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脳卒中後片麻痺を呈した対象者の日常生活活動の回復において,感覚障害,認知機能障害,上肢機能障害は影響を与えるのか?

UPDATE - 2022.3.15

<抄録>

 脳卒中は,その損傷部位によって,様々な障害を後遺症として残存させる.その中でも,感覚障害や認知機能障害,さらに,上肢機能障害は,脳卒中患者の日常生活活動の低下に大きな影響を与えると考えられている.本コラムにおいては,脳卒中後の代表的な障害である感覚障害や認知機能障害,さらに,上肢機能障害が,脳卒中患者の日常生活活動の低下にどのような影響を与えるかについて,解説を行う.

     

1.脳卒中患者が呈する障害について

 脳卒中患者の多くは,体性感覚障害,上下肢の麻痺をはじめとした運動障害,認知機能障害など,様々な領域で長期にわたる障害を抱えている.いくつかの研究では,これらの障害が日常生活活動の低下に影響を与えていると報告されている.脳卒中患者が疾患とそれに伴う障害を罹患した後に,リハビリテーションは非常に重要な役割を担っている.しかしながら,対象者の日常生活活動の低下の因子を理解せずに,リハビリテーションを実施しても,効果的なアプローチは提供できない.
 体性感覚障害,上下肢の麻痺をはじめとした運動障害,認知機能障害と言った障害の中で,特に上肢の麻痺をはじめとした運動障害は,急性期においては患者の50-80%に残存すると言われており,多くの対象者の日常生活活動の低下およびQuality of lifeの低下につながっている.Baeら1は,脳卒中後の慢性期の患者の握力・ピンチ力と日常生活活動の自立度の関係性を調査した結果,患者の麻痺側の上肢の筋力が日常生活活動の自立度と関連することを明らかにした.また,Franceschiniら2は,Box and Block Testにより評価した麻痺側上肢の運動機能が,日常生活活動における遂行度を最も確実に予測する因子であることを明らかにした.これらの知見から,リハビリテーションにおける介入についても,Bütefischら3は,麻痺側の手と指に一定の動作を繰り返し実施する反復練習が,握力向上に寄与することから,麻痺手における反復練習の重要性についても述べている.
 次に,体性感覚の障害も,脳卒中患者の後遺症の一つとして,頻繁に臨床現場で観察することができる.いくつかの先行研究においても,良好な日常生活活動の遂行において,体性感覚が大きく関連することが言われている.例えば,日常生活における手の使用においては,麻痺手の運動機能や巧緻性だけでなく,運動コマンドの生成を調整し,補助するための触覚,位置覚,運動覚をはじめとした体性感覚が予後予測因子であると考えられている4.
 最後に,認知機能の障害も,「高次脳機能障害」という言葉で示されるように,脳卒中患者の後遺症としては代表的なものの一つである.日常生活活動や手段的日常生活活動の様々な構成因子の中で,認知機能障害は有意な関連性を持つ因子の一つとされている.さらに,先行研究では,構造方程式モデリングを用いた研究において,体性感覚処理と高次脳機能障害による認知処理の過程において,階層的な経路が示されている.これらのことから,脳卒中患者の日常生活活動に対するアプローチは,上肢の運動障害に対する介入と合わせて,体性感覚障害および認知機能障害に介入する必要が高いと言えるだろう.

     

2.脳卒中患者における日常生活活動と上肢機能障害,感覚障害,認知機能障害の関連性

 Linら6は,脳卒中患者における日常生活活動と上肢機能障害,感覚障害,認知機能障害の関連性について,生活期の外来に通っている脳卒中患者153名を対象に,構造方程式モデリングを用いて,検討を行っている.研究の結果は,体性感覚は麻痺側上肢の筋力に負の影響を与えものの,麻痺側上肢機能の運動機能を介在因子とした場合,麻痺側上肢の筋力に対して,正の影響を与えることが示された。一方、体性感覚能力は認知能力に正の影響を与え,認知機能は日常生活の自立度にわずかに影響を与えた(有意傾向の関連性が認められている).この結果から,体性感覚障害,麻痺側上肢の筋力,認知機能の向上は,日常生活活動における自立度の向上に正の影響を与えることが示唆された.また,日常生活活動の向上に対して,最もベーシックな部分で,感覚障害が清ている可能性も示唆された.

     

引用文献
1.Bae, J. H. et al. Relationship between grip and pinch strength and activities of daily living in stroke patients. Ann. Rehabil. Med. 39, 752–762.
2.Franceschini, M. et al. Predictors of activities of daily living outcomes after upper limb robot-assisted therapy in subacute stroke patients. PLoS ONE 13, e0193235.
3.Bütefisch, C., Hummelsheim, H., Denzler, P. & Mauritz, K. H. Repetitive training of isolated movements improves the outcome of motor rehabilitation of the centrally paretic hand. J. Neurol. Sci. 130, 59–68.
4.Bechinger, D. & Tallis, R. Perceptual disorders in neurological disease part 1. Br. J. Occup. Ther.49, 282–284 (1986).
5.Koshiyama, D. et al. Hierarchical pathways from sensory processing to cognitive, clinical, and functional impairments in schizophrenia. Schizophr. Bull. 47, 373–385.
6.Lin, SH, et al. Upper extremity motor abilities and cognitive capability mediate the causal dependency between somatosensory capability and daily function in stroke individuals. Sci rep690 (2022).

     

<最後に>
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