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脳卒中後のリハビリテーションにおける回復メカニズムとしての脳の可塑性
−基礎研究からの提言−

UPDATE - 2021.7.13

<抄録>


 昨今の脳卒中後の急性期リハビリテーションは,急性期より積極的に実施されるのものがスタンダードと考えられている.脳卒中後の回復曲線を観察しても,発症から時期が早いほど,急速な回復が見られ,時期が経つにつれて対数曲線的な収束を迎える.その回復曲線に大きな影響を与えているのが自然回復である.

 一方,自然回復の影響がある程度収束した生活期においても,リハビリテーションによって,機能改善はもたらされると報告されており,それらに大きな影響を与える要素として『可塑性』と言う言葉が用いられる.

 本コラムでは,基礎研究の観点から,脳卒中後のリハビリテーションにおける可塑性に関して簡単に解説を行う.


1, 脳卒中後の上肢麻痺における脳の可塑性


 可塑性とは,物理的な意味だけでなく,心理,脳科学など幅広い分野で使用されている言葉である.可塑性の言葉の意味としては,一般的に使われる物理的な意味としては,個体に外力を加えた際に,変形させることができ,その後力を加え続けなくとも,その形状を維持し,元に戻らない性質のことを示す言葉である.ただし,物理的な意味ではなく,人の能力や性質に対して用いられる際には,その意味は若干異なる解釈がなされている.

 人は練習や教育によって,変化するものである.また,行動が変われば,それらを支配している脳実質自体の変化も必然的に起こる.従って,人の行動の変化に伴う脳実質の構造の変化についても可塑性という言葉が用いられる.また,この可塑性という言葉は,『re-organization(脳の再構築)』とも呼ばれており,脳の回復や学習等と結び付けられて語られることが多い.

 さて,脳卒中後の上肢麻痺に対するリハビリテーションにおいて,どのような可塑性が見られるのであろうか.有名な研究にNudoら1)のリスザルを用いた研究がある.彼らは,リスザルの運動をつかさどる一次運動野に人為的に脳梗塞を作成し,片側の上肢・手指に麻痺を生じさせた.さらに,その麻痺した上肢・手指を用いて,小さなシャーレの中に設置した餌を捕食するような練習を多くの回数実施した.その結果,練習前は一次運動野の手の部分に生じた損傷による麻痺をは,練習が進むにつれ,徐々に改善したと報告されている.

 さらに,その改善に伴い,一次運動野の手指の領域が,従来は肘や肩を支配していた領域に対して,張り出し,拡大する様子が認められたと報告した.これらの変化を,彼らは脳卒中後の麻痺手に対するリハビリテーションに起因する脳の可塑性であると報告した.

 これらの検討を皮切りに,脳卒中後の上肢麻痺に対するリハビリテーションによって,脳自体が再構築される,いわゆる可塑性の存在が明らかになったと言われている.


2, リハビリテーションに起因する可塑性はどのようなメカニズムで生じているのか?


 さて,先に示したリハビリテーションという行動に起因して生じる脳の可塑性とは,どう言ったメカニズムが基礎研究においては考えられているのだろうか.

 中枢神経系に病変が生じると,神経細胞の死と神経ネットワークの活動の阻害,と言った二通りの損傷が生じる.前者は,損傷が生じた画一的な部分の損傷により,機能喪失が生じるだけと考えられているが,後者においては,その細胞や神経組織が中継していた,全脳にわたる大きな情報の伝達ネットワークに影響を与えることで,大きな機能損失が生じる可能性が考えられている.それら損傷によって影響を受けた細胞やネットワークが回復する様式として,1)アンマスキング(unmasking),2)プラウティング(sprouting)と現象が古典的に考えられている.

 アンマスキングとは,もともと回路としては接続していたが,今回損傷を受けたネットワークの方がより効率よく情報を伝達できていたため,便宜上使用していなかったネットワークを,今回のアクシデントを契機に使用し,情報の伝達を再開すると言った現象を指す.

 一方,プラウティングは,リハビリテーション をはじめとした行動に惹起され,新しい神経細胞が発芽し,他の細胞と連結することで,新規のネットワークを構築し,情報伝達を再開すると言った現象を指す.

 これらの古典的な再構築のメカニズムに,将来的には幹細胞移植が加わると予測されている(最近では,iPS細胞,Es細胞に続く,Muse細胞による知見が話題になっている. https://www.lsii.co.jp/assets/pdf/20210518-1.pdf (三菱ケミカルホールディングスグループのプレスリリースより).

 これらのように,リハビリテーションにおける可塑性の存在は,臨床家の中でも一般化している.特に一部の研究では,これらの可塑性は特定の練習量に依存するとも考えられており(一部の研究では練習量だけでなく,難易度も重要と考えられている2),これらが近年のリハビリテーションにおける量的練習のトレンドを構築した根拠の一つと考えられている.


<参考文献>


1.Nudo, RJ, Wise BM, Sifuentes F, Milliken GW. Neural substrates for the effects of rehabilitative training on motor recovery following ischemic infarct. Science 272, 1791–1794, 1996

2.Plautz EJ, Milliken GW, Nudo RJ. Effects of repetitive motor training on movement representations in adult squirrel monkeys: role of use versus learning. Neurobiol Learn Mem 74: 27-55, 2000


<最後に>


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