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コラム

脳損傷後に生じる痙縮の評価バッテリーであるModified Tardieu Scaleについて

UPDATE - 2022.4.1

<抄録>

 脳損傷後に生じる痙縮は,麻痺側上肢の運動機能の回復や,脳卒中患者の日常生活活動の改善の阻害因子になることが言われている.痙縮に対する治療法および評価法の確立は,本分野においては急務と考えられている.本法においては,痙縮に対する臨床上の評価はModified Ashworth Scaleがほとんどの施設で用いられているが,世界においては別の妥当性・信頼性が確保されたModified Tardieu Scaleを用いる国や地域もある.本コラムにおいては,このModified Tardieu Scaleについて,その妥当性・信頼性を含め,解説を行う.

     

1.Modified Tardieu Scaleについて

 痙縮は,上部運動ニューロン症候群における陽性症状の一つと言われている.痙縮の定義は,速度に依存した緊張性伸長反射の増加を伴う運動障害であると考えられている.痙縮は,脳卒中をはじめ,頸髄損傷,外傷性脳損傷,多発性硬化症など,中枢神経に損傷を伴う多くの疾患で認められると報告されている.脳損傷後に生じる痙縮は,麻痺側上肢の運動機能の回復や,脳卒中患者の日常生活活動の改善の阻害因子になることが言われており,運動障害の転機の悪化や,介護費用の向上にも繋がると報告されている.
 これらの脳損傷後の痙縮を測定するためのアウトカムとして,Ashworth ScaleとModified Ashworth Scaleが有名である.しかしながら,これら2つのアウトカムは,痙縮が有している速度依存的な反応を観察するのではなく,一定の伸長速度で受動的に与えられた関節運動に対する痙縮を有する筋肉の反応を観察するため,一部の研究者の間では,その有効性に疑問を呈されている.
脳損傷後の痙縮を鑑みる上で,上記に示したAshworth ScaleやModified Ashworth Scaleは,痙縮評価におけるゴールドスタンダードと考えられているが,これらのアウトカムの他にも,世界ではTardieu Scaleと言った痙縮アウトカムも用いられている.Tardieu Scaleは,Ashworth scaleよりも痙縮の識別において,有意に検出率が高いことが先行研究において示されており2,評価の際には知っておいて損のないアウトカムであると筆者は考えている.Ashworth Scaleに対するTardieu Scaleの最大の強みとしては,異なる速度を用いて受動伸展に対する痙縮筋の反応を測定することにより,痙縮の存在と重症度を特定できることと考えられている.これらのアウトカム特性により,Ashworth scaleやModified Ashworth Scaleに比べて,痙縮の有する速度依存的な変化を鋭敏に反映することが可能であると考えられている.この手法については,Heldら3が開発し,Boydら4が,手法について標準化をし,Modified Tardieu Scaleとして現在は,持ちいられている.Modified Tardieu Scaleは,R1, R2, R2-R1, X scoreからアウトカムが成り立っている(詳細は以下に示す)

     

R1:速い速度での受動伸長の際に痙縮筋の有する抵抗が急激に増加する角度を示す
R2:ゆっくりとした速度での受動伸長の際の関節可動域
R2-R1:この値が小さいと拘縮,大きいと痙縮を示す
X score:評価中に受動ストレッチを行った際の抵抗のタイプをGrade0-5で示す

     

ただし,臨床において,Modified Tardieu Scaleが使用されるようになってから,20年余りが経過しているにもかかわらず,このアウトカムの特徴を検討した研究は非常に少ない.さらに言えば,系統的レビュー等も少なく,数本に過ぎない.

     

2.Modified Tardieu Scaleの妥当性・信頼性について

 2006年にTardieu Scaleの妥当性・信頼性に関するシステマティックレビューが報告されている5.この研究においては,理論的には,Tardieu Scaleは,Lanceの痙縮の定義により忠実であるアウトカムであると認めている.この尺度の妥当性と信頼性を調査した文献は少なく,いくつかの研究では,Tardieu Scaleは,ボツリヌス毒素による治療後の変化に対して,他の測定方法よりも感度が高いことが確認されたと報告している.しかしながら,多くの研究が小児領域の研究であったことから,成人の神経症患者のさまざまな筋群に対して,尺度の妥当性と信頼性を明らかにすることが必要と,限界が示されていた.次に,2021年のShuら6のModified Tardieu Scaleに関するシステマティックレビューでは,対象となったほとんどの論文で,評価者間,評価者内,テストレテストの信頼性が良好から優れたレベルで報告されていた.しかし,1件の研究結果では,妥当性・信頼性を伴っておらず,この結果に基づくならば,Modified Tardieu Scaleの有効性には疑問が残るとしている.
 これらの研究から,今後の研究は必要であることはもちろんだが,Modified Tardieu Scaleは有効なアウトカムである可能性が高いことが言える.

     

引用文献
1.Pandyan AD, et al. A review of the properties and limitations of the Ashworth and modified Ashworth scales as measures of spasticity. Clin Rehabil 1999;13:373–83.
2.Patrick E, et al. The Tardieu scale differentiates contracture from spasticity whereas the Ashworth scale is confounded by it. Clin Rehabil 2006;20:173–82.
3.Held J-P, Pierrot-Deseilligny E. Reeducation mortrice des affections neurologiques. Paris: J.B. Baillière et fils, 1969
4.Boyd RN, et al. Objective measurement of clinical findings in the use of botulinum toxin type A for the management of children with cerebral palsy. Eur J Neurol 1999;6:s23–35.
5.Haugh AB, et al. A systematic review of the Tardieu scale for the measurement of spasticity. Disabil Rehabil 2006;28:899–907.
6.Shu X, et al. Validity and reliability of the modified Tardieu Scale as a spasticity outcome measure of the upper limbs in adults with neurological conditions: a systematic review and narrative analysis. BMJ Open 2021; 11; e050711

     

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