alteration in the center of mass trajectory of patients after stroke. Top. Stroke Rehabil. 2015;22:349–356
7.Kamphuis J.F., de Kam D., Geurts A.C., Weerdesteyn V. Is weight-bearing asymmetry associated with postural instability after stroke? A systematic review. Stroke Res. Treat. 2013;2013:692137
8.TEDLA, Jaya Shanker, et al. Effectiveness of Constraint-Induced Movement Therapy (CIMT) on Balance and Functional Mobility in the Stroke Population: A Systematic Review and Meta-Analysis. In: Healthcare. MDPI, 2022. 495.
<最後に>
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