1.脳卒中後アパシーについて
脳卒中後の後遺症の一つに,運動障害や感覚障害,言語障害などの高次脳機能障害に加え,急性・慢性的な精神障害があり,日常生活に大きな影響を与えると考えられている1.特にその中でも,アパシーは,各種機能回復,日常生活活動,一般的な健康状態,Quality of life等,生活する中で関連するほぼ全ての活動に影響を与える可能性が示唆されている症候である.アパシーはそれそのものが単独で発生することもあるものの,多くの場合,うつ病や認知症の一症状として発生すると言われている2.アパシーを発症した対象者は,意欲,関心,興味,および感情的な反応・行動を喪失し,自発性の低下や環境との相互作用の低下,社会生活への関心の低下を生じと考えられている3.このようにアパシーは,対象者の生活に潜在的かつ広範に悪影響を及ぼすにもかかわらず,その重要性について認知されておらず,臨床で実際に問題視されることも少ない.
では,アパシーの現状はどのようになっているのであろうか.2013年のWillem ven dalenらのシステマティックレビューとメタアナリシスを実施した報告では,脳卒中患者では約3人に1人がアパシーの症状を有する事が明らかになっている.また,うつ病を発症している対象者は,アパシーを罹患した患者全体の約40%程度に過ぎず,アパシーによって生じる無気力という症状は,うつ病と関連しない独立したアパシー固有の症候である可能性が指摘されている.また,脳卒中後に生じるアパシーは,認知機能障害とも関連する可能性が示唆されている.さらに,脳卒中後のアパシーが障害の予後や,リハビリテーションの結果における阻害因子として強い影響力を持つことも示されている.ただし,アパシーに関連する病巣は明らかではなく,医学的な治療方法も確立されていないというのが現状とされている.
2.脳卒中後アパシーが実生活に終ける手の活動量に与える影響
人間の行動を定量化する方法の一つとして,最近,アクチメーター(活動量計)が広く使われている.アクチメーターとは,加速度計やジャイロセンサーを対象者の身体の一部に固定し,長い期間かけて,対象者の活動の特性を評価する機器である.アクチメーターは,睡眠時間やリズム,1日の歩数や,上肢の活動量等を副次的に分析する事が可能であり,活動量そのものを定量化するためのツールとして,研究場面から臨床現場において使用されている.これらのアクチメーターは,近年,アパシーの存在や重症度を評価するためのツールとしても使用されている.これらの研究では,アルツハイマー型認知症や,様々な脳損傷によって生じるアパシーに対してアクチメーターが使用されており,アパシーが強い対象者は,一般的に日中の活動量が少ない事が示唆されている5, 6.これらの知見鑑みると,脳卒中後にアパシーを生じた対象者の麻痺手の使用頻度の低下が予測する事ができる.しかし,脳卒中後に上肢麻痺が生じた場合,麻痺手の活動量は,運動麻痺そのものの影響を受け低下する事が予測される.そこで,Goldfineらは,非麻痺手にアクチメーターを設置し,脳卒中後にアパシーを呈した対象者の上肢の活動量を調査した.虚血性または出血性の脳卒中で,急性期および亜急性期のリハビリテーション病棟に入院している57名の患者を対象とした試験の中で,麻痺手の運動障害と年齢を考慮した分析を実施した結果,Apathy Inventoryが1点増加するごとに,1時間あたりの非麻痺手の活動量が,5-6分間低下するといった関係性が認められた.しかしながら,麻痺手の活動量自体の要因と,アパシーの重症度の間には,中等度以下の関連性しか認められず,活動量自体を構成する要素には,アパシー以外の要因も多く含まれる事が予測された.ただし,これらの知見から,脳卒中後の麻痺手の使用行動(活動量)を制限する因子の一つとして,アパシーが存在する可能性が示唆されている.
引用文献
- Robinson RG. Neuropsychiatric consequences of stroke.Annu Rev Med. 1997; 48:217–229.
- Marin RS. Apathy: a neuropsychiatric syndrome.J Neuropsychiatry Clin Neurosci. 1991; 3:243–254.
- Starkstein SE, Leentjens AF. The nosological position of apathy in clinical practice.J Neurol Neurosurg Psychiatr. 2008; 79:1088–1092.
- Willem van Dalen J, et al: Poststroke apathy. Stroke 44: 851-860, 2013
- David R, Mulin E, Friedman L, et al. Decreased daytime motor activity associated with apathy in Alzheimer disease: an actigraphic study. Am J Geriatr Psychiatry Off J Am Assoc Geriatr Psychiatry. 2012;20:806–814
- Müller U, Czymmek J, Thöne-Otto A, et al. Reduced daytime activity in patients with acquired brain damage and apathy: a study with ambulatory actigraphy. Brain Inj BI. 2006;20:157–160
<最後に>
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