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コラム

脳卒中発症に関わる危険因子と予防的介入について

UPDATE - 2022.6.3

<抄録>

 脳卒中の再発は,その回数が増えるほど,脳の損傷範囲は広範となり,心身の後遺症は重篤化すると言われている.また,再発の回数の増加に伴い,対象者の日常生活活動およびQuality of lifeも著しく低下すると考えられている.一般的に脳卒中再発の因子については,脳卒中発症の因子と同様のものが多いが,その中でもエビデンスが確立されているものは限られる.本コラムにおいては,脳卒中再発の危険因子とその予防に関する介入について解説を行う.

     

1.脳卒中再発に関わる危険因子と予防的介入

 脳卒中の再発は,後遺症の重症化を招き,対象者の自立生活をさらに困難にすると言われている.脳卒中の再発予防は,対象者のQuality of lifeを考える上では,必須である.ここでは,脳卒中再発に関わる危険因子と予防的介入,さらには,脳卒中の再発率等について述べる.
 初発脳卒中の再発率は,発症からの経過とともに高まる35.これらの要因は明らかではないが,発症から年数が経つにつれ,加齢の影響はより強くなることが要因として大きいと考えられている.また,脳卒中の再発は,出血性脳卒中のほうが高いとする報告36と,虚血性脳卒中のほうが高いとする報告37があり,研究により異なる.死亡相対リスクは,初発よりも再発時のほうが約2倍以上高くなり,入院時点の機能重症度も高くなる.加えて,退院時の機能予後についても,再発時の脳損傷箇所が初発と対側の場合,同側の場合よりも重症化しにより,低下するとされ38,脳卒中の再発は生命および機能予後を不良にすることがわかる.
 基本的に,脳卒中再発の危険因子は,脳梗塞発症の危険因子と同様なものが多い.高血圧については,脳卒中の再発予防と血圧との関連を検討したメタアナリシスによると,適切な降圧療法により,脳卒中の再発率が27%低下したと報告されている39.また,アンギオテンシン交換酵素阻害薬,ACE阻害薬と利尿薬併用群において,実施していない群に比べて,脳卒中および一過性脳虚血発作の再発率を28%減少させたと報告されている40.それらの結果,脳卒中再発予防の目標血圧は130/80 mmHg未満と結論づけている41.
 糖尿病に関しては,大血管障害の既往がある2型糖尿病患者を対象に行われた試験のサブグループ解析にて,脳卒中既往例を対象とした研究において,インスリン抵抗性改善薬により,脳卒中再発率を有意に改善したと報告している(リスク比0.73 )42,43.
 脂質異常症の管理については,脳卒中もしくは一過性脳虚血患者を対象としたメタアナリシスでは,高コレステロール血症の治療薬であるスタチンの投与により,それらが実施されていない群に比べ,脳梗塞の再発が低下したと報告している44.
 上記のような危険因子に対し,薬物療法は重要である.退院時に処方された薬の持続的な使用者の割合は,最初の2年間で45~74%程度に減少していたとする報告があり45,長期的な内服アドヒアランスに配慮した支援体制の必要性が示唆されている.また,薬物療法以外の試みとしては,再発予防につながる介入として,ライフスタイル改善(適度な身体活動,減塩,禁煙,減酒,食生活の見直し)の指導に当事者の行動変容を促すカウンセリング介入を週1,2回,6か月間実施した群では,非介入群と比較して,脳卒中および心血管イベントの累積再発率が低下することが示されている(図2—2)46.
 これらから分かるように,薬物療法だけ,生活指導のみ,とならぬように指導するためのスキームを考えなければならない.つまり,脳卒中の再発を防ぐためには,薬物療法と生活指導の両輪による密な指導が必要になると思われた.

     

引用文献

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<最後に>
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