TOPICS

お知らせ・トピックス
コラム

無視側に対するロボット療法により半側空間無視は改善するのか?

UPDATE - 2021.8.19

1. 運動によって半側空間無視を改善する手法

半側空間無視(Unilateral specific neglect: USN)は,脳卒中発症後に生じる症候の一つである.全患者の約13から82%において生じる症候であり,生活を阻害する因子の一つと考えられている1.両側どちらの脳損傷においても,USNが生じるものの,特に右脳が空間的な注意に役割を割いていることがわかっていることから,右脳に損傷を受けた脳卒中患者は,左側の空間認知に障害をきたし,無視症状を発症すると考えられている.

 USNの症状は,脳卒中発症後約3ヶ月で80%以上の対象者が自然に寛解するとされているものの,約20%の対象者は,6ヶ月以降もUSNの症状が持続する2,3.さらに,USNは脳卒中患者のリハビリテーションにおける機能予後においても悪影響を及ぼすと考えられている2, 3

 さて,脳卒中後に生じるUSNに対して,様々なアプローチ方法が考案されている.その内容としては,視覚探索課題,プリズム適応,電気刺激療法,振動療法,Limb activationなどが挙げられる.これらの手法の中でも,特に脳卒中後,手や上肢に麻痺を呈した対象者においては,USNの改善と同時に麻痺の改善をも目標としたLimb activationが作業療法の手法の中では,親和性が高いと考えられている.Limb activationとは,リハビリテーションの練習中や日常生活活動の中で,積極的に無視側に位置する麻痺手を使用する練習方法であり,先行研究においても,亜急性期および生活期において,USNの軽減に効果が示されている2

 Limb activationにおけるUSN改善のメカニズムは,Limb activationにおいて無視側の手や上肢を積極的に使用することで,無視側から入力された体制感覚刺激によって,対応する脳組織が賦活することで,無視側に対する空間的な注意が促進されると考えられている.加えて,複数の研究者は,Lim activationにおける,無視側の手や上肢を積極的な使用によってもたらされる脳の賦活が,非損傷側脳の過剰な脳賦活に対する抑制刺激として働くことも併せて,USNの軽減につながっているとも考えられている.

 

2. 無視側の手・上肢に対するロボット療法は無視を改善するのか?

Limb activationによって,無視が改善するというエビデンスはあるが,その練習方法については明確に言及されているわけではない.昨今,無視側の手・上肢対しては課題指向型アプローチがとく用いられてはいるものの,その他にも脳卒中後に生じる麻痺における手や上肢の機能障害に対して,エビデンスが確立された手法はいくつか認められる.

 今回,Parkら4は,生活期の無視を有する脳卒中後の対象者を,無視側(麻痺側)上肢に対して,麻痺手に対する練習として進められているAmadeo Robotic deviceを用いたロボット療法を,1セッション30分の練習を20セッションの介入を行う群と,1セッション30分の従来型のUSNに対する介入(プリズムを用いた視覚探索課題,無視側頸部伸筋・前腕中央部への振動刺激,頭部・体幹を無視側に向けアクティブ・アシスティブに回旋する練習)を実施する群に,ランダムに割付け,線分二等分試験,アルバート検査,日常生活におけるUSNの重症度を測るCatherine Belgego Scaleの結果に対して,比較検討を行った.

 その結果,線分二等分検査およびアルバート検査においては,ロボット療法を無視側の手や上肢に実施した群は,従来の治療法に比べて有意な改善を認めたと報告されている.さらに注目すべき結果としては、Catherine Bergego Scaleにおいても,ロボット療法を無視側の手や上肢に実施した群は,従来の治療法に比べて有意な改善を認めたと報告されている.これらの結果から,上記に示した従来法よりも,ロボット療法を用いたUSNに対する介入は有効な可能性が示唆された.しかしながら,探索的研究かつ小規模な研究の結果であることから,他の多くの研究による検証が今後も必要であると考えられる.

  1. Chechlacz M, Rotshtein P, Humphreys GW. Neuroanatomical dissections of unilateral visual neglect symptoms: ALE meta-analysis of lesion-symptom mapping. Front Hum Neurosci 2012;6:230.
  2. Robertson I, Halligan PW, Bergego C, et al. . Right neglect following right hemisphere damage?Cortex 1994;3:199–213.
  3. Ringman JM, Saver JL, Woolson RF, et al. . Frequency, risk factors, anatomy, and course of unilateral neglect in an acute stroke cohort. Neurology 2004;63:468–74
  4. ParkJH. The effects of robot-assisted left-hand training on hemispatial neglect in older patients with chronic stroke. A pilot and randomized controlled trial. Medicine 2021;100:e24781

 

<最後に>

【8月7日開催:認知神経リハビリテーションを用いた作業療法】
⇨認知神経リハビリテーションの理論と実際を解説し、上肢機能や生活行為に関わる認知過程を観察する視点や介入する手続きについて理解を深める
https://rehatech-links.com/seminar/21_08_07/

【オンデマンド配信:高次脳機能障害パッケージ】
 1,注意障害–総論から介入におけるIoTの活用まで–
 2,失認–総論から評価・介入まで–
 3,高次脳機能障害における社会生活支援と就労支援
  –医療機関における評価と介入-
 4,高次脳機能障害における就労支援
  –制度とサービスによる支援・職場の問題と連携–
 5,失行
 6,半側空間無視
 通常価格22,000円(税込)→16,500円(税込)のパッケージ価格で提供中
https://rehatech-links.com/seminar/koujinou/

前の記事

脳卒中後のHemiplegic Shoulder Painの原因の一つである中枢神経系の障害がもたらす影響について

次の記事

Motor Activity Logの変化を測るための数値について