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脳卒中治療ガイドライン2021 痙縮に対する介入に関する雑感

UPDATE - 2021.11.12

<抄録>

 脳卒中後の上肢麻痺をはじめとした機能・活動の向上を目指したリハビリテーションにおいて,痙縮に対する対応は非常に重要な介入の一つであると言える.痙縮によって阻害される日常生活活動は多岐にわたる.それらは,衣服の介助や掌内の清潔を保つなど,微細な日常生活活動にまで影響がある.本コラムにおいては,2021年に発行された脳卒中治療ガイドラインにおける『痙縮』に対する治療の今について,筆者の雑感を含めて解説を行う.

     

1.脳卒中後の痙縮に対するリハビリテーションに関わる介入について 

 リハビリテーションにおいて,機能障害や日常生活活動の改善において,痙縮に対する対応は必ず必要なものである.脳卒中後の四肢の痙性の有病率は、脳卒中後の最初の1年間で対象者の25%から43%に存在すると考えられている.さらに,脳卒中後の急性期リハビリテーションを必要とする対象者では、痙縮の有病率は42%とされている.さらに,中等度から重度の痙性(Ashworth scale score ≥2)の最も強い予測因子は、急性期病院またはリハビリテーション施設への入院時の重度の近位および遠位の四肢の脱力であるとも考えられている.これらの事実を鑑みると,多くのリハビリテーションの場面で,医療者が問題点に挙げる症候の一つと言っても過言ではない.また,痙縮は,日常生活活動における衛生,着替え,痛みなどの活動制限と相関していると言われている.また,これらの活動制限は,介助者の負担を増やし,対象者および介助者のQuality of Lifeを低下させるとも考えられている.従って,それらに対する介入は,脳卒中後のリハビリテーションにおいては,必須のものと言えるだろう.しかしながら,ある研究では,痙縮そのものが脳卒中の重症度と強く関連しているため,痙縮の改善自体が,医療費および介護費用を軽減させる独立因子であるかどうかは,明らかになっていないと報告されている(Lundström E, 2010).
 さて,そういった特徴を持つ痙縮に対する治療法として,医師が扱うもの,療法士が扱うものを含め,脳卒中治療ガイドライン2021においては,表1のようにまとめている.

     

     

 アメリカ心臓学会,アメリカ脳卒中学会が2016年に発行しているガイドライン(Winstein,2016)においても,医師が実施する手法であるボツリヌス毒素療法,フォエノール療法,バクロフェンポンプ療法については,議論の余地はあるものの,推奨できるアプローチであるといった趣旨の記載が認められており,同様の論調であることがわかる.また,療法士が実施する手法である電気刺激療法(アメリカ心臓学会,アメリカ脳卒中学会が2016年に発行しているガイドラインでは,TENSではなく,NMESと記載されている)も同様に推奨がなされている.
一方,装具療法については,アメリカ心臓学会,アメリカ脳卒中学会が2016年に発行しているガイドラインにおいては,「安静時のハンドスプリントの使用は、手首や指の痙性の軽減には効果的ではなく、痙性の設定における拘縮の予防には議論の余地がある」と明確に述べられており,脳卒中治療ガイドラインとはかなり結論が異なる印象がある.これについては,多くのランダム化比較試験や,メタアナリシス ,システマティックレビューの結果を鑑みると,多くの研究において,安静時のスプリント療法を実施した際の短期的な即時効果についての記載が多いことがわかる.従って,痙縮における即時的な短期効果を痙縮の治療効果と考えるかどうかは,ガイドラインをまとめる編者の思考が大きく影響を受ける部分であり,結果が異なったのではないかと推測された.
 最後に,脳卒中治療ガイドライン2021においては,記載がなされていないが, アメリカ心臓学会,アメリカ脳卒中学会が2016年に発行しているガイドラインが取り上げているアプローチとして,「振動刺激療法」が挙げられる.先のガイドラインにおいても,「痙性筋群に振動を加えることで、一時的に痙性を軽減することは考えられるが、長期的な痙性筋緊張の軽減には効果がない」と記載されているため,脳卒中治療ガイドライン2021では,取り上げられなかったのかもしれない.ただし,そういったアプローチも他のガイドラインでは取り上げられている事実については,知っていても損はないと思われた.

     

引用文献

  1. 1.Lundström E, Smits A, Borg J, Terént A. Four-fold increase in direct costs of stroke survivors with spasticity compared with stroke survivors without spasticity: the first year after the event.Stroke41:319–324, 2010
  2. 2.Winstein CJ, Stein J, Arena R, et al. Guidelines for adult stroke rehabilitation and recovery. A guideline for healthcare professionals from the American heart Association/ American Stroke Association. Stroke 2016; 47: e96-e169

     

<最後に>
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