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竹林崇先生のコラム

脳卒中後の麻痺手に対するリハビリテーションアプローチにおけるモニタリングの重要性

UPDATE - 2022.3.25

<抄録>

 脳卒中後の上肢麻痺において,様々な治療法が開発されている.多くの治療法は,上肢の機能改善を導き,ガイドライン等においても推奨がなされている.一方で,脳卒中患者のQuality of lifeや幸福感には,麻痺手の機能改善以上に,実生活における麻痺手の使用行動の改善が重要だと主張する研究者もおり,近年ではその主張が認められ,脳卒中リハビリテーションにおけるトレンドになりつつある.脳卒中患者の実生活における麻痺手の使用行動の改善には,多くの要素が必要と考えられている.その中でも,麻痺手に対するモニタリングの重要性が言われている.ガイドラインにおいても,実生活における麻痺手の使用行動の改善に効果を示すと推奨されているConstraint-induced movement therapyもこれらモニタリングの促進を方法論の中に盛り込んでいる.本コラムにおいては,脳卒中後の麻痺手の治療におけるモニタリングの重要性について,解説を行う.

     

1.モニタリングの促進とは?

 モニタリングとは,対象者に彼ら自身の生活における訓練目標となる様々な行動を自己観察してもらい,その内容を口頭,または日記(書面)に記してもらうという行為をさしている.この手法は,行動変容を考える上で一般的であるが,大切なコンポーネントである1.脳卒中後の上肢麻痺に対する訓練においては,モニタリングの対象は,先にあげた訓練目標である対象者にとって意味のある活動はもちろんのこと,実生活におけるそれ以外の麻痺手の使用場面全てが含まれる,
 療法士は,対象者にモニタリングの対象となる全ての行動について,あらゆる側面から観察を指導・依頼する.多角的な側面とは,行動において実施する活動の動作様式や時間,頻度,活動実施の際の対象者が感じる努力感,活動に対する身体的な反応(異常な共同運動パターンの出現など)などがあげられる.
対象者は,これらの側面を含む実際の行動記録を作成する.そして,作成した文書を元に,療法士と内容について繰り返し議論する.その中で,対象者が彼ら自身の行動をモニタリングするための術とスキルを療法士の思考過程から学習していくことがこの手法の本質である.
 対象者に彼ら自身の麻痺手の活動をモニタリングしてもらうために用いる具体的な手法として,実生活における麻痺手の使用頻度と主観的な麻痺手の使い易さを測るMotor activity log(MAL)の自己評価と,日々の麻痺手に関わる行動日記の作成があげられる.これらについて具体的な方法を以下に紹介する.

     

2.モニタリングの具体的な手法

・MALの自己採点によるモニタリングの促進
「MAL」の自己採点を対象者に実施してもらう.MALは脳卒中後の上肢機能評価であり,実生活における麻痺手の使用頻度および主観的な麻痺手の使い易さを測る評価である.下位項目に「Amount of Use(麻痺手の使用頻度)」と「Quality of Movement(麻痺手の主観的な使い易さ)が設けられている.MALには,14項目の日常生活活動からなるMAL-14(表1)2や28項目からなるMAL-28(表2)3などがあるが,UABの許可取得後、正式な翻訳手続きであるダブルトランスレーションを実施し,日本語化がなされているのは高橋らが14項目からなるMAL-14(表3)4のみである.
 MALの対象者による自己採点では,主に療法士と対象者は個別にQOMを採点する.QOMは6項目の順序尺度(表4, 5)であり,0.25点刻みで点数をつける.また,療法士は対象者に各順序尺度が示す現象を実動作の写真(図1)などで明示し,評価法を指導したうえで,対象者が独力で正確にMAL-QOMを測定できるよう支援する.自己評価は,介入期間中毎日実施し,その経過を対象者にわかりやすい形で提示する. Taubら6は,Transfer packageの簡易版として,3時間の麻痺手に対する集中的な課題志向型訓練に加え,何も行わなかった群,MAL-QOMの自己評価のみを実施した群,そしてTransfer packageのコンポーネンツを全て実施した群を比較検討した.結果,訓練終了後6ヶ月間は,MAL-QOMの自己評価を実施した群は,Transfer packageの全てのコンポーネンツを実施した群よりは,MAL-AOUの変化量は小さいものの,何も行わなかった群よりは優れていた(図2).しかしながら,1年後にはMALの自己評価のみ実施した群は,何もしなかった群に比べてもMALの値は劣っており(図2),このMALの自己評価のみ介入では,上肢訓練介入後の長期間の行動変容の保持は困難であることを示唆している.さらに,研究者の中では,研究を実施する際には,主観尺度であるMALを毎日自己評価させることが,評価尺度としてのMALに循環理論によるプラセボ的な影響を及ぼすことを懸念しており,研究実施の際はこの取り組みの導入はよく考えて実施する必要があると思われる.
 しかしながら,MALのこのような使い方を見て,MALは行動変容を起こすツールとして使用できる機能評価としては稀有な存在であるということがわかる.この点が機能・能力評価としてのMALのユニークな点であると思われる.

     

・麻痺手に関わる行動日記の自己作成によるモニタリングの促進
日記は,教育心理学において,「日記法」や「日誌法」と呼ばれ,行動学習・変容を促すツールの一つとして考えられている7.行動日記には大きく3つの目的がある.Morrisら8は,3つの目的を,1)訓練室以外でどの程度,行動契約を守ることができているかを療法士が確認するため,2)訓練室以外での活動に対する気づきを高めることと,活動報告の義務感を強調するため,3)訓練室以外の活動に関して,療法士と対象者が麻痺手の使用頻度を増やすために問題解決するといった定型的な仕組みをつくるため,があげられる.
 行動日記は,基本的に対象者が訓練室を後にし,次回再びやってくるまでの期間を対象としている.基本的には,前回指定された活動や行動契約において決定した目標となる活動を中心に療法士と対象者が現状と活動の可否について報告・相談する.しかしながら,それらの活動だけでなく,できるだけすべての日常生活における活動を報告・相談の対象にすることが望ましい.対象者は,実施した時間や活動に関してできるだけ細かく日記に記載する(例.「できた」/ 「できなかった」,「健手の介助を要した」/ 「要しなかった,などを含む」.実際の行動日記の内容を図3に提示するので,参考にされたい.
 また,「麻痺手の活動を日記にまとめてください」といった不明確な指示では,対象者がどのように日記を書いて良いかわからない.この場合は,療法士が対象者に書いて欲しい情報の例を記載した例文(図3)を提示し,対象者に模倣からはじめさせることを勧める.

     

3.記録したMALや行動日記について

 これらの手法を続けることで,対象者は自らの活動の質に注意を向け,現状の問題点と模範となる動作の差を理解し,訓練を実施することで,効率のよい学習行動および行動変容が可能になると考えられている.
 さらに,対象者が自己評価したMALや記載した行動日記については,翌日療法士と一緒に必ず確認する.そして,これを資料として,困難であった活動に関しては,療法士と対象者が活動の問題点を分析したうえで,問題解決の技法をお互いに提案しながら相談を行い,新たなオーダーメイドの手法を確立するために利用する(「問題解決技法の指導」を参照にされたい).

     

引用文献

  1. 1.Dominick KL, Morey M. Adherence to physical activity. In: Bosworth HB, Oddone EZ, Weinberger M, editors patient treatment adherence: concepys, interventions, and measurement. Mahwah, New Jersey: Lawrence Erlbaum Assoc; 2006
  2. 2.Uswatte G, Taub R, Morris D, et al. Reability and validity of the upper-extremity motor activety log-14 for measuring real-world arm use. Stroke 36: 2493-2496, 2005
  3. 3.Uswatte G, Taub E, Morris DM, et al. The motor activety log-28: Assessing daily use of the hemiparetic arm after stroke. Neurology 67: 1189-1194, 2006
  4. 4.高橋香代子,道免和久,佐野恭子,他:新しい上肢運動機能評価法・日本語版Motor Activity Logの信頼性と妥当性の検討。作業療法28:628-636, 2009
  5. 5.University of Alabama, Birmingham (UAB): UAB Training for CI therapy. UAB CI therapy research group, 2011
  6. 6.Taub E, et al. Method for enhancing real-world use of a more affected arm in chronic stroke: transfer package of constraint-induced movement therapy. Stroke 44: 1383-1388, 2013
  7. 7.Allport, G. W. 194The use of personal documents in psychological science. New York: Social Science Research Council, 1942
  8. 8.Morris DM, Taub E, Mark VW. Constraint-induced movement therapy: characterizing the intervention protocol. EURA MEDICOPHYS 42: 257-268, 2006

     

<最後に>
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