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竹林崇先生のコラム

上肢麻痺を呈した脳卒中患者に対する上肢の重みを免荷した状態による反復練習の効果について

UPDATE - 2022.3.4

<抄録>

 脳卒中後の上肢麻痺については,多くのアプローチが開発されている.特に,肩関節の亜脱臼は,脳卒中後の後遺症の中でも,痛み等の問題を引き起こし,臨床の問題になることが多い.これら亜脱臼に対して,スリングによるポジショニングや電気刺激療法,ロボット療法等が開発され,実践されているものの,亜脱臼に対する明確な効果を示している介入は限られている.また,一部の効果を示している手法についても,特定の危機等が必要なため,全ての施設で実施できるわけではない.そこで,一部の研究者は,麻痺側上肢の重みを外部から吊り下げたスリング等で免荷しつつ,反復的な上肢練習を実施することを提案している.本コラムにおいては,それらの手法の効果について,論述する.

     

1.脳卒中後の肩関節における亜脱臼の発生率

 肩関節の亜脱臼は脳卒中後の後遺症の一つであり,臨床において問題とされることが多い症候である.脳卒中後の亜脱臼は,急性期においては,全患者の7-81%に生じると報告されている.1さらに,脳卒中発症から10ヶ月間のフォローアップを実施した研究では,生活期の全ての脳卒中患者の約67%に亜脱臼を認めたと報告している.亜脱臼は,脳卒中後に生じる上肢麻痺の回復を遅らせ,適切な感覚入力を阻害すると報告されている.さらには,亜脱臼が慢性的な肩痛にもつながることも報告されており,早期から介入すべき脳卒中後の後遺症の一つと言える.
 過去の取り組みにおいて,脳卒中後の亜脱臼に対して,スリングによるポジショニング,電気刺激療法,肩関節に対するテーピング,電気刺激療法,ロボット療法などが考案され,一部の療法においては,効果を示している.特に,電気刺激療法については,2016年のアメリカ心臓/脳卒中ガイドラインにおいても,推奨されている方法である.しかしながら,一部の指揮者は,スリングによるポジショニングは,歩行練習時の左右の非対称性を生み,効率を悪化させることやスリングによる持続的な上肢屈曲位のポジションが痙縮に悪影響を与えると主張している.2また,テーピングに対しても皮膚のかぶれなど,トラブルが多いとも報告されている.1さらに,電気刺激療法やロボット療法については,特定の機器が必要となり,全ての環境で実施できるものでもないと言われている.
 上記に挙げた問題点を解決するために,近年では,麻痺側上肢の重みを外部から吊り下げたスリング等で免荷しつつ,反復的な上肢練習を実施することを提案している研究者も現れている.以下の項では,スリングによる麻痺側上肢を免荷した練習である『Sling suspension-based exercise』の効果について紹介する.

     

2.Sling suspension-based exerciseについて

 Sling suspension-based exerciseは,脳卒中後に亜脱臼を伴う中等度から重度の対象者に対して,効果を検証されている手法である.Sling suspension-based exerciseは,天井からケーブルによって吊るされたスリングに,麻痺手を挿入することで,麻痺手の重みを免荷し,対象者が随意的に麻痺手を用いた反復練習を実施する練習である.その条件下で,1)座位にて,麻痺手の肘関節伸展位にて水平外転を実施する,2)座位にて,麻痺手の肩関節内旋を肘関節90度のポジションで実施する,3)麻痺手を肘伸展位で,肩関節の屈伸を実施する,4)麻痺手を肘伸展位で,肩関節の外転・内転を実施する,といった4つの練習を繰り返し実施する.なお,練習における負荷量は,自重を用いた練習で難易度が低くなれば,1-3kgの重錘負荷を用いることで,難易度調整を行う.
 Sling suspension-based exerciseについて,Jungらが効果検証をランダム化比較試験を用いて実施している.彼らは36名の急性期の亜脱臼を有する脳卒中患者を対象に,1日40分のSling suspension-based exerciseを実施した介入群と,同時間の両手動作練習を実施した対照群を設定し,週5日,4週間の介入を実施した.その結果,介入群が対照群に比べて,亜脱臼における骨頭間距離,肩関節の感覚障害,麻痺の程度を測定するFugl-Meyer Assessmentの上肢機能評価,Manual Function Testにおいて,有意な改善を認めたと報告している.
 過去の研究において,スリング等で免荷した状態の上肢使用は,免荷を実施しなかった場合と比べ,使用する末梢運動器が異なるとった問題点が指摘されており,その効果は疑問視されていた.本研究においても,改善しているアウトカムは,麻痺の運動出力に関わる機能レベルのものが多く,パフォーマンスや日常生活における使用行動については,論述できていないのが現状である.従って,今回の結果は参考にはなるものの,全ての疑問を払拭した結果ではないことが考えられる.今後もSling suspension-based exerciseに関する続報が待たれる.

     

引用文献
1.Paci M, et al. Glenohumeral subluxation in hemiplegia: An overview. J Rehabil Res Dev. 2005;42:557–68
2.Wang RY, et al. Functional electrical stimulation on chronic and acute hemiplegic shoulder subluxation. Am J Phys Med Rehab. 2000;79:385–90
3.Jung KM, et al. The effects of active shoulder exercise with a sling suspension system on shoulder subluxation, proprioception, and upper extremity function in patients with acute stroke. Med Sci Monit. 2019;25:4849-4855

     

<最後に>
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