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Evidence Based Practiceの必要性について

UPDATE - 2021.12.3

<抄録>

 昨今,Evidence based practice(EBP)について,注目が集まっている.ただし,EBPについて,エビデンスという言葉を聞くだけで,「対象者の個別性を見ていない」といった批判も一部の療法士からは認められるのが現状である.多くの対象者において,公衆衛生のルールに則って得られた知見であるエビデンスを用いたEBPとは,果たして個別性と相反するものなのでしょうか.本コラムにおいては,まず,どうしてEBPが必要とされたのか,それらの起源について,歴史的な背景とともに,キーとなるEchtらの研究を用いて,解説を行う.

     

1. Evidence based practiceの必要性について

 Evidence based practice(EBP)とは,医師を中心に発展した医療行為におけるEvidence based Medicine(EBM)の概念を,コメディカルの領域や教育分野において使用する際に,広がった言葉である.従って,EBPの構成要素は,EBMのそれと同一のものが使用されている.EBMとは,1990年代から欧米において主に使用されてきた概念である.1 この概念は,研究領域においては,多くのエビデンス(証拠)が創出されているにも関わらず,一般臨床では,それら研究で得られた証拠よりも,経験や慣例などを優先した医療が展開されていた現状に危惧を抱いた一部の識者により,構築されたものである.
 EBMを語る上で,非常に重要な臨床研究として,Echtら2のCardiac Arrythmia Suppression Trial (CAST) studyがある.この研究では,心筋梗塞後に生じる無症候性もしくは軽い心室期外性収縮や非持続性心室頻拍を伴う症例に対する治療に焦点を当て検証を行っている.従来,これらの不整脈に対する治療としては,この分野の権威の生理学における基礎研究の知見を基盤とした経験に基づく意見や,個人の経験に基づき,予防的に抗不整脈薬を投与する事が採用されていた.薬剤による不整脈の抑制によって,心大血管由来のアクシデントを抑制し,死亡事案を低下させ,生命予後が延長されるものだと信じられていた.

 しかしながら,その事実に対し,公衆衛生学のルールに則ったエビデンスが存在しない現状を危惧したEchtらが,生理学的な知見を基盤とした経験則に従った介入が,本当に有効であるかを検討するために,前向きの比較試験を用いた検証を行った.抗不整脈薬を用いた介入群は755例,プラセボ群(偽薬)は743例の症例において比較検討が為された.その結果,試験の結果に対する中間審査を実施した際,死亡例は,抗不整脈薬を用いた介入群にて43例,プラセボ群においては17例であった.この結果を鑑み,CAST studyはこれ以上の継続は,安全性の観点から倫理的に困難であると判断され,中止された.本研究のこの結果を転機に,心筋梗塞後に生じる無症候性もしくは軽い心室期外性収縮や非持続性心室頻拍抗不整脈薬の投与について,疑義が生じ,盲目的な投与が行われなくなったと言われている.
 医学において,動物実験をはじめとした基礎研究の知見を参考に哲学的にシュミレーションを行い,治療戦略を構築することは慣例として少なくない.むしろ,リハビリテーション領域においては,解剖学や生理学的な知見を元に考案された療法士の経験的なアプローチを利用する行為が,クリニカルリーズニングという言葉の誤用と重なり,臨床の現場で一般的に実施されていることも一部において認められる.これらの療法士の脳内におけるシュミレーションは,あくまでも思考の根拠の一つであり,エビデンス(証拠)ではない.一見確からしく見える論理に基づいた権威や個人の経験則が,公衆衛生学のルールに則った検証を通して実証してみると,想定とは全く異なる結果となることも多いように思われる.だからこそ,実証試験によって紡がれたエビデンス(証拠)を基盤とした練習系統の構築が必要であると考えられている.
 しかしながら,対極的にエビデンスが確立されていなものは使ってはならないといった極端な思考になるのことも対象者にとっては不利益をもたらす事が予測される.EBPを構成する要素として,エビデンス(証拠)は4つのうちの1つでしかない(他の3つは,1)それぞれの対象者固有の健康状態や診断,それらに対して取り得る手段のリスクと利益を判断し,最適化する臨床的専門知識 [臨床的な判断と経験],2)対象者の[手段に対する]好みや価値観,3)対象者を取り巻く状況 [関わる医療機関の持つ設備やリソースの状況,対象者の経済的・文化的背景,等が考慮されるべき構成要素として挙げられている]).従って,先人達が創造した研究結果によって保証された証拠を基盤とした系統的な練習の構築に加え,1)から3)の要素を鑑みた上で,対象者の臨結果を到達するための最も効率的な手段を,アプローチを提供する療法士側が単独で決めるのではなく,対象者中心のコミュニケーションを通して,一緒に構築する必要があると考えられている.

     

引用文献

  1. 1.Guyatt GH: Evidence-based medicine. ACP J Club 114: A16, 1991
  2. 2.Echt DS, et al: Mortality and morbidity in patients receiving encanide, flecainide, or placebo: the Cardiac arrhythmia suppression trial. N Engl J Med 324: 781-788, 1991

3.Straus SE, et al: Evidence-based medicine: How to practice and teach it. 4th ed, Churchill Livingstone, UK, 2010

     

<最後に>
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