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脳卒中後の麻痺手の予後予測の今『2020年ver』

UPDATE - 2020.6.2

■抄録

脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチにおいて,予後予測は非常に重要な要素を占めている.本コラムにおいては,上肢麻痺の予後予測について,概要を報告する.

 

 

■目次

1. 臨床における予後予測
2. 脳卒中後上肢麻痺に対する予後予測

 

 

1. 臨床における予後予測

 急性期から退院先の検討を行ったり,対象者にとって『機能練習を選択し,ボトムアップに意味のある作業を実現するのか?』,『環境調整を導入し,代償的な手段で意味のある作業を実現するのか?』こういった側面においても,予後予測は非常に重要な知識であることは言うまでもない.また,こういった側面の意思決定を行う際に,臨床家は『機能回復の予後』の程度を最も重要な要素として捉えていると報告されている1), 2).

 

 リハビリテーションにおける良好な予後予測ツールを選定する際には,5点重要なことがあるとStinearら3)は述べている.彼らは,1)予後予測ツールとして機能するためには,横断的な研究結果の相関関係を述べるのではなく,縦断的に将来を予測できる事,2)予測ツールには,リハビリテーションアプローチや練習量の因子を加味する事が困難である事(特別なアプローチを行う際の結果の予測には,予後予測ツールの結果にアプローチの特殊性・新規性を加味する必要がある),3)予後予測ツールによって退院時に予測された転機は,その研究が行われた社会情勢や利用可能なサービスによって大きく結果が変動する事,4)予後予測ツールを利用する対象者にとって意味のある予測である必要がある事(例えば,Fugl-Meyer Assessment(FMA)の点数を予測する回帰式モデルが予後予測ツールの中にはあるが,その数値が家族,患者,リハビリテーションの遂行上意味のある解釈ができなければ意味がない),5)予後予測ツールはシンプルであることが臨床利用を促進する大前提である事,等が有用な予後予測ツールを判断する際に必要な視点であると述べている.

 

 

2. 脳卒中後上肢麻痺に対する予後予測

 脳卒中後の上肢麻痺において,アウトカムとして重要となるのが,麻痺の程度を測るFMAと,麻痺手の能力レベルを測るAction research arm test(ARAT)が挙げられる.多くの信頼性が高いと言われる予後予測ツールがこれらのアウトカムを軸に構成されている.ただし,脳卒中発症から10日以内のARATを用いた上肢機能評価から6ヶ月後を予測する予後予測ツールの正確性は50~60% 4), 5)と言われており,その正確性はかなり低い状況である.感覚障害や行為障害,無視などを始めとした空間・身体認知の問題など,上肢麻痺の予後には多くの要因が絡んでおり,単純に初期の運動機能だけで判断は難しい.これらを鑑みた上で,多くの予後予測研究が実施されている.ここでは代表的な研究について紹介していく.

 

 Nijlandら6)の研究では,脳卒中患者を対象とした縦断的な研究を実施しており,ARATの57点中10点を超える能力が得られる確率を,脳卒中発症後72時間以内の麻痺手の手指伸展(FMAの手指伸展1/2点の上下で群分け)と肩関節外転(Motoricity indexの9/33点の上下で群分け)が感度93%,特異度76%であったと報告した.ただ,この予後予測ツールは,検証的な試験が行われておらず,かつ特異度が低い状態での感度の予測であり,誤予測をする可能性が比較的高いとも考えられる.

 

 Stinearら7)は,臨床的予測因子と,脳画像および皮質脊髄路の残存度の影響を示す運動誘発電位といった生理学的指標を組み合わせた予後予測ツールを提示している(図1).この予後予測ツールもNijlandら5)の影響受けており,Shoulder abduction and finger extension (SAFE) scoreと呼ばれる麻痺手の手指伸展と肩外転を点数化するアウトカムを利用し,まずは臨床所見から予後予測を実施する.このスコアで8点以上が取れた場合は,『予後予測良好』と判断する.次にSAFEが8点未満の場合,Transcranial Magnetic Stimulationを用いた運動誘発電位の有無を調べ,運動誘発電位が存在する場合は,『予後良好群』と判断する.さらに,運動誘発電位も生じなかった対象者については,脳画像に対して非対称性指数を測り,それが0.15以上の場合は『限定的な回復群』,それ以下の場合は『予後不良群』とまとめている.この予後予測方法は,全体の75%程度の正確性を担保しているとの報告がある.

 

 最後に,Winterら8)は,脳卒中発症から72時間以内のFMAを測定し,0.7×(66-発症時のFMA)+0.4 ≒ 予測できるFMA,といった直線回帰式を示し,全体の対象者の70%程がこの式の示す値の70%以上の回復を示したと報告している.

 

 

■動画資料

■謝辞

本コラムはTKBオンラインサロンの須藤淳氏,田中卓氏,岡徳之氏,に校正の協力をいただき,発刊しました.心より感謝申し上げます.

 

 

■引用文献

1、Cormier DJ, et al: Physiatrist referral preferences for postacute stroke rehabilitation. Medicine (Baltimore) 95:e4356, 2016

2、Kennedy GM, et al: Factors influencing selec- tion for rehabilitation after stroke: a questionnaire using case scenarios to investigate physician perspectives and level of agreement. Arch Phys Med Rehabil 93:1457–1459, 2012

3、Stinear CM, et al: Prediction tools for stroke rehabilitation. Stroke. Stroke 50: 3314-3322, 2019

4、Kwakkel G, et al; Accuracy of physical and occupational therapists’ early predictions of recovery after severe middle cerebral artery stroke. Clin Rehabil 14:28–41, 200037.

5、Nijland RH, et al: Accuracy of physical therapists’ early predictions of upper-limb function in hospital stroke units: the EPOS Study. Phys Ther 93:460–469, 2013 

6、Nijland RH, et al: Investigators. Presence of finger extension and shoulder abduction within 72 hours after stroke predicts functional recovery: early prediction of functional outcome after stroke: the EPOS cohort study. Stroke41:745–750, 2010 

7、Stinear CM, Byblow WD, Ackerley SJ, Smith MC, Borges VM, Barber PA. PREP2: a biomarker-based algorithm for predicting upper limb function after stroke. Ann Clin Transl Neurol4:811–820, 2017 

8、Stinear CM, et al: PREP2: A biomarker‐based algorithm for predicting upper limb function after stroke. Ann Clin Transl Neurol 4: 811-820, 2017


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