TOPICS

お知らせ・トピックス
コラム

リハビリテーションアプローチに関する効果とそれを支持するための臨床研究の考え方

UPDATE - 2022.5.27

<抄録>

 脳卒中に対する疾患を予防する試みは,疾患発症率の低下と発症後の致死率および,重症度の低下を導くと言われている.また,これらに加えて,他職種によるエビデンスを基盤としたガイドラインに基づく,選択肢のあるリハビリテーションアプローチの提供は,脳卒中罹患後の障害からもたらされる対象者の負担を軽減することができると報告されている.実際に,脳卒中罹患後にリハビリテーションを提供する病棟において,質の高いケアや介入は,長期的な施設介護の必要性を軽減するとも言われている.これら,エビデンスに基づくリハビリテーションの効果と,それを下支えするリハビリテーションにおける臨床研究に対する考え方の推移について,このコラムでは解説を行う.

     

1.エビデンスを基盤としたリハビリテーションの効果について

 脳卒中の発症に対する予防の試みは,疾患発症率を低下するだけでなく,発症後の致死率や,脳卒中によって引き起こされる種々の後遺症の重症度を低下させる可能性があると考えられている.また,発症後におけるリハビリテーションにおいても,各国の脳卒中に関連する団体が出版しているガイドライン等を参考にした,多職種協業によるエビデンスを基盤とした選択肢のあるリハビリテーションアプローチの提供によって,効果的な脳卒中リハビリテーションが促進されるとも考えられている(クリニカルパス等の構造的かつ他職種の関わるアプローチ).
 実際に,Stroke Unit Trialists’ Collaboration1は,多職種が介入を行う,脳卒中リハビリテーションを提供している病棟において,システマティックで質の高い介入は,対象者の日常生活活動の自立率を高め,さらには脳卒中後の長期的な介護や施設利用の必要性を軽減すると報告している.このCochrane reviewでは,21のランダム化比較試験を対象にし,合計39994名の患者を対象としたシステマティックレビューとメタアナリシスである.この研究では,脳卒中後に一般の病棟に入棟し,エビデンスを基盤としたリハビリテーションを提供されていなかった対象者に比べて,脳卒中に特化した病棟でかつエビデンスを基盤とした介入を実施していた病棟に入棟していた対象者は,退棟後の死亡もしくは介護施設の利用率(OR 0.78, 95% CI 0.68 to 0.89; P = 0.0003),または死亡もしくは介護依存率(OR 0.79, 95% CI 0.68 to 0.90; P = 0.0007 )が有意に低かったと報告がなされている.
 さらに,脳卒中へのエビデンスを基盤とした介入は,対象者の身体機能の改善を促し,それによって生じる障害を軽減する可能性も多くの研究において,示されている.特に,米国心臓/脳卒中学会が提唱しているガイドライン3において,推奨されているアプローチに関しては,多くのランダム化比較試験によって,その効果が証明されている.これらのように,脳卒中に特化したエビデンスを基盤としたリソースは,世界的にも脳卒中後の対象者の障害を効率的に軽減できる可能性が考えられている.

     

2.エビデンスを構築するための世界の臨床研究に対する姿勢の変化

 上記にて,構造的にエビデンスを基盤とした脳卒中に特化したサービスを提供することで,対象者の疾患罹患後の予後に影響を与えるということを示した.さて,それらサービスを提供する療法士に関する調査も存在する.例えば,WHOの調査では,理学療法士においては,高所得国では,人口100万人あたりで,900名以上の理学療法士が配置されている.一方,低所得国においては,100万人あたり,25名以下と報告されている.さらに,作業療法士に関しては,さらに人数は減り,高所得国においては,人口100万人あたりの400名以上が確保されている一方,低所得国においては,15名以下が大半であるとされている.エビデンスが確立された専門的アプローチを提供できるよう,各国の政府や協会は,専門職の人数を増加させるために,様々な施策を実施している.
 これらに加えて,エビデンスを構築するための臨床研究に関する推移にも変化が認められる.Pubmedを用いた脳卒中リハビリテーションに関するClinical Trial(ランダム化比較試験)の実施数については,1990年代年間50本以下であった研究数が,2000年代に急増し,2014年には350本を超える数にまで到達している.この急激な変化は上記のエビデンスを基盤としたリハビリテーションを提供するために基盤となる知識の構築に対し,世界中における意識が変化した証拠であると考えられる.
 リハビリテーションの起源としては,経験的な知の蓄積によるものだが,近年は上記に示したように,科学的手法によって導き出された知識を基盤とする傾向が主なトレンドとなっている.臨床においても,これらのトレンドを深く理解し,介入を進めることが重要であると思われる.

     

引用文献
1.Stroke Unit Trialists’ Collaboration. Organized inpatient (stroke unit) care for stroke. Cochrane Database Syst Rev. (2013) CD000197.
2.WHO Rehabilitation 2030. A Need to Scale up Rehabilitation. Geneva: WHO (2018). Available online at: http://www.who.int/disabilities/care/Need-to-scale-up-rehab-July2018.pdf
3.Winstein CJ, et al. Guidelines for Adult Stroke Rehabilitation and Recovery: A Guideline for Healthcare Professionals From the American Heart Association/American Stroke Association. Stroke. (2016)47: e98-169

     

<最後に>
【5月9日他開催:作業の健康への貢献 -高齢者の予防的作業療法-】
小児期特有の疾患に関わるセラピストにとって有用となる評価の視点について解説します。
https://rehatech-links.com/seminar/22_05_09/

     

【オンデマンド配信:高次脳機能障害パッケージ】
1,注意障害–総論から介入におけるIoTの活用まで–
2,失認–総論から評価・介入まで–
3,高次脳機能障害における社会生活支援と就労支援
 –医療機関における評価と介入-
4,高次脳機能障害における就労支援
 –制度とサービスによる支援・職場の問題と連携–
5,失行
6,半側空間無視
 通常価格22,000円(税込)→8,800円(税込)のパッケージ価格で提供中
https://rehatech-links.com/seminar/koujinou/

前の記事

モバイルヘルスプラットフォームとConstraint-induced movement therapy(CI療法)を併用した試みについて

次の記事

予後予測研究に頻発するリスク比、オッズ比、ハザード比とは