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ミラーセラピーの現状とメカニズム

UPDATE - 2022.4.4

<抄録>

 ミラーセラピーは様々な神経筋疾患の治療法として用いられており,近年では,脳卒中後の運動障害や感覚障害,さらには疼痛の治療にも利用されている.ミラーセラピーは効果のエビデンスが確立されている治療法であり,多くのランダム化比較試験によって,対照群に対して,肯定的な効果が述べられている.近年では,ミラーセラピーの効果における生理学的メカニズムを測定するために,脳波計を用いた評価も併用されている研究が多く,全ての研究でミラーセラピー時の脳の活性化を示す初見が確認されている.本コラムにおいては,ミラーセラピーの現状と,脳波計を用いたメカニズムについて,解説を行なっていく.

     

1.脳卒中後の機能障害に対するミラーセラピーの現状

 脳卒中は,疾患罹患後早期死亡と二次的な後遺症の残存の原因となる疾患の第二位であり,一過性の問題だけでなく,疾患罹患後長期間にわたる後遺症に悩まされる対象者が多い.その中でも,運動障害は長期間の影響を受ける障害の一つである.特に上肢麻痺の回復に関しては,通常6ヶ月以上かかると考えられている.実際,脳卒中患者の約83%は再び歩行が可能になると考えられているが,麻痺側上肢の完全な機能回復は,全体の5%〜20%のみと言われている1.
 脳卒中後の運動障害を回復させるために,様々な手法が開発,効果検証がなされている.その結果,2016年に発刊された米国心臓/脳卒中学会のガイドラインにおいては,課題指向型アプローチ,Constraint-induced movement therapy(CI療法),メンタルプラクティス(ミラーセラピーを含む),電気刺激療法,ロボット療法が挙げられている.その中でも,ミラーセラピーは,1990年代にRamachandranが,疾患後遺症として,運動障害を有する対象者に対して,ミラーセラピーを開発,導入した.この療法は,麻痺手の前に鏡を立て,その鏡に非麻痺手を設置し,鏡に移すことで,鏡に映る非麻痺手を麻痺手のように錯覚させ,麻痺手の運動をより効率よくイメージすることで,麻痺手の機能回復を図るアプローチとされている.ミラーセラピーには片側法と両側法が存在する.片側法は,非麻痺手のみ活動を行い,鏡に映るその運動を錯覚し,イメージを行うものである.一方,両側法は,非麻痺手の運動と同時に,非麻痺手もできるだけ運動を行い,鏡に映る運動イメージと実際の随意運動を同時に実施していく方法である.ミラーセラピーの方法には,研究者ごとに様々な手続きや設定が存在するが,すべての方法において,運動障害,感覚障害,疼痛に関連する脳領域の活性化を通して,麻痺手の回復に寄与していると報告されている2.

     

2.ミラーセラピーの回復メカニズム

 過去の研究によると,ミラーセラピーの基礎的なメカニズムに関しては,3つの仮説がある.1つ目は,ミラーセラピーは,ミラーニューロンシステムを活性化すると考えられている.ミラーニューロンは個人が他人などの行動を観察した後に,同様の行動を取ろうとした時に発火するニューロンである.次に,2つ目は,同側の脳が同側の手の運動を支配している経路を活性化すると考えられている.さらに,3つ目は麻痺手に注意を向けることで,麻痺手を治療したといった錯覚を通して,運動をイメージすることで,運動に関わる神経ネットワークを活性化すると考えられている.しかしながら,Jaafarら3のスコーピングレビューでは,片側法と両側法のミラーセラピーの間に明確な効果の差はなかったと報告しており,上記3つの仮説のどれが明確に正しいといった結論は,未だ明らかになっていない.
 しかし,近年のミラーセラピーに関する研究では,メカニズムを明らかにするために,脳波による評価を実施している.脳波を用いた研究では,アウトカムとして,アルファ,ベータ,ミューリズムを確認している.これらの研究において,対象者がリラックスしている際には,アルファ波が増加する.一方,より注意を要する作業を実施している際には,アルファ波が抑制され,ベータ波が増強すると言われている.ミラーセラピーにおいては,ベータ波が増強し,運動前夜および前頭前野が増強すると考えら得ている4. 最後に,ミューリズムの抑制が認められるとミラーニューロン系の活動増加を示すと一部の研究者は報告している5.Baeら6は、ミラーセラピー治療後、にミューリズムを測定したところ,両群で有意な抑制が生じていたうえで、ミラーセラピー群が対照群に比べ,より強い抑制が生じていたと報告している.これらから,脳波の研究においては,ミラーセラピー後の機能回復のメカニズムとして,ミラーニューロンの関与を示す研究も散見される.

     

引用文献
1.Sneha S., et al. Comparison of task specific exercises and mirror therapy to improve upper limb function in subacute stroke patients. IOSR Journal of Dental and Medical Sciences . 2013;7(1):5–14.
2.Thieme H., et al. Mirror therapy for improving motor function after stroke. Cochrane Database of Systematic Reviews . 2018;2018(7, article CD008449)
3.Jaafar N., et al. Mirror therapy rehabilitation in stroke: a scoping review of upper limb recovery and brain activities. Rehabi Res Pract. 2021; 2021. 9487319
4.Fairclough S. H., et al. The influence of task demand and learning on the psychophysiological response. International Journal of Psychophysiology . 2005;56(2):171–184.
5.Zhang J. J. Q., Fong K. N. K., Welage N., Liu K. P. Y. The activation of the mirror neuron system during action observation and action execution with mirror visual feedback in stroke: a systematic review. Neural Plasticity . 2018;2018:14. doi: 10.1155/2018/2321045.2321045
6.Bae S. H., et al. Effects of mirror therapy on subacute stroke patients’ brain waves and upper extremity functions. Journal of Physical Therapy Science . 2012;24(11):1119–1122.

     

<最後に>
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