<抄録>
脳卒中後の包括的な評価尺度として,頻繁に使用されている指標にmodified Rankin Scale(mRS)がある.これらの評価は,リハビリテーションの場面というよりも,救急等や脳神経外科,神経内科等の専門病棟にて,医師が使用する場合が多い.しかしながら,観察のみで,評価をつけることができる点や,包括的な全身状態を理解できると言った点では,リハビリテーション領域においても,非常に有用な評価の一つといえる.また,回復期リハビリテーション病院等では,急性期の医療機関より送付されてくる,引き継ぎやサマリーなどにも記載あれていることが多く,接する機会も頻回にある.そこで,本コラムでは,mRSについて解説を行う.
1. Modified Rankin Scaleについて
Modified Rankin Scale(mRS)は,現代の脳卒中医療における臨床現場や研究において,最も一般的な機能的アウトカムの一つである.mRSは世界中で使われている代表的なアウトカムであり,医師や看護師に好んで使用されている.mRSは,脳卒中患者の社会的不利益と行動の制限について,Grade o(無症候)からGrade 5(重度の障害)の6段階で,観察及び聴取から,簡便に評価できるツールとして利用されている.ただし,海外では,主観評価ゆえに,評価者の感性がバイアスとなる可能性が示唆されており,信頼性に大きな問題を抱えていると報告されている.例えば,Quinnらは,mRSの全体的な信頼性について,システマティックレビューを実施しており,Kappa係数および重みづけがなされたKappa係数においては,研究ごとに概ね一致(k=0.21-0.40)からほとんど一致(k=0.81-1.00)まで非常に大きなばらつきを認めている状況である.
そこで,近年,信頼性を高める目的で,Brunoら2が,はい/いいえ,の回答のみによる質問表を用いて,mRSの評価が可能な英語版mRS質問表(Simplified mRS)が公表され,検証がなされている.その結果.Simplified mRSを用いて,評価されたmRSについては,高い検者間信頼性がえられたと報告している(Kappa係数が0.72,重みづけKappa係数0.82).なお,質問表に,はい/いいえ,のガイドをつけることによって,評価の実施時間は,平均1.67分で実施できたとも報告している.
本邦においては, 篠原らが,それらの変動を抑え,客観性を向上する目的でmRSの判定時に参考にすべき判定基準書とそれに応答した問診票の作成を実施した(表1).その結果,評価者である医師10名,看護師6名,理学療法士4名において,検者間信頼性において高い一致律を示した(級内相関係数が医師の間では0.947,コメディカルの間では0.963).また,検者内信頼性においても高い一致率を示した(級内相関係数が医師の間では0.865,コメディカルの間では0.871)と報告している.
さらに,井らが,日本語簡易版mRS質問表を作成している.井らは,本邦において,篠原らの判定基準書とそれに応答した問診票の作成により,客観性は向上したが,Brunoが作成したような,より短時間で正確な評価を可能とする媒体がないという問題提起から,この簡易版評価表の作成に踏み切ったと報告している.この評価表も,Brunoらの作成した評価表とコンセプトが近く,はい/いいえのガイドをつけることにより,より簡便に質問表に答えられるようなシステムが採用されている.この評価表に対する検証結果としては,家族と医師間の検者間信頼性は,kappa係数が0.42,重みづけKappa係数で0.78と,そこまで高い一致率は得られていない現状である.
本コラムでは,mRSの発展の歴史を簡単にまとめた.これらを鑑みると,篠原らが開発した判定基準書とそれに応答した問診票を用いて評価を行う,もしくは数値を理解することが妥当な印象を受けた.今後,臨床にて,これらの数値に遭遇した際には,参考にされたい.
1介助とは,手助け,言葉による指示,見守りを意味する
2歩行は,主に平地での歩行について判定する.なお,歩行のための補助具(杖,歩行器)の使用は介助に含めない
引用文献
- 1.Quinn TJ, et al: Reliability of the modified rankin scale. A systematic review. 40: 3393-3395, 2009
- 2.Bruno A, et al. Improving modified Rankin Scale assessment with a simplified questionnaire. Stroke 41:1048-1050, 2010
- 3.篠原幸人,他.Modified Rankin Scale の 信頼性に関する研究.脳卒中29:6-13, 2007
- 4.井建一朗,他.日本語版簡易Modified Rankin Scale質問表(J-RASQ)の開発と検証.臨床神経 59: 399-404, 2019
<最後に>
【1月14日他開催:病態理解に基づくパーキンソン病のリハビリテーション】
パーキンソン病の病態、広範な症状、治療、unmet clinical needsへの対応、実生活場面の管理や指導について、全6回に渡り説明する。
https://rehatech-links.com/seminar/22_1_14/
【オンデマンド配信:高次脳機能障害パッケージ】
1,注意障害–総論から介入におけるIoTの活用まで–
2,失認–総論から評価・介入まで–
3,高次脳機能障害における社会生活支援と就労支援
–医療機関における評価と介入-
4,高次脳機能障害における就労支援
–制度とサービスによる支援・職場の問題と連携–
5,失行
6,半側空間無視
通常価格22,000円(税込)→16,500円(税込)のパッケージ価格で提供中
https://rehatech-links.com/seminar/koujinou/