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脳卒中患者のロボット療法に課題指向型練習を加えると結果はどう変わるのか?

UPDATE - 2020.8.8

 

 

■抄録

 ロボット療法に課題指向型アプローチを加えた場合,ロボット療法を単独で実施する群に比べて,麻痺手の生活動作に近いパフォーマンスと,実生活における麻痺手の使用頻度に影響を与える可能性が示唆された.

 

 

■目次

1. ロボット療法に課題指向型アプローチを組み合わせる意味
2. ランダム化比較試験の結果
3. 本邦において,これら複合的な研究はなされているか?

 

 

1. ロボット療法に課題指向型アプローチを組み合わせる意味

 脳卒中後の上肢麻痺を呈した対象者に対して,ロボット療法はエビデンスが確立された有効なアプローチの一つである.しかしながら,麻痺手の身体機能・構造に関わるアウトカムは良好な改善を認めたとしても,実生活における麻痺手の使用頻度の改善に関しては,不十分であると考えられている.こういった背景の元,麻痺手の実生活における使用行動を変容する課題指向型練習を併用することが,複数の研究者によって試みられている(『脳卒中後上肢麻痺に対して,ロボット療法と組み合わせるのは,Constraint-induced movement therapy(CI療法),両手動作練習のどちらが良いか?』←リンクを貼ってくださいhttps://rehatech-links.com/2020/04/24/takebayashi-column02/).ただし,先に示したコラム内で紹介した論文では,麻痺手の使用行動を示すアウトカムの比較がなされていなかったため,本当に実生活における麻痺手の使用行動が,課題指向型アプローチを含むことによって,改善するかどうかが不明確であった.そこで,Conroyら1がランダム化比較試験を用いて,ロボット療法単独で介入した場合と,ロボット療法に課題指向型アプローチ(Transfer packageのコンセプトを一部含む)を併用した場合の比較検討を行っている.

 

 

2. ランダム化比較試験の結果

 Conroyら1はアウトカムの測定者に対し単盲検化を施したランダム化比較試験を実施した.介入期間は12週間(週3日)であり,対象者は中等度から重度の麻痺を生じた生活期の脳卒中患者である.介入方法は,ロボット療法45分に,課題指向型アプローチを15分加えた群(TOT群)とロボット療法を60分間実施した群(R T群)の2通りである.対象者はこれらTOT群とRT群にランダムに割り付けられた.結果としては,介入直後では,TOT群がRT群に比べ,麻痺手の機能・運動障害を測るFugl-Meyer Assessment (FMA)には群間差を認めなかったが,麻痺手の能力障害を測るWolf Motor Function Test (WMFT)と実生活における麻痺手の使用行動を測るStroke Impact Scale(SIS)の手の機能の項目においては,TOT群がRT群に比べ,有意な機能改善を認めたと報告している.また,この研究では,介入直後の結果に加えて,介入から12週後のフォローアップも行っている.フォローアップでは,TOT群はRT群に比べSISの手の機能の項目において,有意傾向(p=0.08)の差を認めたと報告している(図1, 2).

 

 
 まず,Conroyら1の研究の短期的な結果については,同量の練習を実施していても,練習内容の違いにより,影響を与えるアウトカムが異なることを示す可能性がある.例えば,FMAについては,TOT群とRT群の間に有意な差はない.FMAは麻痺の回復段階を確認する中で,単関節の関節運動の動きの程度や異常な共同運動パターンの強弱を評価するアウトカムである.こういった,単純な関節運動を測るレベルの評価には,多彩な課題を実施する課題指向型アプローチやロボット療法練習内容の文脈の違いが,あまり影響を与えない可能性がある.

 

 

次にWMFTについてであるが,WMFTはFMAに比べると日常生活活動における麻痺手のパフォーマスといった側面が強いアウトカムである.このアウトカムにおいては,TOT群はRT群に比べ短期的に有意なパフォーマンスの向上を示した.この結果は,単純な動きを繰り返すロボット療法に比べ,実生活の課題を意識した練習文脈を持つ課題指向型アプローチが,類似のパフォーマンスを必要とするWMFTの結果に影響を与えた可能性がある.

 

 

最後に,短期・および長期効果に関して,SISの手の機能については,短期的にはTOT群がRT群に比べ,有意な改善を認めたと報告している.また,フォローアップについても,TOT群はRT群に比べ,有意傾向を維持していた.これらの結果を鑑みると,特にFMAという基盤となる機能は大きく変わらないにもかかわらず,SISの手の機能が向上した事が,練習内容の文脈が影響を与えた可能性を示唆している.

 

 

3. 本邦において,これら複合的な研究はなされているか?

 世界的には,単一のアプローチで全ての病態に対応は不可能だといった認識が広がり始めている.さて,本邦のトレンドはどのように変わってきているのであろうか.当然,本邦においてもロボット療法と課題指向型アプローチを併用する事で,お互いの欠点を補い,長所を伸ばすためのプロトコル開発が行われている.現在は,ケースレポート2,ケースシリーズ3の結果に止まっているが,現在ランダム化比較試験の実施が終了し4,論文化の段階に進んでいるため,本邦のエビデンスも構築されていく予定である.

 

 

■謝辞

 本コラムはTKBオンラインサロンの高瀬駿氏,に校正の協力をいただき,発刊しました.心より感謝申し上げます.

 

 

■引用文献

1、Conroy SS, et al: Roboti-assisted arm training in chronic stroke: addition of transition-to-task practice. Neurorehabil Neural Repair 33: 751-761, 2019

2、Takebayashi T, et al: Therapeutic synergism in the treatment of post-stroke arm paresis utilizing botulinum toxin, robotic therapy, and constraint-induced movement thearpy. PM R 6: 1054-1058, 2014

3、竹林崇,他:重度から中等度上肢麻痺を呈した慢性期脳卒中患者に対する多角的介入におけるロボット療法の実際.作業療法36: 148-158, 2017

4、Takebayashi T, et al: Assessment of the efficacy of ReoGo-J robotic training against other rehabilitation terapies for upper-limb hemiplegia after stroke: protocol for a randomized controlled trial. Front Neurol 9: 730, 2018

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