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リハビリテーションにおける”Gamify”の意味について考える

UPDATE - 2021.9.23

抄録

 人生を生き抜く上で,Gamifyと言う言葉が近年用いられ,特にビジネスの領域で使用される場面をよく目にする.Gamifyという言葉は,一見,人生をゲーム化し楽しんで過ごすこと”といったように曲解されることが多い.しかしながら,Gamifyの定義を確認すると『ゲーミフィケーションとは、ゲームメカニクスおよび体験デザインを駆使し、人々が自身の目標を達成できるよう、デジタル技術を利用してやる気にさせ、動機づけることである』とされている.昨今,リハビリテーション領域においても,対象者のモチベーションの向上を目的にゲームを用いた介入を開発するといった動きは加速化している.本コラムにおいては,脳卒中後の上肢麻痺おけるリハビリテーション領域のGamifyの現状と課題について,考察を加えて示す.

     

1.Gamifyとは?

 Gamifyとは,人が人生を生きる上の最新コンセプトとして、2010年周辺でもてはやされた理論である.Gamifyという理論は,『人生をゲーム化し,楽しんで過ごすこと』,『既存,もしくは新たなゲームを通してモチベーションを保ちつつ自身の目的を達成する』といった形で曲解されている場合が多い.しかしながら,Burgら1は,彼の著書『Gamify』の中で,『ゲームメカニクスおよび体験デザインを駆使し、人々が自身の目標を達成できるよう、デジタル技術を利用してやる気にさせ、動機づけることである』と定義している.この定義から,シンプルに考えられることは,ゲームをプレーし,楽しむこと自体は目的ではなく,自身の人生の明確な目的に対し,デジタル技術を用いた体験を動機付けの源とすることに本質があると言える.つまり,この言葉を使用している多くの人々が広義である『社会的な活動にとってゲームが役に立つこと』という認識であり,この言葉の本質であり,狭義でもある『強化学習プロセスやフロー体験を成立させるための最適なフィードバック設計のノウハウを応用する』という本質的な意味を認識し,この言葉を使用していない可能性が大きい.

 さて,では本質的なgamifyという言葉は,どのようなバックグランドにより,考え出された理論なのであろうか.人間の感情や習性を利用し,フィードバックや成功体験等の報酬の提示,承認欲求に代表される自己実現や基本的な欲求を満たすことによって,動機付けとそれに伴う行動変容を導くといった報酬理論が基盤となる.また,これらの科学的なメカニズムとしては,予測報酬誤差によるドーパミン等の神経伝達物質による作用が考えられている.

     

2.リハビリテーションにおけるgamifyは成り立つのか?

 さて,リハビリテーション領域においても,対象者の練習そのものに対するモチベーション向上のために,ゲームを用いるといった施策は10年ほど前から勧められており,近年ではシステマティックな商品などの実証試験なども実施されている.脳卒中後に生じる上肢麻痺に対するリハビリテーションにおいても,この傾向は確認されており,多くのプログラム開発に関わる論文が示されている.

 それではどういったゲームが”Gamify”を実現するために使用されているのだろうか.いくつか開発例を示していく.2018年にChoiら2が発表したゲームでは,麻痺手の動きに合わせて,画面中のゲームが遂行する形がとられている.内容としては,『はちみつが入った壺を壊さないようにキャッチするゲーム』,『ウサギを捕まえるゲーム』,『家事で燃え盛る炎を消すゲーム』といった手を使う可能性がある非日常的なシチュエーションにおけるゲームを提示している.こちらも2018年に開発されたAfsarら3のロボットも,Choiらのゲームと同様に,麻痺手を動かすことで,画面内のターゲットをコントロールできる仕組みになっており,「風船壊し課題」「車をコントロールする課題」等を麻痺手で実施するようなものである.その他にも多数の研究が施行されているが,大きく内容が異なるものは開発されていない.ただし,様々なロボットを用いたリハビリテーションは,従来のリハビリテーションに対して,一定の効果を示せておらず,今後さらなる試行錯誤と開発は必要なことがわかる.

 ところで,これらのゲームを基盤としたリハビリテーションはそもそも”Gamify”の概念を満たしているのだろうか.結論から言うと,全く満たしていないと言えるだろう.リハビリテーションにおける最大の価値は,自身が今後どのように生きたいのかといった全人的復権といった概念が予測される.脳卒中後の上肢麻痺におけるリハビリテーションにおいては,対象者が両手を用いて価値のある作業を再獲得する事こそが,絶対的な報酬となることが予測される.その報酬を予測できるような体験を伴うUser InterfaceやUser experienceを構築することがこれらのゲームを実施する上で大前提となるのではないだろうか.単純にゲームを用いて麻痺手の使用に対するモチベーションを上げると言うだけにとどまらず,今後の彼らの人生に直結する体験を促す要素の付与がこの領域の最大の課題となると思われた.

     

引用文献

  1. 1.Burg, B(著),鈴木素子(訳):GAMIFY ゲーミファイ -エンゲージメントを高めるゲーミフィケーションの新しい未来-.東洋経済新報社,東京,2016
  2. 2.Choi YH, et al: Mobile Game-based Virtual Reality Program for Upper Extremity Stroke Rehabilitation. J Vis Exp 8: 56241, 2018
  3. 3.Afsar SI, et al: Virtual reality in upper extremity rehabilitation of stroke patients: A randomized controlled trial.

     

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