<抄録>
モバイルヘルスプラットフォームとは,Yingyingらの研究内で紹介された「自己管理フィードバックモジュール,看護師・患者間のコミュニケーション支援ツール,健康情報発信ツール,外来患者のフォローアップを支援するためのツール」からなるプラットフォームのことである.行動心理学的な知見から,対象者の行動変容を促すための補助的な装置として,開発されている.これらのコミュニケーション補助ツールと行動心理学を基盤としたエビデンスが確立されている上肢機能練習であるConstraint-induced movement therapyを急性期の対象者に併用したところ,良好な結果が得られたと報告されている.これらについて,本コラムでは,背景等も踏まえて,解説を行う.
モバイルヘルスプラットフォームを用いたConstarint-inudced movement therapy(CI療法)とは
Yingyingら1の研究内で紹介された「自己管理フィードバックモジュール,看護師・患者間のコミュニケーション支援ツール,健康情報発信ツール,外来患者のフォローアップを支援するためのツール」からなるプラットフォームのことである.内容としては,対象者と医療者側のコミュニケーションの向上とモニタリングに関する利便性を向上させるためのツールといった印象のものである.
そもそも,Morrisら2によると,Constraint-induced movement therapy(CI療法)は,1)麻痺手の量的練習,2)反復的課題指向型アプローチ,3)練習によって獲得した機能改善を実生活に転移させるための行動心理学的アプローチ(Transfer package)という3つの心理学を基盤としたコンセプトから成り立つアプローチである.特に,3つ目のTransfer packageは,①麻痺手を練習内や生活において必ず使用するといった行動契約,②麻痺手の現状を自分自身でしっかりと確認し,理解するためのモニタリングを促進する手法,③自ら気づいた麻痺手の問題点を解決するための問題解決技法の指導,から構成される.特に,上記の②と③が対象者の『麻痺手を使用しない』といった行動を『麻痺手を生活の中で使用する』といった行動に変容するために非常に重要と考えられている.
特に,②においては,自分の麻痺手に関する行動を記録する必要がある.従来のCI療法では,麻痺手に関わる日記を毎日記載することで,自分自身の麻痺手がどの程度使用できているのか,さらにはどういった場面において,麻痺手の使用が困難なのか,といった情報をピックアップする必要があった.古典的に用いられてきた日誌法の応用である.しかしながら,臨床においては,多くの対象者から『麻痺した手が右手の場合,左手で日記を書くのは不可能だ』『元々日記を書く習慣がなかったので,毎日多くの日記を書くことが苦痛で仕方がない』といったように,日記に対する拒否反応は非常に多く聞かれたのも事実である.
そこで,筆者らは活動量計や日記の代わりにボイスメモ,動画媒体等を用いて代償することで,対象者の負担を減らすように工夫を行なっていた.そこに対して,Yingyingらは上記のツールを併用したということになる.
さて,彼らの研究の内容について,吟味していきたいと思う.急性期の脳卒中患者68名を対象に,通常のリハビリテーションを実施した群と,モバイルヘルスプラットフォームを用いてCI療法を実施した群に,偽ランダムに割り付け,それぞれ6ヶ月間の介入結果について,検討を行なっている.偽ランダムに割り付けたものの,両群の一般的な特徴に統計学的な有意差はなく,著しい既知の交絡因子は存在しないと推測がなされていた.介入後,モバイルプラットフォームを用いたCI療法を実施した群は,通常のリハビリテーションを実施した群に比べて,Fugl-Meyer AssessmentとBarthel Indexにおいて,有意な改善を認めたと報告している.しかしながら,この研究は,ランダム化および統計的な分析にやや難があるため,結果自体の信憑性に問題がある可能性もある.しかしながら,彼らの結果からは,CI療法と行動をモニタリングし,介入者とのコミュニケーションを促進させるツールは,CI療法において,力となる可能性も考えられる。
今後,こういった工学ツールによる,行動心理学的アプローチの強化が,脳卒中後の上肢麻痺を呈した対象者の行動変容に,より強い力を発揮するのかもしれない。
引用文献
1.Yingying P, et al. Effect of Continuous Care Combined with Constraint-Induced Movement Therapy Based on a Continuing Care Health Platform on MBI and FMA Scores of Acute Stroke Patients. J Healthc Eng 2022; 2022: 5299969
2.Morris DM, et al. Constarint-induced movement therapy: characterizing the intervention protocol. Eura Medicophys. 2006; 42: 257-268
<最後に>
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