■抄録
Constraint-induced movement therapy(CI療法)は、行動心理学を基盤としたアプローチであり、種々の環境因子から多くの影響を受けるアプローチと考えられている。今回は、CI療法を実施する環境が小児例にどのような影響を与えるかについて解説する。
脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチは、多種多様である。この中でも、特に一般的なアプローチとして長年利用されてきた手法に、療法士の経験を基盤とし、発展してきた神経筋促通術がある。これらの多くは、療法士と対象者が1対1で実施され、療法士が対象者の身体に直接触れることにより、介入が進むものが多い.そう言った手技の特徴があるからか、これまで療法を提供する場所が、『病院内のリハビリテーション室』、『病院内の病棟』、『病院の外来』、『対象者の自宅』といったような思考がなされることはなかったかもしれない。
ただし、Gibsonら1が提唱したアフォーダンス理論などでも扱われているように、ヒトは環境から多くの情報を取得し、それに応じて、適応する可能性が示唆されている。特に、対象者の身体に直接触れず、環境における行動変容に焦点を当てた心理学的なアプローチであれば、その影響は従来の神経筋促通術に比べて、より強いものとなるかもしれない。本稿では,行動心理学を基盤としたConstraint-induced movement therapy(CI療法)が実施環境によって、どのような効果の違いを生み出すのかについて、解説を行う。
■目次
1. 小児例において,環境が与える影響
2. 環境によるCI療法の効果とエビデンス
1. 小児例において,環境が与える影響
C I療法の環境による効果の可能性にいち早く気づいた研究者は小児分野で特に積極的に調査を進めている。その理由として、入院環境や外来でのクリニックよりも、患児の学習や技能を日常環境に汎化するためには、患児が実際に過ごしている空間、そして、使用する物品を用いて実施した方が、効率が良い可能性を仮説として考えたことが始まりである2。実際に、障害を持つ患児は、脳卒中後の麻痺手機能に関するもの以外で、コミュニケーションスキルにおいては、実際の環境下でアプローチを行った方が、患児の発達における介入効果を高めるといった研究もなされている3。
さらに他の理由としては、CI療法は練習量が多く、それに伴い家族が負担する医療および移動コストを節約できるといった経済的な部分で、より効果のある手法の実現可能性を高める目的もあったとされている4。
ただし、上記に挙げたように、在宅におけるCI療法は良いところばかりではない。これは成人の対象者からも頻繁に聴く話題だが、『自宅では、気持ちが切り替わらない』と言った自宅環境という、その人にとってのプライベートかつ安らぎの空間がCI療法を行う上では、ネガティブに働く可能性も否定できない。また、病院などで実際に境遇が近い対象者と行動をともにすることでモチベーションが上がる可能性もある。特に小児例の場合は、同年代の子供と一緒にグループワークを行うことにより、モチベーションの増強、およびアプローチへの参加等を増やすといったピアモデリングや集団効果の影響力が存在すると報告されている5。これらは、環境によって一長一短を持つものであり、どちらの環境がより小児にC I療法を行う上で有利な条件であるかについて、療法士は知識を持っておく必要がある。
2. 環境によるCI療法の効果とエビデンス
Durandらが、システマティックレビューによって、実施環境の効果について報告している。374本の研究報告のうち、基準を満たした30件の研究から、在宅にて実施されたCI療法の研究を15本抽出された。実際に患児が慣れ親しんだ自宅にてCI療法が実施された研究はランダム化比較試験が12本、偽ランダム化比較試験が1本、探索的偽ランダム化比較試験が1本、単一群前後比較研究が1本挙げられた。また、これらの論文の質はPEDro scoreにて、5.6と中等度から高いものであった。
それぞれの論文の介入プロトコールは、CI療法を自宅でやった群 vs CI療法を別の環境(医療環境)でやった群の比較が2本、CI療法を自宅でやった群 vs 他の療法を自宅でやった群の比較が5本、CI療法を自宅でやった群 vs 他の療法を別の環境(医療環境)でやった群の比較が7本、であった。別の療法としては、両手動作練習、神経筋促通術、伝統的なリハビリテーション、が設定されていた。最後に、単一群前後比較研究は、自宅にてCI療法を実施した研究であった.ただし、全ての研究が対象者50名以下とかなり小規模なものであった。
これらの論文を分析した結果、在宅または集団で実施した場合で、上肢機能および作業遂行機能が有意に改善すると報告されている。しかしながら、エビデンスは弱く、自宅環境および集団という環境因子が、C I療法を行う上での麻痺手の機能および実生活における使用行動にポジティブな影響については現時点では限定的であると結論づけた。
この結果からも、特に小児のCI療法においては、アプローチを実施する環境自体が効果に影響を与える因子の一つといえる可能性がある。これらの知見も踏まえて、アプローチを行っていくことが重要だと思われる。
■引用文献
1、Gibson JJ: The ecological approach to visual perception: classic edition. Psychology Press, 2014
2、Chen CL, et al: Effect of therapist-based constraint-induced therapy at home on motor control, motor performance and daily function in children with cerebral palsy: a randomized controlled study. Clin Rehabil 27: 236-245, 2013
3、Dunst CJ, et al: Everyday family and community life and children’s naturally occurring learning opportunities. J Early Interv 23: 151-164, 2000
4、Eliasson AC, et al: Everyday family and community life and children’s naturally occurring learning opportunities. Dev Med Child Neurol 56: 1225-137, 2014
5、Sakzewski L, et al: Randomized comparison trial of density and context of upper limb intensive group versus individualized occupational therapy for children with unilateral cerebral palsy. Dev Med Child Neurol 57: 139-147, 2015
6、Durand E, et al: At-home and in-group delivery of constraint-induced movement therapy in children with hemiparesis: A systematic review. Ann Phys Rehabil Med 61: 245-261, 2018