TOPICS

お知らせ・トピックス
竹林崇先生のコラム

脳卒中後の感覚障害に対する感覚再教育と課題指向型トレーニングの併用練習の可能性について

UPDATE - 2022.3.18

<抄録>

 脳卒中は,成人における機能障害,活動と参加の制限をもたらす疾患であり,その後遺症は長期にわたって,対象者に負の影響を与えると考えられている.脳卒中を罹患した対象者の多くは,半身の運動麻痺とともに,軽度から重度の感覚障害を有しており,これらが対象者の麻痺の回復および実生活における活動や参加の制限因子になっているとも考えられている.近年,運動麻痺に対して,多くの治療法が開発され,エビデンスに応じたアプローチの選択幅が増えたことは事実である.一方,感覚障害に対するエビデンスに基づくアプローチの開発は限定的であり,知識が限られている.本コラムにおいては,感覚障害の改善を目的とした,感覚再教育と課題指向型アプローチの併用療法の現状について,解説を行う.

     

1.脳卒中患者における感覚障害に対するアプローチの背景

 脳卒中は,成人における機能障害,活動と参加の制限をもたらす疾患であり,その後遺症は長期にわたって,対象者に負の影響を与えると考えられている.脳卒中を罹患した対象者の約半数以上は,触覚,温冷覚,固有覚,痛覚の低下を特徴とする半身の感覚障害に悩まされている1.感覚障害は,手触り,重さ,形の種別や大きさを識別する能力,身体の位置や動きを感知する能力,などが一般的であり,これらが損なわれると,日常生活活動における手の使用に大きな負の影響を与えると考えられている2.
 また,感覚障害は,脳卒中後の後遺症の代表格である麻痺の改善にも影響を与えると言われており,多くの研究で感覚障害の程度が麻痺側の上下肢の運動能力と関与しているとも考えられている.また,脳卒中後の感覚障害は,運動麻痺の回復だけでなく,特に上肢では,実生活におけるセルフケアや家事や予科活動などの日常生活活動,応用的日常生活活動において,長期的な手の不使用を促すとも言われており,非常に深刻な問題の一つと考えられている3.
 しかしながら,感覚障害に対するアプローチはリハビリテーションの中でもあまり焦点が当てられておらず,効果のエビデンスも非常に不十分な状況にある.感覚障害を改善するための手法としては,基本的に能動的な感覚練習(手や指を能動できに用いて,異なる質感や物品,道具などを探索的に使用する)と,電気刺激,ホットパックやコールパックを用いた温冷療法,空気圧による間欠的圧迫療法などの受動的な感覚練習に分別される4. ただし,その効果は不明瞭で,受動的感覚練習と握力,巧緻性の間に関連性を認めたが,能動的感覚練習とそれらの間には,関連性を認めなかった,と言った報告5や,逆に能動的感覚練習が,感覚練習が効果的であることを示す研究もあり6,その結論は一定ではない6.さらに,Careyらは,能動的な感覚練習と受動的な感覚練習について,ランダム化比較試験を用いて,直接比較した結果,能動的な感覚受動練習の方が,有意に有効であったと述べている7.これらの結果からも,脳卒中後に生じる感覚障害に対するアプローチのエビデンスはまだまだ不十分であり,一定の方向性が得られていないというところが現状である.

     

2.能動的な感覚再教育と生活における課題指向型アプローチの併用課題の効果について

 Carlssonら8は,脳卒中後感覚障害を有する対象者に対し,能動的および受動的な感覚再教育課題(1. 異なる触覚を能動的に探索し,検出するような課題,2. 異なる素材,形状,質感,重さ,温度などを能動的に探索し,検出するような課題,3. 異なる物品を触覚物体認識と固有感覚を用いて,能動的に探索し,検出するような課題)に加え,課題指向型トレーニング(1. 靴紐を結ぶ,ボタンをかける,ファスナーを開ける,2. ボトルに水を注ぐ,カトラリーを使う等の巧緻動作練習と両手動作練習,3. カードゲームやボードゲームにおいて,手を使用する)を実施した介入群と,課題指向型練習のみを実施した対照群にランダムに割り付け,比較検討を実施している.その結果,介入群は対照群に比べ,触覚閾値が有意に改善したと報告している.さらに,各群個別の変化については,介入群においては日常生活における手の使用頻度と動作の質,重要な作業における作業遂行に対する満足度が有意に改善し,対照群においては重要な作業における作業遂行度が有意に改善したと述べている.これらの結果から,能動的な感覚再教育課題は,一定の効果を示す可能性が示唆された.

     

引用文献
1.Connell LA,et al. Somatosensory impairment after stroke: frequency of different deficits and their recovery. Clin Rehabil. 2008;22:758–67.
2.Carey LM,et al. Frequency of discriminative sensory loss in the hand after stroke in a rehabilitation setting. J Rehabil Med. 2011;43:257–63.
3.Pollock A, et al. Interventions for improving upper limb function after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2014:Cd010820
4.Schabrun SM, et al. Evidence for the retraining of sensation after stroke: a systematic review. Clin Rehabil. 2009;23:27–39
5.Yekutiel M, et al. A controlled trial of the retraining of the sensory function of the hand in stroke patients. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1993; 56:241–4.
6.Carey L, et al. SENSe: Study of the Effectiveness of Neurorehabilitation on Sensation: a randomized controlled trial. Neurorehabil Neural Repair. 2011;25:304–13.
7.Carlsson H, et al. Efficacy and feasibility of SENSory relearning of the UPPer limb (SENSUPP) in people with chronic stroke: a pilot randomized controlled trial. PMR. 2020: online ahead of print.

     

<最後に>
【5月9日他開催:作業の健康への貢献 -高齢者の予防的作業療法-】
小児期特有の疾患に関わるセラピストにとって有用となる評価の視点について解説します。
https://rehatech-links.com/seminar/22_05_09/

     

【オンデマンド配信:高次脳機能障害パッケージ】
 1,注意障害–総論から介入におけるIoTの活用まで–
 2,失認–総論から評価・介入まで–
 3,高次脳機能障害における社会生活支援と就労支援
  –医療機関における評価と介入-
 4,高次脳機能障害における就労支援
  –制度とサービスによる支援・職場の問題と連携–
 5,失行
 6,半側空間無視
 通常価格22,000円(税込)→16,500円(税込)のパッケージ価格で提供中
https://rehatech-links.com/seminar/koujinou/

前の記事

脳卒中後片麻痺を呈した対象者の日常生活活動の回復において,感覚障害,認知機能障害,上肢機能障害は影響を与えるのか?

次の記事

脳卒中後に上肢麻痺を呈した対象者におけるロボット療法と課題指向型アプローチの効果の違い