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脳卒中後の上肢麻痺に対する複合的アプローチの今

UPDATE - 2020.8.3

 

 

■抄録

  世界における脳卒中後の上肢麻痺に対する学際的なリハビリテーションに対する議論において,複合的な介入は柱の一つとなっている.本コラムでは,脳卒中後の複合的な上肢リハビリテーションの今について解説する.

 

 

■目次

1. 複合的な上肢アプローチが必要とされた訳
2. 麻痺の原因に合わせたアプローチの組み合わせが必要?
3. 複合的アプローチに対するEBPにおけるDecision Tree

 

 

1. 複合的な上肢アプローチが必要とされた訳

一昔前の本邦における脳卒中後の上肢麻痺に対するリハビリテーションは,単一の療法にて,上肢麻痺の全てに対応しようとする動きが盛んに見られていた.世の中には,●●療法と名付けられたアプローチが横行していた.また,それらはエビデンスやメカニズムについて疫学的に検証されることもなく,感情的にお互いの療法の優越や正当性を主張するといった,信用を必要とする医療行為に関する議論とは思えないほど,不毛な論争が続けられていた.しかしながら,昨今では,一部の療法が公衆衛生や疫学的な手法を用いて,自らのエビデンスを明らかにし始めたこともあり,それらのエビデンスを眼前の対象者や置かれた環境において,適切に当てはめるEvidence based practice(EBP)といった考え方の普及につながりつつある.

 

 

 従って,近年では,脳卒中によって失われた上肢機能を回復するために,あらゆる手段を提供し,病態や残存する障害を考慮に入れた上で,脳卒中後の対象者の自発的行動変容を促す取り組みが求められている.Carrら1)は,近年の多くの脳卒中後の上肢麻痺に対する研究の背景を鑑み,『麻痺手の回復が不十分な原因は,脳卒中そのものの直接的な影響に加えてリハビリテーションアプローチが不十分,もしくは不適切である可能性』を示唆している.

 

 

2. 麻痺の原因に合わせたアプローチの組み合わせが必要?

基本的に,一言で上肢麻痺と言っても,その現象が中枢性の運動出力の問題か,末梢性の筋力低下や拘縮,萎縮,筋張力の問題か,であるのか,もっと言えば、体性感覚,運動制御,行為,身体認識,主体感等,同じような現象に見えても,その運動障害の原因は多岐に渡ると考えるのが真っ当である.つまり,その運動障害の原因となる病態把握を進め,それに適したアプローチやエビデンスを組み合わせ,利用することが重要である.さらに,上肢麻痺の回復要因としても,自然回復的な要素と練習による学習依存的なプロセスが複雑に組み合わさって起こると考えられている.ただし,3ヶ月以降に認められる多くの変化が,練習における適応的な学習依存性の変化と現在では考えられている2).

 

 

上記で示したように,特に3ヶ月以降の回復は学習依存的なプロセスの関与が大きいならば,病態把握を基盤とした複合的な練習の必要性は明らかである.しかしながら,ガイドラインにおいては,個々の手法のエビデンスについては,触れられてはいるものの,現場では何が最適と言った議論はなかなか難しく,正確な情報は提供されていない.

 

 

3. 複合的アプローチに対するEBPにおけるDecision Tree

Hatemら3)は,脳卒中リハビリテーションに関する5712の出版済の研究を対象に,上肢運動機能の年記に関する関連性と研究の質の高さに関して,システマティックレビューを実施し,EBPにおけるDecision Treeの作成を実施している.先行研究のシステマティックレビューで取り上げられていないアプローチ方法も積極的に取り上げており,仮にランダム化比較試験が実施されていない場合でも,その試験の質が十分に担保されている場合には,研究対象と捉えている.その結果,5712の研究から包括基準の対象となる270の論文を選別し,分析を行い,図1のアプローチ方法選別時の意思決定のフローを提示した.

 

 

フローでは,基本的に病期,手指の動き(手指の伸展)の有無,痙縮の高低,から推奨するリハビリテーションアプローチとそれらを補助する手法を掲載している.基本的には,Constraint-induced movement therapy(CI療法),筋力練習,ミラーセラピー,ボツリヌス毒素施注といった,既にエビデンスが確立されているアプローチに主眼に置かれている.また,それらを補助するような形で,薬物療法,電気刺激療法,反復経頭蓋磁器刺激,経頭蓋直流電気刺激,メンタルプラクティス,バーチャルリアリティ,などの手法が提案されている.これらを鑑みると,既にエビデンスが確立されている介入を病期と重症度,痙縮といった簡単な病態分類に合わせ,割り振ったフローであり,このフローが全ての対象者および病態に当てはまるとは思わない.しかしながら,このように複数手法を組み合わせ,多様な病態に対し,EBPを志す上での指標の極々一部となる可能性はある.

 

 

■動画資料

■謝辞

 本コラムはTKBオンラインサロンの須藤淳氏,小野田重正氏,に校正の協力をいただき,発刊しました.心より感謝申し上げます.

 

 

■引用文献

1、Carr, J et al: Enhancing physical activity and brain reorganization after stroke. Neurol. Res. Int 2011

2、Kwakkel G, et al: Impact of time on improvement of outcome after stroke. Stroke 37, 2348–2353, 2006

3、Hatem SM, et al: Rehabilitation of motor function after storke: a multiple systematic review focused on techniques to stimulate upper extremity recovery. Frontier Human Neurosci 10: 442, 2016

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