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竹林崇先生のコラム

Hemiplegic Shoulder Painの発症に関する疫学的特徴

UPDATE - 2021.9.28

<抄録>

 脳卒中後に生じる肩の痛みであるHemiplegic Shoulder Pain(HPS)の発症に関する疫学的な検討は少なく、不明なことが多い.しかしながら,仮にこれらの要因が特定できたなら,脳卒中後にHPSを生じる可能性が高い対象者に対し,事前に予防を推奨や,早期からの医学的介入が可能となる.本コラムでは,少ないながらも前出している脳卒中後のHSPに関する検討について,特に年齢,性別,年齢的要因から生じる肩の痛みや変性について,まとめ論述することとする.

     

1. 脳卒中後のHSPにおける年齢及び性別の関係性

 脳卒中後に生じる肩の痛みであるHemiplegic Shoulder Pain(HSP)の発症に関する疫学的な検討は少なく,不明なことも多い.ここでは,年齢と性別に関して,脳卒中後に生じるHSPに関連する疫学的な研究について、まとめていく. 複数の研究者は1, 2,脳卒中後に生じるHSPは年齢と有意な正の相関をなしていることを報告した.一方,他の大規模研究においては,脳卒中後のHSPと年齢や性別の間に関連性は認められなかったと報告している3 ただし,脳卒中後に生じるHSPと年齢についての議論は,母集団における高齢者の特徴に依存する可能性も考えられている.例えば,高齢者は,年齢を重ねるごとに,外傷や軟部組織の瘢痕化など,種々の理由によって肩の痛みや病変を有する確率が高くなる.したがって,そういった要素を持つ対象者が,含まれる割合が多くなれば多いはど,痛みと年齢の関連性は高くなる.また,そういった肩痛に関する特徴を持つ高齢者が,脳卒中後に片麻痺を呈した不自由な身体を用いて,日常生活活動における着替えや移動などを実施することにより,多くの努力や不自然な動作形式を強いられる.これらにより,健常な高齢者に比べて,脳卒中を呈した高齢者はHSPを被りやすい可能性は考えられる.

     

2. 脳卒中患者におけるHSPと既往の肩の痛みについて

 上記でも触れたが,脳卒中に発症する前から,既往として肩の痛みを有する対象者も多数存在する.既往の肩の痛みについては,高齢者に限らず,全ての年齢層の対象者に発症するものであるが,やはり若年者に比べると高齢者における発症率は高いと言わざるを得ない.一方,脳卒中発症のリスクは,高年齢になるにつれ増加する.具体的に示すと,全脳卒中患者の2/3は65歳以上の発症であったことが報告されている4.加えて,一般成人における肩痛の発生は,年齢ごとに全体の7%から30%に存在すると言われており,特に最も高い有病率は,20歳から70歳であるとも考えられている5. これらを総じて考えると,高齢の脳卒中患者になればなるほど,脳卒中発症前から肩の痛みを有していた可能性が大きいと考えられるだろう.

 さて,これらの知見から,脳卒中後のHSPに対し,観察もしくは介入する際に留意すべきことが3つ考えられている.1)肩の痛みの中には脳卒中後の片麻痺が原因でないものがあるため,肩痛の全てをHSPと判断すべきではない,2)脳卒中発症前から存在する既往の肩の痛みは,片麻痺の影響を受けて悪化した可能性も高いが,片麻痺が構造的な原因によって生じた肩痛を悪化させるといった研究は現在のところ存在しない,3)脳卒中発症前から存在する既往の肩の痛みを有する対象者は,肩の痛みをそれ以上悪化しないように(ポジショニングや医学的治療を用いて),特に慎重に注意して介入する必要がある,と考えられている.これらから,脳卒中後の対象者が,肩に痛みを訴えた際に,全てをHSPと断定するのではなく,対象者の既往歴や過去のエピソードについて,家族等の周辺のキーパーソンから情報を収集し,多角的に病態解釈を実施する必要がある.

     

3. まとめ

 本コラムでは,脳卒中後に生じるHSPと年齢、性別、さらには脳卒中発症前から既往として有していた肩痛との関連性についてのべた.これらに対する知見はほとんどないものの,仮にこれらの要因が特定できたなら,脳卒中後にHPSを生じる可能性が高い対象者に対し,事前に予防を推奨や,早期からの医学的介入が可能となると冒頭申した.本コラムの内容からは,高齢者は脳卒中の有無を問わずに肩痛を抱える確率が多いこと,脳卒中発症により,一次的もしくは二次的にそれら既往の肩痛を悪化する可能性,が明らかとなった.この知識を鑑み,高齢脳卒中患者に対しては,既往の肩痛の有無の確認と,ポジショニングや医学的治療による予防的なアプローチによって,生じる肩痛を少しでも現象できる可能性があるかもしれない.これらの知見が,読者の方々の臨床に少しでも寄与できることを祈っている.

     

引用文献

  1. 1.Demirci A, Ocek B, Koseoglu F: Shoulder pain in hemiplegic patients. J PMR Sci 2007;1:2530
  2. 2.Aras MD, Gokkaya NK, Comert D, Kaya A, Cakci A: Shoulder pain in hemiplegia: Results from a national rehabilitation hospital in Turkey. Am J Phys Med Rehabil 2004;83:713-9
  3. 3.Ratnasabapathy Y, Broad J, Baskett J, Pledger M, Marshall J, Bonita R: Shoulder pain in people with a stroke: A population-based study. Clin Rehabil 2003; 17:304-11
  4. 4.Saario L: The range of motion of the shoulder at various ages. Acta Orthop Scand 1963;33:366
  5. 5.McBeth J, Jones K: Epidemiology of chronic musculoskeletal pain. Best Pract Res Clin Rheumatol 2007;21:403-25

     

<最後に>
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