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重度上肢麻痺に対するExpanded CI療法を知っていますか?

UPDATE - 2020.7.1

 

 

■抄録

エビデンスが確立されているアプローチ方法として,脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチとしてConstraint-induced movement therapy (CI療法)がある.しかしながら,CI療法は手指・手関節の随意伸展が困難な患者には適応が困難である.そこで,2006年に開発された神経筋促通術とCI療法のコンビネーションセラピーとしてExpanded CI療法(eCI療法)がある.本コラムはeCI療法について解説を行う.

 

 

■目次

1. CI療法は中等度・重度の麻痺手に適応があるか?
2. Expanded CI療法とは?
3. eCI療法のランダムか比較試験による効果検証

 

 

1. CI療法は中等度・重度の麻痺手に適応があるか?

脳卒中罹患後上肢麻痺を生じる対象者は非常に多い.また,上肢麻痺は,日常生活における自立度,およびQuality of lifeに大きな影響を与えると考えられている.

 

 

そういった背景を持つ脳卒中患者に対して,エビデンスが確立されている麻痺手に対するアプローチとしてConstraint-induced movement therapy(CI療法)がある.2018年の定義では,CI療法は4つの主なコンセプトを持つ行動療法である,とされている(1. 反復的課題指向型アプローチ,2. 頻繁なインタラクション,漸進的な難易度調整と学習的観点からの報酬提供,3.  練習で獲得した機能改善を実生活に転移するための心理行動学的戦略 [Transfer package],4. 非麻痺手の抑制 [麻痺手の使用行動への拘束])1)

 

 

 さて,これらのようにエビデンスが確立されているCI療法だが,重度例/中等度例に対しては,今まで適応外とされてきた.その理由としては,CI療法の適応基準に手指の伸展および手関節の背屈が条件として示されていることが挙げられる.ただし,CI療法の開発元でもある米国のアラバマ大学では,重度および中等度の麻痺に対するCI療法の利用について,2006年より検討を進め,介入後6ヶ月間のフォローの結果,麻痺手の機能の大きな改善が示されたと報告している.また,Uswatteらは,それら重度/中等度の麻痺を生じた脳卒中患者へのCI療法の運用について『Expanded CI療法(eCI療法)と名付けている.

 

 

2. Expanded CI療法とは?

 eCI療法とは,CI療法に適応するための機器や上肢装具を用いた従来のCI療法の拡大版のアプローチである.CI療法を重度障害者に適応するために,その標準的なプロトコルに幾つかの変更が加えられた.1日6時間,15日間実施された.

 

 

米国の従来の作業療法では,麻痺手に対する単独のアプローチが中心であったが,eCI療法では重度/中等度麻痺を呈した患者を対象とするため,練習の中に両手練習を含んでいる.また,練習時間外の非麻痺手の抑制時間は,歩行中や日常生活中の転倒を予防するために従来のCI療法に比べると短く設定されている.また,単独の随意運動で練習をしていく従来のCI療法に適応できるようにするため,対象者の状況に応じて,装具やスプリントの装着,および実生活で用いる物品に工夫(カフつきのカップ,レバー式のドアノブの導入等)を凝らした.さらに,手指の随意的な動きを強調するために,機能的電気刺激を手指や肘の伸筋群に設置するなど,補助的な医療機器も併用されている. 

 

 

最後に,従来のCI療法と最も異なる点は,『C I療法の直前に神経筋肉促通術 (Neurodevelopmental techniques: NDT)を用いる点である.2006年に発表されたアラバマ大学のBowmanらの事例研究によって,世界で初めて公表された手法である.さらに,2012年にTaubらのケースシリーズにおいても続報が示されている.NDTによって,筋肉の促通および,筋緊張の軽減を促した上で,CI療法を実施していくものである.

 

 

こういった特徴を持つeCI療法だが,そのアプローチの効果検証に先駆け,Sterrらは,純粋なCI療法(論文内に装具などの記載はなし)をTaubらの示したCI療法の基準(手指10度,手関節20度の随意伸展)を下回った対象者に対して実施し,介入前後の改善が1年後まで継続したと報告した(統計の手法に疑問があり,この結論が正しいかどうかは議論の余地あり)2).これらの結果を鑑み,Uswatteらは,eCI療法の効果検証を実施した.

 

 

3. eCI療法のランダムか比較試験による効果検証

 脳卒中発症後1年以上経過した対象者21名をランダムにeCI療法を実施する群(n=10)(eCI療法群),何も実施しない群(n=4)(プラセボ群),通常ケアを行う群(n=7名)(通常ケア群)に割り付け,効果検証を実施した.結果は,重度症例用のMotor Activity Log(MAL)と,対象者の麻痺手による意味のある作業の満足度が対照群と比べ,有意な改善を認めたと報告した.しかしながら,1年間のフォローアップでは,MALの変化量は,対照群に比べ13%程度の優位性しか示さなかったと報告している.現状では,eCI療法については,今回示した小規模の探索的なランダム化比較試験しか実施されていない.今後,重度/中等度の上肢麻痺を呈した患者に対するeCI療法の効果については,さらなる検証が必要となる.

 

 

■引用文献

1、Uswatte G, et al: Rehabilitation of stroke patients with plegic hands: Randomized controlled trial of expanded Constraint-Induced Movement therapy. Restor Neurol Neurosci 36: 2225-244, 2018

2、Sterr A, et al: CI Therapy is Beneficial to Patients with Chronic Low-Functioning Hemiparesis after Stroke. Front Neurol 5: 2204, 2014

3、Bowman M, et al: A treatment for a chronic stroke patient with a plegic hand combining CI therapy with conventional rehabilitation procedures: case report. NeuroRehabilitation, 21, 167- 176, 2006

4、Taub E, et al: Constraint-Induced Movement therapy combined with conventional neurorehabilitation techniques in chronic stroke patients with plegic hands: a case series. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation, 94, 86-94, 2012



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