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脳卒中後の症状(上肢麻痺を含む)に対する市民啓発活動の意味について

UPDATE - 2022.1.3

<抄録>

 脳卒中の症状は,医療従事者にとっては非常に身近であり,一般的なものである.しかしながら,一般市民において,脳卒中の症状は特異的なものであり,あまりよく知られていないのが現状である.そこで,脳卒中ガイドラインをはじめ,いくつかの媒体においては,市民啓発活動を積極的に行うことを勧めている(脳卒中治療ガイドライン2021では,推奨度A エビデンスレベル高).本コラムにおいては,一般市民に対する市民啓発活動の実際について,まとめて解説を実施する.

     

1. 脳卒中症状の市民啓発活動の実際について

 脳卒中の症状は,リハビリテーションに関わる療法士(医療従事者全般)にとっては,対象者なかでも割合の多い疾患であることから,一般的なものとされている.特に,回復期リハビリテーション病院や脳外科病院などの限られた疾患を取り扱う専門病院では,その傾向はさらに強いことが予測される.しかしながら,一般社会においては,身内や家族の誰かに脳卒中を罹患した方がいなければ,縁遠い疾患であり,その症状も特異的なものとして,あまりよく知られていないのが現状である.

 一方,脳卒中においては,発症からどれだけ早く初期診療を受診することができるかが予後を改善するための一因子だと考えられている.Bekelisら1は,高齢脳卒中患者865名を対象に,患者が脳卒中発症から集中治療センターに運ばれてくる時間と,患者の30日生存率との関係性について調査を行った.この研究では,集中医療センターへの搬送時間が90分未満の対象者においては,30日生存率の向上と関係があることが示唆された.一方,90分以上かけて集中医療センターに搬送された場合は,センターにおける最先端の治療効果といった利点も,他の不利益によって相殺されたと述べられている.

 こういったエビデンスからも,いち早く医療施設に到着することが非常に重要なことがわかる.さて,いち早く脳卒中を罹患した対象者を搬送するためには,「搬送手段の選択」と「症状の察知時間の短縮」の2点が考えられる.例えば,国土が広大なアメリカ合衆国やオーストラリアなどでは,地上の様々な手段とヘリコープターなどの空路を用いた手段を比較した研究などがある.これらの研究の結果から,空路の優位性が明らかとなり2,日本でも山間部や過疎地域では,ヘリコプターの導入が進められている.

 一方,症状察知の時間の短縮については,上にも挙げたように,一般市民にとって,身近な存在では無い,脳卒中という症状について啓蒙活動を行なっていくことが一つの手段となると考えられている.実際,脳卒中治療ガイドライン2021においても「脳卒中発症後に可及的速やかに治療を受ける有用性について,市民公開講座やマスメディアを通じての市民啓発活動を行うことが勧められる(推奨度A エビデンスレベル高)」と述べられており3,非常に重要な取り組みであると言える.

  さて,それでは実際にどのような活動が実施されているのであろうか.これらについては,Miyamatuら3の取り組みが参考になる.彼らは,日本の2都市において,1年間に渡り,脳卒中の症状に関する知識向上を目的としたテレビプログラムキャンペーンを実施した.40歳から70歳の住民1960名を対象に,脳卒中の初期症状に関する知識について,電話にてアンケートを実施した.結果は,テレビプログラムキャンペーンを実施した施設は,それらを実施していなかった施設に比べて,有意な脳卒中の初期症状に関わる知識が向上したと述べている.また,知識の向上は,男性に比べ,女性において有意な上昇を示したとも述べている.さらに,海外でも,Brayらが,ACT FASTキャンペーンに関する調査を実施している.一般市民に対し,FAST(Face, arm, speech, time)に関する脳卒中の知識を提供するための活動を実施した際,キャンペーン前と比較して,救急医療サービスを利用する対象者が毎年有意に増加していた(オッズ比が1.16).一方,一般開業医を経由して,専門病院を受診する対象者は,有意に減少したと述べた(オッズ比が0.48).これらの結果からも,一般開業医を迂回し,治療までの搬送に時間がかかるケースが減少していることが示されている.

 こういった取り組みが,脳卒中発症から治療開始までの搬送時間を減少させている可能性が非常に高いと考えられており,ガイドライン等でも推奨がなされている.正確性の高い情報を地域や一般市民に対して,頒布することは非常に有用な取り組みであると思われる(ただし,正確であることが何よりも前提で,不正確な場合は不利益を提供することに留意しなければならない).

     

参考文献

  1. 1.Bekelis K, et al. Primary stroke center hospitalization for elderly patients with stroke. Implications for case fatality and travel times. JAMA 176: 1361-1368, 2016
  2. 2.SvensonJE, et al. Is air transport faster? A comparison of air versus ground transport times for interfacility transfers in regional referral system. Air Med J 25: 170-172, 2006
  3. 3.Miyamatu N, et al. Effects of public education by television on knowledge of early stroke symptoms among a Japanese population aged 40 to 74 years. Stroke 43: 545-549, 2011
  4. 4.Bray JE, et al. Temporal trends in emergency medical services and general practitioner use for acute stroke after Australian pubic education campaigns. Stroke 49: 3078-3080, 2018

     

<最後に>
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