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代表的なガイドラインが推奨するコミュニケーションと認知機能に対する評価とは?

UPDATE - 2021.11.15

<抄録>

 脳卒中後の機能障害は多岐にわたる。その中でも、生活全般に大きな影響を与える障害の一つにコミュニケーション障害と認知機能障害が存在する。本コラムでは、一般的なガイドライン(アメリカ心臓/脳卒中学会のガイドライン20161)において、コミュニケーション障害と認知機能障害を評価する際に、焦点を当ててアセスメントを行う必要性について、推奨されている点を中心に解説を行う。

     

1.脳卒中後のコミュニケーションの障害に対する評価について

 コミュニケーションはヒトが生活する上で、排除することができない非常に重要な要素の一つである。しかしながら、脳卒中後の後遺症においては、しばしばコミュニケーションの障害が生じることがある。また、コミュニケーションの障害は、脳卒中罹患後の生活において、特に国際生活機能分類(ICF: International Classification of Functioning, Disability and Health)における活動、参加に様々な悪影響を及ぼし、長期的な障害に繋がる可能性が示唆されている。これらコミュニケーションの障害について、以前は機能的な障害に焦点が当てられていたものの、昨今では、周囲の環境調整(介護者や周囲のヒトの障害に対する理解を高めて、行動変容を促すことや、物理的な環境によって対象者の心理的バリアを下げるなどの工夫)によって、対象者のQuality of lifeの最大化および、日常生活への参加率の向上を目的にアセスメントや介入を行うことが一般的となっている。
 さらに、上記にも示したが、環境因子の中でも最も対象者に影響を与える介護者のスキルや態度に関する項目も介入対象とし、評価におけるアセスメントに含めるものも増えておる。これらの評価を通して、対象者が現存する残存能力を最大限に発揮し、可能な限り自身の能力に自信と尊厳を持ち、生活活動に復帰できるように、対象者の長所と短所を補うための代償戦略を評価し、見極め、施工することが重要だと考えられている。
 さらに、昨今の試みとしては、遠隔リハビリテーションによって、コミュニケーション障害を有する対象者の心理的バリアを除去するような試みも対面式のコミュニケーション評価に代わる試みとして実施されている。複数の研究によって、コミュニケーション評価において、遠隔リハビリテーションの枠組みの効果が示唆されており、今後注目される分野の一つであると言える2-4.

     

2.脳卒中後の認知機能障害における評価について

 認知機能障害は、脳卒中発症後3-12ヶ月を経過した対象者の1/3以上が有するとされている4, 5.これらの障害の多くは、多くの脳卒中患者において、長期的な生存率の低下、高い重症度、施設入居率の増加等と関連している。さらに、Tatemichiら7, 8の研究においては、認知機能を有する脳卒中後の対象者が、それらを有さない脳卒中後の対象者に比べ、認知機能に関連する生活の問題が生じる可能性を2.4倍、認知症に関連すると報告されている。これらの知見からも、脳卒中発症後の早期から認知機能障害に対する評価を通して、正確なアセスメントを基盤にした介入を実施することが求められている。
 さて、様々な研究において、認知機能障害を捉えるためには、神経行動学的検査が有用なツールと考えられている。神経行動学的検査とは、言語、構成、記憶、計算、推論などを勘弁に検討することができるスクリーニングツールとして一般的な臨床においても広く利用されている。ただし、これらのスクリーニングツールは、幅広い認知機能を広く評価できることが求められる。特に、遂行機能と注意機能について、反応性が高いスクリーニングツールが有用であると考えられているが、多くの簡易型の神経行動学的検査は、これらを網羅的に深く検討することは困難だと言われている。しかしながら、臨床において、最も使用されるこれらのスクリーニングツールについて、最低限含まれているべき項目について理解をし、それらが充足されているツールを用いる、もしくは、足りない部分は他の専門的な神経行動学的検査を用いることで、補うことが必要とされている。最後に、簡易評価に含まれるべき具体的な項目について、記載する。

簡易的な神経行動学的検査に必要な要素
1)単純な注意と複雑な注意(Working memory)
2)受動・能動的言語能力、反復的言語能力
3)巧緻性(道具の使用等の習熟動作)
4)視野や無視を含む、知覚的、構成的視空間能力
5)記憶(言語記憶、視覚記憶)、多様な学習、想起、再認、強制記憶
6)遂行機能(自らの強みと弱みに対するAwareness、課題の整理と優先順位の認識、課題の遂行維持と切替、推論と問題解決、危険の認識と安全判断、感情調整を含む)

     

引用文献

  1. 1.Winstein CJ, Stein J, Arena R, et al. Guidelines for adult stroke rehabilitation and recovery. A guideline for healthcare professionals from the American heart Association/ American Stroke Association. Stroke 2016; 47: e96-e169
  2. 2.Hall N, Boisvert M, Steele R. Telepractice in the assessment and treatment of individuals with aphasia: a systematic review.Int J Telerehabil. 2013; 5:27–38. 
  3. 3.Cherney LR, van Vuuren S. Telerehabilitation, virtual therapists, and acquired neurologic speech and language disorders.Semin Speech Lang. 2012; 33:243–257. 
  4. 4.Hill AJ, Theodoros DG, Russell TG, Ward EC. The redesign and re-evaluation of an Internet-based telerehabilitation system for the assessment of dysarthria in adults.Telemed J E Health. 2009; 15:840–850. 
  5. 5.Patel MD, Coshall C, Rudd AG, Wolfe CD. Cognitive impairment after stroke: clinical determinants and its associations with long-term stroke outcomes.J Am Geriatr Soc. 2002; 50:700–706 

6.Patel MD, Coshall C, Rudd AG, Wolfe CD. Natural history of cognitive impairment after stroke and factors associated with its recovery.Clin Rehabil. 2003; 17:158–166.

     

<最後に>
【11月26日他開催:脳卒中後の痙縮の病態理解と介入戦略】
痙縮や痙性麻痺の病態、評価、治療、管理に関して、臨床での意思決定に繋がる内容を全6回にわたり概説する。
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