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竹林崇先生のコラム

伝統的な上肢機能練習の現在の立ち位置について

UPDATE - 2020.8.18

 

 

■抄録

 エビデンスを語る際に、理学・作業療法の歴史における、伝統的な手法の一つにボバースコンセプトがある.この手法は、エビデンスが不十分という形で伏されてきているが、現場の立ち位置はどのようになっているのか。最新のレビューなどから紐解く。

 

 

■目次

1. 脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチにおける信念対立
2. ボバースコンセプトに関わる臨床研究
3. 本当にボバースコンセプトはエビデンスがないのか?

 

 

1. 脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチにおける信念対立

 脳卒中はリハビリテーション領域において、多くの療法士が経験する疾患の一つである。そのような背景から、多くのアプローチ方法が開発され、実施されてきた。多くのアプローチは開発した優れた療法士の経験を基盤としたものであり、それらの経験に由来する思想の違いなどから、多くの対立が認められた。その対立は、各アプローチに関する技術や知識を教育する団体間、それらに所属する個人による批判の応酬が、学会やセミナーなど様々な場面で繰り広げられたと伝聞されている.

 

 

 しかしながら、昨今では、エビデンスを基盤とした医療(Evidence based Medicine)と言った概念が普及し、徐々に臨床研究から効能のある対象者、そして、アプローチ方法などが明らかになった.これにより、脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチ方法に関するエビデンスが少しずつ蓄えられてきた.その遍歴の中で、どういったアプローチがどのような対象者にどの程度、効能が認められるのか解明され、それぞれのアプローチの特徴をいかす『併用』という考え方が、現在のスタンダードであると筆者は考えている。

 

 

 さて、これらの論争の中心に長く存在するアプローチがある。かつてはボバース療法、現在はボバースコンセプトと呼ばれる手法である。この手法はイギリスの医師、そして理学療法士であるボバース夫妻により開発されたリハビリテーションにおける概念の一つと考えられている。この手法は1940年ごろに始祖により開発され、その後世界的に普及したと言われている。これらのアプローチに対して、現在どのようなエビデンスが形成されているかについて、本コラムでは解説する。

 

 

2. ボバースコンセプトに関わる臨床研究

 伝統的なアプローチであるボバースコンセプトは臨床研究においては、対照群として設定されることが多い.Díaz-Arribas ら1)のシステマティックレビューが参考になる.この研究では,Physiotherapy evidence database (PEDro) scoreにより4-8点と評価されたランダム化比較試験が15本採用されている。また、上肢に関してはこのうちの9本が用いられている。さて、それらの中で,ボバースコンセプトはリハビリテーション領域における他の療法に比べて有意な効果は認められなかったと報告している.むしろ, Constraint-induced movement therapy(CI療法)やロボット療法においてボバースコンセプトに比べ,中等度の優れたエビデンスを有していたと報告している.

 

 

 さて、これらシステマティックレビューで使用されているそれぞれの論文を詳細に検討していこうと思う.9本の論文では,比較の対象となっているアウトカムが全て身体機能・構造レベル評価(Fugl-Meyer Assessment (FMA), Action research arm test, Box and Block test, Motor functional test)が用いられている.9本の論文中,ボバースコンセプトに対して,対照群であるCI療法,ロボット療法,機能指向型アプローチを実施した群が統計的な有意な改善を認めたのは,9本中5本である.次に,9本の論文中,ボバースコンセプトと対照群の間に統計的な有意差が認められなかった研究が4本示されている.ただし,このうち1本はCI療法と比較検討中がなされているが,群間の比較において、統計的な有意差が認められなかった項目はWolf Motor Function Testといった機能的なアウトカムであり,実生活における麻痺手の使用頻度,使用の質については,CI療法の方が統計学的に有意な改善を認めたと報告した.

 

 

3. 本当にボバースコンセプトはエビデンスがないのか?

 上記にあげたランダム化比較試験や,ボバースコンセプトを含むその他のランダム化比較試験の結果を鑑みると,対象者は中等度から軽度の対象者(FMAの上肢機能評価にて20点から30点前後)の対象者については,他の療法士が提供する他のアプローチに対して,優位性を保てていない状況である.ただし,こういった研究の内容を通して,ボバースコンセプトを有用なアプローチではない,と決めてしまっても良いのでしょうか.

 

 

 現在の状況を正確に表現するとすれば,「中等度以上の麻痺を呈された対象者の方には,ボバースコンセプトの優位性はない」に加えて「重度例に対しては,エビデンスが存在しない(未だに検討されていない)」と言うことが挙げられる.つまり,重度な麻痺を呈した症例に対しては,効果は未知数ということを示している.ただし,未知数である手法を,一般的な医療の現場で,継続的に使用し続けることに問題がないわけではない.従って,今後は,重度な麻痺を呈した対象者に対するエビデンス調査する必要がある.

 

 

■引用文献

1、Díaz-Arribas MH, et al: Effectiveness of the Bobath concept in the treatment of stroke: A systematic review. Disabil Rehabi 42: 1636-1649, 2200

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