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有酸素運動とConstraint-induced movement therapyの関係性

UPDATE - 2020.5.26

■抄録

 有酸素運動は心血管系の病態に対し,運動療法を通して絶大な効果とエビデンスがあると言われている.本稿では,脳卒中後の上肢麻痺に対するエビデンスが確立されたアプローチであるConstraint-induced movement therapyを行う直前に有酸素運動を実施する際に,どのような仮説を立て検討を進めているかについて解説を行う.

 

 

■目次

1.有酸素運動は脳卒中患者のスキルに影響を与えるか?
2.有酸素運動を含む上肢機能練習の可能性
3.有酸素運動の効果を示す可能性がある今後の研究
4.有酸素運動とCI療法を取り巻く現状

 

 

1. 有酸素運動は脳卒中患者のスキルに影響を与えるか?

  有酸素運動は元来,循環器疾患を有する対象者に対し,酸素摂取量や持久力の改善を通して,Quality of lifeの改善に影響を及ぼすと考えられている.近年では,同じ動脈硬化を由来とした血管系の疾患である脳卒中を有する対象者に対しても同様に効果が期待できる可能性を考え,様々な介入研究が実施されている.

 

  例えば,有酸素運動と特定のトレーニングを併用した研究では,運動学習の保持1-4,認知機能(記憶,注意,集中力)5の改善の可能性が示唆されている.これらを応用して,エルゴメーターを用いた有酸素運動は課題指向型アプローチと併用することにより,麻痺手の感覚運動機能を向上することが示唆されている6.これらを一部の研究者たちは,学習行為における事前運動による運動のプライミングと考えており,運動学習介入に先立って行われた介入により脳が活性化され,それに伴う神経活動の増加によって学習行動が強化されると推測されている7, 8

 

  こういったプライミング理論で,学習行動に先行して行われる電気刺激療法や振動刺激療法,イメージングやミラーセラピーによって,より学習行動が強化されると主張するその他の研究も説明がなされるのかもしれない.今回は,Constraint-induced movement therapy(CI療法)をはじめとした脳卒中後の上肢機能練習と並行して,有酸素運動を行った場合にどのような効果が現在考えられているかについて,解説を行う.

 

 

2. 有酸素運動を含む上肢機能練習の可能性

  Trinhら9は,脳卒中後上肢麻痺を呈した患者を対象に比較試験を実施した.42名の脳卒中患者は,1)Wiiを用いた有酸素運動プログラムを含む麻痺手を用いた練習を行なった群,2)CI療法を行なった群,に割り付けられ(論文中にランダムという文字はあるが,割付方法等不明なのでランダム化比較試験とは言い難い),それぞれ1日1時間,10日間,同様の量の練習を行なった.その結果,両群ともに麻痺手の上肢機能は有意な改善を示したと報告している.加えて,練習中の最大心拍数は,Wiiを用いた有酸素プログラムを用いた群の方がCI療法を実施した群に比べて,約33%多かったと報告した.この結果から,彼らは有酸素運動を含む上肢機能練習の可能性について考察で述べた.しかしながら,この研究は実行バイアス(比較方法,アプローチ提供者・対象者の盲検化,評価の盲検化等),統計的な分析方法の間違いなど,筆者らの主張を支持するには,問題を有する研究デザインである.したがって,この研究の結果をもってして,本当に有酸素運動が脳卒中後の麻痺手に関するアプローチに良好な影響があるかどうかは,全く言及できないと考えている.

 

 

3. 有酸素運動の効果を示す可能性がある今後の研究

  De Silvaら10は,有酸素運動がCI療法に与える影響を検証するために,ランダム化比較試験を現在計画し,実行している.彼女らは,生活期の脳卒中患者62名を,1)有酸素運動+CI療法を行う群,2)ストレッチ+CI療法を行う群,の2群に分け,比較検討を行う予定である.この研究のCI療法のプロトコルは1)1日起床時間の90%以上の非麻痺手の拘束,2)10日間の1日3時間の課題指向型アプローチ,3)麻痺手の使用頻度を向上させるための行動療法,を行う予定とされている.なお,実施された有酸素運動の内容は,エルゴメーターを用い,実施可能な心拍数(カルボーネンの式等で算出)の45%の負荷で10分間のウォームアップを行った後,インターバルトレーニングを24分(4分毎に,実施可能な心拍数の75%〜90%の負荷を交互で提供し,回復期間には実施可能な心拍数の60%の負荷を提供),最後に6分間のクールダウンを行う予定である.なお,実施可能な心拍数75%〜90%の負荷に到達しなかった対象者については,少なくとも60%の負荷を提供した.実施終了後,10分後からCI療法を開始する予定とされている.これらは現在実施中の研究であり,今後どのような結果が出るか楽しみな所である.

 

 

4. 有酸素運動とCI療法を取り巻く現状

  現在,進行中の有酸素運動が上肢機能練習の効果に与える影響についての代表的な研究等を通し,私見について紹介した.現在,計画・研究進行中のDe Silvaら10の研究結果が明らかになれば,この関係性の有無について,傾向が見えてくるものと思われる.つまり,現在の所,有酸素運動が脳卒中後の上肢機能練習にどのような影響を及ぼすかについては不明である.一方,本邦のこの分野の研究においても,CI療法のようなエビデンスが確立されているアプローチとの併用療法の効果に対する検討がここ数年のトピックスとなっている.したがって,本邦においても,有酸素運動を用いた併用療法が脳卒中患者に与える影響について研究する事は,まだまだブルーオーシャンといった印象がある.今後,この分野への臨床家の参画が望まれる.

 

 

■動画資料

■謝辞

  本コラムは,当方が主催する卒後学習を目的としたTKBオンラインサロンの須藤淳氏,佐藤恵美氏,山本勝仁氏,森屋崇史氏,堀本拓究氏,甲斐慎介氏,高瀬駿氏に校正のご協力をいただきました。心より感謝申し上げます。

 

 

■執筆者

竹林崇 先生
作業療法士
大阪府立大学
地域保健学域 総合リハビリテーション学類
作業療法学専攻 教授

 

 

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■引用文献

1、Corbetta D, et al: Constraint-induced movement therapy for upper extremities in people with stroke. Cochrane Database Syst Rev 10:CD004433, 2015

2、Wen B, et al: The impact of constraint induced movement therapy on brain activation in chronic stroke patients with upper extremity paralysis: an fMRI study. Int J Imaging Syst Technol 24:270–275, 2014

3、Winstein CJ, et al: Guidelines for adult stroke rehabilitation and recovery: a guideline for healthcare professionals from the American Heart Association/American Stroke Association. Stroke. 47(6):e98–e169, 2016

4、McDonnell MN, et al: A single bout of aerobic exercise promotes motor cortical neuroplasticity. J Appl Physiol (1985) 114(9):1174–1182, 2013

5、Mang CS, et al: Promoting neuroplasticity for motor rehabilitation after stroke: considering the effects of aerobic exercise and genetic variation on brain-derived neurotrophic factor. Phys Ther 93(12):1707–1716, 2013

6、Hasan SM, et al: Defining optimal aerobic exercise parameters to affect complex motor and cognitive outcomes after stroke: a systematic review and synthesis. Neural Plast 2016:2961573, 2016

7、Stoykov ME, et al: Motor priming in neurorehabilitation. J Neurol Phys Ther 39(1):33–42, 2015

8、Stoykov ME, et al: Movement-based priming: clinical applications and neural mechanisms. J Mot Behav 49(1):88–97, 2017

9、Trinh T, et al: Cardiovascular fitness is improved post-stroke with upper-limb Wii-based movement therapy but not dose-matched constraint thearpy. Top Stroke Rehabil 23: 208-216, 2016

10、de silva ESM, et al: Effect of aerobic exercise prior to modified constraint-induced movement therapy outcomes in individuals with chronic hemiparesis: a study protocol for a randomized clinical trial. BMC Neurol 19: 196, 2019

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