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脳卒中後に上肢麻痺を呈した対象者におけるロボット療法と課題指向型アプローチの効果の違い

UPDATE - 2022.3.21

<抄録>

 近年,脳卒中後に上肢麻痺を呈した対象者に対し,様々なアプローチが開発,考案され,各々の効果のエビデンスが検証されている.その中でも脳卒中後に生じる麻痺に対するアプローチにおいては,ロボット療法および課題指向型アプローチが両巨頭とされている.一般的には,ロボット療法と課題指向型練習は,最も効果を示すアウトカムが異なると考えられている.ロボット療法は上肢機能の改善に優れ,課題指向型アプローチは実生活における麻痺手の使用行動の改善に優れていると考えられている.本コラムでは,ロボット療法と課題指向型アプローチの特徴や併用,そして比較について,解説を行う.

     

1.脳卒中後に生じる上肢麻痺に対するアプローチのエビデンスと特徴

 脳卒中患者の約80%は片麻痺を呈し1,そのうち25%は発症後5年間で日常生活における麻痺手の随意的使用が困難になるといわれている2.その後,脳卒中患者の運動機能や日常生活動作(ADL)の回復は低下するため,脳卒中発症後の上肢リハビリテーションが非常に重要である3.
 近年,脳卒中後に生じる上肢機能障害に対して,様々なリハビリテーションアプローチが開発されている.その中でも,米国心臓/脳卒中学会においては,効果の高いアプローチとして,課題指向型アプローチ,Constraint-induced movement therapy(CI療法:課題指向型アプローチの一つ),電気刺激療法,メンタルプラクティス,ロボット療法などを挙げ、推奨している.
 この中でも,ロボット療法と課題指向型アプローチ(CI療法を含む)は,検証するためのランダム化比較試験の数も突出しており,多くの研究によって,その特徴や併用の可能性が示唆されている.例えば,Takahashiら4の研究では,回復期リハビリテーション病院において,一般的なリハビリテーションに加えて,自主練習でロボット療法を実施した群と,一般的な作業療法による自主練習を実施した群にランダムに割付け,比較検討を実施した所,国際機能分類(ICF: International Classification of Functioning, Disability and Health)における身体機能構造のカテゴリに含まれる,麻痺手の機能障害の程度を示すFugl-Meyer Assessment(FMA)の上肢項目については,ロボット療法による自主練習を実施した群が,一般的な作業療法による自主練習を実施した群に比べ,有意な改善を認めたと報告している.しかしながら,ICFで活動・参加のカテゴリに含まれる,麻痺手の実生活における使用行動の程度を示すMotor Activity Log(MAL)については,両群の間に有意な差はなかったと報告している.
 また,Conroyら5の研究では,ロボット療法による活動・参加に関するアウトカムの不備を補うために,ロボット療法と課題指向型アプローチを併用することでどのような結果が導き出されるかについて検証を行っている.彼らの研究では,脳卒中後に上肢麻痺を生じた対象者において,ロボット療法に課題指向型アプローチを併用した群とロボット療法に一般的な自主練習を実施した群について,ランダム化比較試験を用いて,検証している.その結果,ロボット療法に一般的な自主練習を実施した群に比べて,ロボット療法に課題指向型練習を併用した群が,上肢機能および実生活における使用行動ともに有意な改善を示したと報告した.この結果から,ロボット療法と課題指向型練習の指向性は随分異なり,それらの理解は上肢リハビリテーションの実施において,必須であるように思える.

     

2.ロボット療法と課題指向型アプローチの直接比較について

 Chenらは,24名の生活期の脳卒中後上肢麻痺を呈した患者を対象に,筋電駆動型のロボットを用いたロボット療法を実施した群と課題指向型アプローチを実施した群を,クロスオーバーデザインのランダム化比較試験にて,その効果を検証している.その結果,ロボット療法は,両区間において課題指向型アプローチに比べ,課題の実施時間の短縮等,有意な上肢機能の改善を認めた.一方,課題指向型アプローチについては,ロボット療法に比べ,活動参加領域のアウトカムにおいて,有意な改善を示したと報告された.この結果は,前項で示した複数の先行研究とも同様の傾向を辿っており,これらの手法の違いが,アウトカムに与える影響は,存在するように思える.これらの結果からも,脳卒中後の上肢麻痺を呈した対象者に対して,効果を与えるアウトカムを意識した,手法の使い分け,および組み合わせは非常に重要な概念であると思われた.臨床において,手法を選択する場合にも,こういった視点を持って,取捨選択を実施することが必要であると考える.

     

引用文献
1.Langhorne, P., et al. Motor recovery after stroke: a systematic review. The Lancet Neurology. 2009;8(8):741–754.
2.Geddes, J. M., et al. Prevalence of self reported stroke in a population in northern England. Journal of epidemiology and community health. 1996;50(2):140–143.
3.Kwakkel, G., et al. Predicting activities after stroke: what is clinically relevant?. International journal of stroke. 2013;8(1):25–32.
4.Takahashi, K., et al. Efficacy of upper extremity robotic therapy in subacute poststroke hemiplegia: an exploratory randomized trial. Stroke. 2016;47:1385–1388.
5.Conroy, SS., et al. Robot-assisted arm training in chronic stroke: addition of transition-to-task practice. Neurorehabil Neural Repair. 2019;33:751–761.
6.Chen, YW., et al. Coomparative effects of EMG-driven robot-assisted therapy versus task-oriented training on motor and daily function in patients with stroke: a randomized cross-over trial. J NeuroEngineering Rehabil. 2022; 6

     

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